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異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
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 彫刻品置き場へ

 浄化槽の中に沈められた鉄管はそれほど大きくなく、片手でも持っていけそうではあるが。

「どうやってとるんだよ、これ」

 グレンが呆れながら呟いたとおり、深すぎて手が届かない。端に輪っかみたいなのがついているので、それに鉤のようなものを引っ掛けて吊り上げればなんとかなりそうなんだが……。

「グレン……道具倉庫に鉤つきロープってまだあったと思うか?」

「あ~、どうだったかな。行ってみればわかるんじゃね?」


 一度引き返し、道具倉庫に行って中を探ってみると、幸運なことに鉤つきロープが一つ、ごちゃごちゃと積まれた物の上から発見された。鉤の形といい、ロープの長さといい、前のやつそっくりだ。

「よし。これで取ろう。……アル、どうした?」

 珍しくアルフレッドが眉根を寄せ、鉤つきロープをじっと見つめている。

「このロープ…………いや、なんでもない」

「なんだよ。気になるじゃねえか。このどっかが痛んでたりするのか?」

 グレンが鉤つきロープを掴んで引っ張ったり、ねじったりを繰り返す。

「そういうことじゃなく……前のとそっくりだと思っただけ」

「ああ、きっとよくあるタイプなんだろ」

 グレンはそう言って、ロープの強度に満足したのかさっさとカバンへとしまった。


 その後は何事もなく無事に鉄管も取れ――――私がやるとなかなか引っかからず、グレンが途中からしびれを切らして奪い取った挙句、一発で輪の中に鉤の先端を入れてしまった――――そこを出て、にぎやかな冒険者集団を通り過ぎつつ地下五階水の大部屋に向かうと、今度は扉が音を立てて開いていった。


 部屋の中の水量は半分ほど。藻のはびこる水の中は不気味に静まり返っており、いつもだったら天井や壁にへばりついているはずの蛭の姿も見えない。


 地味に重そうな鉄管をグレンが持ち直し、部屋をぐるりと眺めたので一緒に確認すれば、東側のドア近くには張り出した鉄板があり入りやすいのに対し、西側にはへばりつかないと到底通れなさそうな通路しかなく、ドアまで非常に行きにくい造りになっている。


「鉄管を持っていくのは東側、と。アル、また後ろを頼む」

 振り返りそう言ったところでガチャリとドアの開く音が聞こえ、西側から茶髪でがたいがいいせいか皮鎧がはちきれんばかりになっている男が、何か入っていそうな大きな布の塊を抱えて壁際の細い細い通路へと身を乗り出した。

 ドアにはその男の仲間なのか、もう一人中背の男が現れ、この男もまた大きな荷物を抱えている。


 最初に出てきたがたいのいい男は、迷うことなく背中に重そうな塊を括りつけ、細い通路を壁にへばりつきながらこちらへ動き出した。

 もう一人が見守る中、塊を背負った男は少しずつ距離を詰め、半ばまで来たところで……突然、足を滑らせた。

「危ない!」

 シャロンが叫ぶ。


 男はなんとかしがみつくが、背中の塊は外れ、下の水へと落ちて、ドボンと鈍い音を立てながら沈んでいった。

 見てとれるほど意気消沈しながら、彼は再び来た道をじりじりと戻っていく。

「あのドアの向こう……」

「ああ。おそらく例の彫刻置き場とやらだろうぜ」

 グレンがにやりと笑い、

「……いいことを考えた。先に牢獄から鎖を取ってこよう」

とシャロンたち二人に提案した。


 北西にある拷問部屋にはまだ使える状態の鎖がいくつもあり、その中から使い勝手のいい鉤つきのものを選び、持っていくことにした。迷ったが鉤つきロープの方はその場へ置いていく。


 再び大部屋へ戻り、グレンがさっそく持っていた鉄管の輪っかに鉤を通して持つと、

「いいか、まず俺がこの鎖を持って先行くから、あのドアの前についたらこいつを下げてくれ」

と東のドアを指した。

「なるほど。それなら危なげなく渡れる」

「だろ?」

得意げに笑うグレン。

「んで、後ろはアル坊に頼むぜ」

 アルが了解、と肩をすくめたので、グレンは慎重に通路を渡り始める。続いてシャロンも渡り、張り出した板へと辿り着くと、アルフレッドに合図して鉄管を下ろしてもらう。


 ジャボンッと音を立てて水に入った鉄管を鎖で引き上げると、それは無事に手元に戻ってきた。アルも通路を渡りこちらへ来たので、蔓薔薇の扉を抜けてはしごを登り、毒の部屋へと向かう。


 二つの毒の部屋のあいだにある装置に鉄管を嵌め、ポンプのようなレバーを上下に動かすと、やがて液体が管を通る音が響いてきたので交代で動かし続けて覗き穴を見ると、毒液は左の部屋から右の部屋へと移動していったようだった。レバーの元にはスイッチがあり、どうやらそれでどちらに液体を移動するか選べるらしい。


「……よし、これでここは解決したな。彫刻置き場へ向かうか」

「気をつけて、行こう」

 アルがそう忠告めいた発言をして、耳をすませた。

「何か聞こえるのか?」

不思議に思い尋ねると、首を振る。

「人と魔物は近くにはいない。ただ……通路を通っている最中にくると厄介だから」

「そうだな」

「おい、何今更なこと言ってんだ。先行くぞ」

 グレンがはしごをさっさと下りていったので、続いてシャロン、アルフレッドも下に向かう。


 大部屋に来た瞬間、誰かがバタンとドアを閉める音が聞こえ、ちょうど出ていった後で誰もいなかったので、急いで西側の扉へと渡り、足を滑らせないよう注意しながら鳥のコインを入れて扉を押すと、思いがけず軽く内側へ扉が開き、シャロンはその向こうへと踏み出した瞬間、階段に足を取られそうになりたたらを踏んで、数段下の水溜まりへと足を突っ込んだ。

「うわ」

 その場所は冷えた水が床に浅く流れ、歩くだけでバシャバシャと跳ねる。

「おい、早く調べようぜ。嫌な予感がする」

 後ろから来たグレンが顔をしかめて急かし、アルフレッドも硬い表情で階段と扉、廊下のまわりにある溝を確認した。

「この場所……低いから、多分流れ込む」

 相変わらず言葉は短いが、言わんとするところはわかった。

「要するに、何かの仕掛けでここの中に一気に水が流れ込むかもしれないってことか。急ごう」

 水の張った薄暗い廊下は広く横長になっていて、少し歩くと正面に大きく分厚い焦げ茶の扉が備えつけられていた。

 再度罠がないか調べ、両開きの扉に手をかけて力強く引くと、ギギギと軋みながら開いていき、その中には豪華な天使像や、まるで生きているような意匠をこらされた動物、さまざまな形の置物が並んでいた。そのほとんどが大きく、持ち運びに不便そうだ。

「この女神像なんかは……いったいどれぐらいの値がつくんだろうな」

 薄汚れてはいるが、どうやら黄金でできていて、アルの背と同じぐらいの大きさだから、途方もない価値なんだろうが……残念ながらこちらも床に固定され、運ぶことのできない仕様となっている。

「ちくしょう。こっちの運べそうなヤツは、壊れたのばかりか!」

 グレンが悔しそうに部屋の片隅にいくつも置かれている、戦う人間を模した彫像を蹴りつけた。


 なるほど確かにそれらはこじんまりとしているが、腕や頭の一部が欠けた不良品で、価値が低そうなものばかりだった。

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