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異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
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 暗中模索

 タイトル文字どおりの話。

再び地下庭園へと戻ってくると、明るい光と虫の羽音、暑くも寒くもないほどよい空気が体を包み込む。

「じゃ、さっそく開けてみっか」

グレンが倉庫の鍵を使い、ガチャリと回して罠などないか確認してから開ける。

中は……なんの変わりもないただの園芸倉庫で、コップや鍬などが倒れかかっていた。

「縄ばしごまであるな……」

 グレンとアルが道具をあれこれひっくり返して使えるものを身繕っているので、こちらは穴堀りに使う道具を壊れてないか確かめ、一番馴染むのを手に取った。

「お、スコップか。じゃあ俺は鍬で」

「……」

 アルフレッドも無言て鋤を構え、三人で庭園の一角に向かう。

「これで出てきたのがガラクタだったら……花の種でも植えるか」

「お~そうだな。俺はイモとか食べれるもんにするぜ」

「……もし種があったら今すぐ食べる」

「おいおい、そんなに飢えてんのか?半年ぐらい、すぐじゃないか」

 グレンは自分の冗談にウケたのか、肩を震わせている。

(まあ、その頃には迷宮は閉じてるだろうな)

 心の中で呟きながらもシャロンはアルフレッドとともに次々土を掘り進んでいく。


 すると、スコップにガチッと錆びた鉄板が当たり、ゆっくり土を払うと取っ手が下から現れた。

「よっ……!」

 意外に重く、三人でぐっと持ち上げてみると、下にはぽっかりと穴が空いていた。真っ暗な闇が奥まで続いていて、かなり深そうだ。

「……どうする?この穴、どこかへ通じているんだろうか」

 抜け道と見せかけて罠、という可能性もあるが……。

「こういうときはまず、明かりを落としてみようぜ」

 グレンが倉庫に落ちていたボロ布と縄ばしごを持ってきて、ボロ布に火打石で着火すると、静かに穴に放り入れる。

 火は四角く長い穴を照らしながら落ち、随分下で止まった。

「火がまだついてるってことは、空気はあるらしいな」

「……縄ばしごを」

 アルフレッドが縄ばしごの縁を杭で強く固定し、中に下ろして揺らし、罠が発動しないか確認して頷いた。

「行ける、はず」

「や、やっぱり降りるしかないか……」

「なんだ、怖がってんのか?」

「うるさいな、こういう不安定なものは苦手なんだ」

「じゃ、俺とアルが先行くぜ。落ちてきたら受け止めてやるよ」

「……………いちおう、頼んだ」

 しかし落ちないようにしようと固く決意して、二人が降りる後ろから揺れるはしごに、一歩一歩足を踏み下ろしていく。


 暗いし、揺れる。しかも深い。


 実際は大したことないのかもしれないが……見通しがきかないというのはそれだけ恐怖を感じさせる。やたら長く降りているような時間の後、無事下に着いた時にはシャロンは二人より汗を余分にかいていた。

 火は次第に細くなり、とうとう燃え尽きて辺りは真っ暗になる。


「大丈夫か、嬢ちゃん」

「……大丈夫だ。すぐに引き返す、なんてことになったらさすがに辛いが」

 カタカタ、カタカタ。

 シャロンが深呼吸して気持ちを落ち着かせていると、遠くの方から規則的な音が聞こえてきた。慌てて持っていたランタンに火を入れ、闇を照らし出す。


 カタカタ、カタカタ身を震わせながら近づいているのは……体中に針をつけ、車輪で動く十数体の木彫りの人形だった。

「うわッ」

 グレンが斧を、シャロンが慌てて剣を抜き、人形へ斬りつけようとして、

「待った!床が」

アルフレッドが制止をかける。


 よくよく下の暗がりを照らしてみれば、そこにはあるはずの床がなく、闇が口を開けているばかりである。

 人形は落とし穴ギリギリまで来ると、ピタリと向きを変え、再び元来た道を戻り始めた。


「ふぃ~、なんて陰湿な仕掛けだ」

 グレンが手の甲で汗を拭い、人形が離れたのを見届けてから穴の距離を測り、勢いよく飛び移った。

「ランタン貸せよ。照らしといてやる」

「わかった」

 ランタンの火を一度消して投げ渡し、グレンが火をつけるのを待ってからシャロンとアルフレッドも穴を飛び越え、床に降り立った。


 それから歩き出そうとして……再びアルフレッドに止められる。

「アル、おまえひょっとして夜目が効くんか?」

「……だいたい」

「じゃあ、この先に何がある」

「床に穴がいっぱいある」

 このぐらいの、と両手の指で丸を作ってみせた。

「あああ、思いっきり罠だな」

「後ろに穴、前にも穴、か」

 シャロンがランタンを高く掲げると、確かに前方の床には無数の穴があった。しかし、よく見ると穴が開いていない場所もあるようだ。


 そんなことをしている間にも、人形のカタカタ遠ざかる音が暗闇に響いていて、薄気味悪い。


 あれ?何か気になるんだが……。


「シャロン、どうかした?」

 アルが首を傾げてこちらを見る。

「何考え込んでるんだか知らないが、早く行っちまおうぜ。床の穴のないとこだけ、慎重にな」

 グレンがさっそく穴のない床を踏みしめ、次の場所に向かおうとして、


 ジャキンッ!


 突如として穴から腕ほどもありそうな針が出現し、彼の足をかすめた。


「うおッ!危ねえ危ねえ」

 一瞬蒼褪めたものの、飄々とした態度を取り戻すグレン。無事な彼の姿を見てほっとしつつも、シャロンはその奥を見つめ、もやもやした思いの正体について考えをめぐらせた。


 カタカタカタ、とだんだん小さくなっていた音は、ピタリとやんでいる。


「あ、そうか!まずい。グレン、引き返せ!私が先に行く」

「なんだ、どうした?なんで急に……」

 中ほどまで進んだグレンが怪訝そうに振り返り、同時にその向こうでカタカタカタ、という音がまた聞こえ始めた。……こちらへ向かって。

「後ろ!人形だ。端に来ると引き返すようになってるんだ!」

「うわ、こりゃやべえ」

 グレンが慌てて罠を避けつつ戻り、それと引き換えに先行する。

「最大風力!」

 風の剣に力を籠めると、風は荒れ狂い、人形の群れを薙ぎ倒した。


 シャロンは体中に襲う倦怠感を堪え、ランタンで先を照らして道を覚え込むと、そのままそこにランタンを置き、穴を避けて安全な場所へと飛び渡っていく。


「し、死ぬかと思った」

 肩で息をしながら振り返ると、二人も危なげなく罠を避け、こちらへと向かってくるところだった。

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