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異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
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 余りもの置き場

 地下三階の途中辺りから、何やら急に迷宮が騒がしくなってきていた。

 他の冒険者たちと幾度もすれ違い、広い場所では床に座って話し込んでいるパーティも少なからずいる。

 そして地下四階。階段正面に刻まれた文字と数字に、思わずシャロンたちは呻いた。


〈Ⅳ-42 対の迷宮〉


「こんなに大勢いるのか……厄介だな」

 グレンがげんなりした様子で呟き、それにしみじみ同感しながら、もう一度壁の数字を確認する。

 

 と、その数字は嘲笑うかのように目の前で一つずつ増えていき、最終的には46になった。


「で、どうする?きっとどこいっても人がいるぜ?」

 うんざりしながらグレン。


 しかし、いつからこの迷宮は娯楽施設じみたことになってしまったんだろうか。


「そうだなあ……せっかくだからこの先へ行ってみないか?このコインを持ってるのはまだ少ないはず」

そう言うと階段横の鳥の彫刻がなされた扉の前に立つ。


 あの時はまだ何も知らず、銅貨を入れてみたりしたんだったな……。


「シャロン。気をつけて」

 アルの言葉に頷き、鳥のコインを細い穴に入れる。リン、と澄んだ音がしたので取っ手を押してみると、奥へ開いていく。


「やったぞ」

 他の冒険者に気づかれないよう抑えて言うと、アルとグレンも表情を緩ませ、ともに中へ入る。


 その場所は薄暗く、じっとりと湿っていた。目を凝らせば、大部屋ではあるものの、どうやら壁際に乱雑に箱や木材が置かれ、部屋を狭く見せているようだった。


「おい、明かりをつけようぜ。特に危険なものはなさそうだよな?」

 グレンがアルフレッドにそう確認すると、

「ない。けど、大きな物が多い」

 低い声で答えて、両脇に積まれた物を眺めつつまっすぐ歩いていく。


 ランタンを点けてその後ろに続くと、奥の壁に蔓薔薇の模様の彫られた扉があった。

「なんだか重要な場所っぽいじゃねえか」

「確かに。……罠に注意して、と」

 そう言いつつシャロンは懐からコインを取り出して入れ、扉を開ける。


 するとその向こうには、何の変哲もない、広めの部屋があるだけだった。

「あれ」

「なんだ、期待外れかよ」

 左側には石の壁に直接、高い塔と、泉のある風景が描かれており、生き生きとした情感に溢れている。

「この絵……きっと名のある画家が描いたんだろうな。全然色褪せてないのが不思議だが……」

「そうかあ?絵はよくわからん」

 しみじみと眺めていると、ぐいっと上着を引っ張られた。

「……シャロン、こっち」

 振り返るとアルが、ここに引きずり跡がある、と床を撫でた。


 言われてみれば、確かにかすかな跡があるような……相変わらず目のいい奴だ。


「よく気づけるなこんなの。……するってえと、あれだ。この壁を押せばいいのか?」

 グレンが目の前の壁をぐいぐい押したが、特に変化はない。

続いて、ドスッ、と体当たりする。

「どうだ、動いたか?」

「微妙に動いたような気もするが……よくわからないな」

壁を見つめながら言うと、

「てかおまえらも手伝えって!なにのんびり眺めてんだよ」

「あ、うっかりしてた」

アルと二人でグレンの横に立ち、力を込めて押すと、今度ははっきりわかるほど向こう側へ動いていく。

「よっしゃ。この調子でいくぞ。せーの!」

掛け声とともに力いっぱい押せば、壁はズリズリと後退して、右側に人が数人立てるだけの空間と、ドアが現れた。

「庭園前にあった部屋と同じ仕組みか」手を離せば壁は自然にまた元の位置へ戻っていく。

「おい!閉じ込められたんじゃないのか!?」

 思わず叫ぶと、アルフレッドが首を振った。

「あの線の付き方だと、こちらからも押せる仕組みじゃないかな」

「そ、そうか」

 もう一度床と壁とを見比べていると、

「なあ、開けていいか?待ってるんだが」

グレンがじれったそうに声をかけてきたので頷き、ドアへ寄る。


 開けた先は横長の部屋があり、鎖を巻きつけるような器具と、開閉のためのハンドルが設置されていた。

「この器具はなんのためにあるんだ……?」

などと言いながらグレンがハンドルを調べ、試しにググッと回してみる。手を放した瞬間、ハンドルは勢いよく回って元の位置へ戻ってしまった。

「何か鎖のようなものを巻いて固定するんじゃないか?」

「どうやらそのようだ。となると、あの中を見てみるか」

そう言って彼は部屋の片隅にあるドアを開けてみる。

「……なんか、くさい」

 むわっと汗と埃の匂いが広がり、よくよく見るとそこには使い古された上着やズボンの類が山積みになっていた。

 新しそうなのもあるにはあるが、ほとんどが切り裂かれたような跡やら変な染みがついていて使えそうにない。

「なんだか、こんな風に生活感溢れるものが出てくると、逆に怖いな」

 早急に遠ざかったアルフレッドや、二の足を踏んだグレンとは対照的に、最後まで使えそうなものがないかおそるおそる衣類を引っかき回していたシャロンは、ぼろぼろの皮鎧っぽい何かを放り出し、結局部屋から出た。


「鎖っぽいものねえ……あの拷問部屋になら、たくさんあるんじゃないのか?」

「う……そうかもしれないが、あまり使いたくないな」

 グレンの言葉に、シャロンは思いっきり顔をしかめ、

「ひょっとしたら、あのガラクタ箱が積まれた部屋にあるかもしれない。もう一度調べてみよう」

そう言って戻って探してみたが、残念ながら箱の中やまわりには鎖に使えそうなものは一つもなく、その代わりに古いがまだまだ使えそうな脚立が、奥から発見された。

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