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異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
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 休憩所にての取引

 閲覧に感謝です。待たせてすみません。

 この場所は血が飛び散り死体が悲惨な姿をさらしていたはずだが、それらは影も形もなくなっていた。

女神の噴水からは水が流れ出し、備えられた細い溝を通って北西の隅に流れていく。


 噴水周辺の石のベンチに座り、グレンたちと進める場所をざっと確認していると、突然ドアが開き、体を水浸しにした皮鎧の男たちが四人入ってきた。

「……先客か」

「どうも」

 先頭に髪と髭がひどくカールして顔を覆っている男が一瞥し、四人は反対側に座ったが、開いていた地図に目を止めた短髪の男が、

「あんたらどこまで行ったんだ?」

と興味津々に問いかけてきた。

「ああ、ちょっとそのドアの向こうまで行って帰ってきたところだ」

とグレンがドアの一つを指差すと、なるほど、と頷く。

「じゃあ、俺らと――――」

「ラット、余計なことしゃべんじゃねえぞ」

 ラットと呼ばれた青年にカールしたくせっ毛の髭面が釘を刺し、ややあって四人でひそひそ話し合ったかと思うと、ゴソゴソ袋から天使の置物を取り出してきた。

「なあ、ねえちゃんたちこれを買わねえか?この迷宮で見つけた掘り出しもんだ。今なら100銀貨でいいぜ」

 グレンは髭男が出したその置物をちらりと見て、

「おいおい、誰がそんなガラクタ買うんだ。ただでさえこの先滑りやすいってのに。銀貨5枚でも買わねえぞ」

呆れたように言う。

「いやいや、これはガラクタじゃねえって。絶対に価値のある品だ。本当は手放したくないんだが、まだまだ探索を続けなくちゃならねえから、特別に売るんだ!」

 身振り手振りの熱演に、冷めた眼差しを向け、

「どうせ持ってきたはいいが、扱いに困るから押しつけようってんだろ。そうだなあ……3銀貨でも高すぎるな」

「おいおいッ聞いていればつけあがりやがってッ」

 別の方からいきり立つ双剣使いに、

「お、やんのか?ああ!?」

不敵な笑みを浮かべるグレン。

「あ~、ここでの諍いはちょっと……」

「グレン、何考えてるんだ」

 シャロンがラットという男とそれぞれ仲間を止めに入る。


「わかった、3と半銀貨だ。これ以上は譲れねえ」

 髭もじゃの男が言えば、グレンも鷹揚に頷き、

「よし。それで構わんが、条件がある。この像、どこで見つけたんだ。その場所もくれたら買ってやる」

「クソッたれ。この部屋の向かい側だ。これでいいだろボケナスが。さっさと払え!」

「口の減らん奴だな。その口、ねじ切ってやろうか?」

 再び始まりそうな喧嘩に、

「グレン、もういいだろ!出発するぞ!」

シャロンが大声を上げると、グレンは舌打ちして像を相手から奪うと代金を放り投げた。


 男たちの罵声を背にドアを抜け、シャロンたち三人は水位の下がった水の大部屋へと戻ってきた。


 壁に空いた穴からザアザア細い水の滝が流れる音を聴きながらチェックした向かいの壁には細い通路とドアがあり、そこへの道は、北西に上げてある板で繋がっている。


「そういえばこの前はグレンを助けるのに必死で下ろし忘れてたな。下ろす仕掛けが牢屋への通路にあったはずだ」

 シャロンが苦笑いをしながら、今からもう一度行くか、と言えば、二人の同意の頷きが返ってくる。


 グレンのカバンはアルと同じ肩掛けだったので、彼から置物を預かってリュックに入れ、バランスを取りつつ横向きに通路を渡っていく。蛭はもちろんいつものように出たが、今回は数も少なく、襲われずにすんだ。


 通路から扉へ入り、相変わらず黒い蛇がとぐろを巻く牢を突っ切り、気になっていた拷問部屋と浴室っぽい部屋を繋ぐパイプをチェックして――――ひねると取り外しできる仕組みのようだったが、錆びていて動かなかった――――それから板の鎖を下ろす。


 また大部屋へ戻り、板の上に立って細い通路とその中ほどにあるドアを眺めてみる。開けて入るのに苦労しそうな位置だったが、行けないことはない。

「僕がいく」

 珍しくアルフレッドがやる気を出し、細い通路を進んでいく。ドアのところに到達すると、何やらガチャガチャいじっていたが、やがて戻ってきた。

「……開かない」

「なんだって!?あいつら嘘を吐いたか」

 こりゃいい脅しの材料だと、グレンは一見にこやかに休憩所へ向かい、どうやら鎧や服を脱いで乾かしていたらしい四人組に襲いかかり、くせっ毛髭男を締め上げた。

「く、くるしぃ」

「おいこら、どういう了見で騙した!?ドア開かねえじゃねえか!」

「ま、待て。僕らは嘘は言ってないっ」

 ボサボサと茂みのような髪、やけに目のあたりが窪んだ男が慌てて締めているグレンの腕を叩きつつ訴えかける。

「あ~ひょっとしたらアレじゃないかな。俺らあそこでいろいろしてたら水が来ただろ?」

「ん?どういうことか、ちゃんと説明しろ」

ドサリともじゃ髭男を下ろし、どっかと石のベンチに座る。


 グレンはギラつく眼差しで四人を睨みつけているが……なぜだろう、面白がっているような気がするのは。


 咳き込む髭男の横で双剣使いが、声を張り上げる。

「俺たちが入って調べてる時、壁からどんどん水が流れ込み始めたんだ!もし開かないってんならそのせいだろッ」

「水ねえ……他に気づいたことはないのか?罠のようなものとか」

「ない。またすぐ入れるようになるんじゃないのか。もう出てってくれ!」

 叫ぶ男に、グレンは鼻で笑い、

「ああ、そうするさ。もしこれが嘘だったらどうなるか……覚えておくんだな」

と悪役のような捨て台詞を吐いて休憩所を出たのでシャロンたちも後に続く。


「よし、これでいい情報がタダで手に入ったな」

 出た後のグレンの表情は、うってかわって明るく、人の悪そうな笑みが浮かんでいる。

「はは……やっぱり芝居か」

「あの手のは脅すに限るぜ。こっちが大人しくしてるとつけあがるからな」

 笑顔で腕をゴキゴキ鳴らし、

「で、どうする?開くのを待つか?」

「いや。確か、地下四階に像を設置する仕掛けがあったから……まずこれで確かめてみよう」

「たぶん違うと思う」

 アルフレッドが言い、万が一ってこともある、とシャロンは返して立ち上がった。


 それからいくつかの戦闘を難なく切り抜けて地下四階、四つの石像が置かれた部屋で天使の像を置いて確かめてみたものの、やはりというか、案の定、仕掛けが動くことはなかった。


「あ~、どうする?」

「そうだな……疲れたし、一度町に帰ろう」

 賛成、とアルフレッドが言って……シャロンたち三人は町へ戻り、天使像を朝一で好事家の使者に売りつけようと約束を取りつけた後宿へ行き、一日しか経っていないのに、体感的には随分久しぶりに、じめじめしてない部屋を堪能することができた。

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