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異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
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 灼熱と蒸気の部屋

 灼熱の部屋に行く前に、グレンが今までの情報を整理したいと言ったので、地下五階への階段前に陣取り、地図にこれまであった水門開閉装置の場所を記入していく。


「こうして地図を眺めてみると、やはり広いな。二人でも大変なのに、一人でなんて相当きつかったんじゃないのか?」

 シャロンがそう尋ねると、彼は笑いながら、

「まさか。こんな風に時折どっかのパーティーに混じって協力したりしてたに決まってるじゃねえか。でもま、俺はどうもぞろぞろお仲間と行動するのが苦手でね。興味のある方すぐ行っちまうもんで……しょっちゅう文句ばっか言われてた。やっぱり一人に勝るものはねえ」

「そういうものなのか……?」

「そういうもんだよ」

 首を傾げるシャロン、特に興味もなさそうに柔軟をしているアルフレッドを尻目に、グレンは地図をトントンと叩く。

「おし、予想通りだ。それぞれ地下五階の水門の真上にあるみたいだな」

「これまでちゃんと確認してきたのは二つしかないのか……」

 がっかりしていると、

「おいおい。ここにあるのを忘れてもらっちゃ困るぜ。なんなら見てみるか」

グレンが立ち上がり、片隅の壁を蹴りつけると、その部分だけくるりと半回転してそこに小部屋が現れる。

「あつッなんだこりゃ」

 グレンが叫び、飛び退る。近づくと、部屋はやけに蒸し暑く、奥に装置がぽつんと置いてあった。熱い空気は回転壁の脇の穴から流れてきているようである。

「……」

 アルフレッドがまず穴の位置、それから開閉装置を確認して、早々に部屋から出た。

「俺が前見た時は、こんなに熱くなかったんだが……どうなってんだ」

グレンが汗を腕で拭い、

「この隣はいったい何があるんだろう?」

シャロンが穴を覗き込むが、管になって壁向こうと繋がっているらしい、ということ以外わからなかった。

「この向こうは、あの部屋じゃないかな」

 アルフレッドが部屋の外の壁をじっと窺い、そう呟く。


 まず確かめてみようと、シャロンたちは再び水の大部屋を通り、地下四階へのはしごを登って蒸気の上がるドアへと戻ってきた。

「じゃあ、せーので開けるからな。行くぞ、せーのッ」

 グレンが濡らした布を巻きつけてドアを開ける。すると中から灰色の煙が吹き出し、すぐに彼がドアを閉めた。三人ともゲホゴホッとむせながらはしごの場所まで下がり、下からの空気を吸う。

「なんか、わかったか?」

 煙が沁みて涙目のグレンがこちらを向く。

「ちらっとだが……部屋の中央に炎が見えた」

「炎……。それで、か」

 そう言って何やら考え込む。


 部屋に安全に入るためにはまず火を消さないといけないが……。


「シャロン。確か、道具があったはず」

 アルフレッドがさりげなく助言してくる。

「そうか!グレン、あれだ。庭園で見つけた、水を溜める道具。あれを使えば……って、煙で水をかけれないじゃないか」

「いや、俺もそう考えた。多分だが、さっきの隠し部屋。あそこに繋がってるんじゃないか?あの穴に水を入れたらどうだろう」

「それなら、物は試しだ。やってみよう」

 アルにこっそり礼を言い、はしごを下りてまた地下四階へ戻っていく。


 庭園からタンクに水を入れ、ホースと一緒に開閉装置のある隠し部屋に運び、穴から水を流し込めば、ジュウジュウ音がして蒸気がそこら中に立ち込めた。


 充分に水を注ぎ入れた後、また階段を下りて地下五階へ。いいかげん足が疲れてきた……。


 いったりきたりしていると、遠目に他のパーティを目撃したり、すれ違ったりもしたが、お互い特に何も話したりせず、気が向けば挨拶だけしてさっさと通り過ぎる。


 水の溜まる大部屋まで来ると、誰かが水門を開いたのか少しずつ水が引いていて、例の蛭がうようよしていた。

 通る道筋に塩を撒いてみると、面白いぐらい縮み上がり、慌てて逃げていく。早く気づけばよかった、なんて思いながら蔓薔薇の扉を開けてはしごを上がり、例の熱の部屋まで来ると、多少の煙と熱は残っていたものの、嘘のように炎は消え失せていた。


 真ん中の、炎が燃え盛っていたと思われる場所には、鉄の箱を取り囲むようにして小さな穴と装置がくっついていて、まだ熱かったので、剣で蓋をこじ開けた。


「で、中の鍵はどうやって取るんだ?」

 グレンが箱を覗き込む。シャロンは悩んだのち、カバンから釣り針を取り出し、ロケットの細い鎖に繋いでうまく引っ張り上げた。


「この鍵はどこの鍵なんだろうな」

 目の前にぶら下げてじっくりと観察していると、アルが庭園倉庫の鍵っぽい、と隣から返事をする。

「そうか?まあ、鍵が必要なのは今のところそこしかないか……」

「行ってみようぜ」

 グレンがさっさと部屋から出る。


「そういえば、ここもなんとかしないと」

 三つのドア。毒の部屋を繋ぐ装置。

「そうだなあ……浄化薬が見つかればいいが」

「……」

 グレンの言葉に頷きながらも、シャロンは妙に引っかかるものを感じていた。


 真ん中の部屋の装置……何か足りない気がするんだが……。


「アル、この真ん中の部屋……変な感じしないか?」

「通す穴が二つ。飾りじゃなければ」

「足りないのは、繋ぐパイプ、か?」

 確か装置に繋がれた鉄管が拷問部屋にあった気がする。しかしあれは……固定されていたから取り外すのは無理そうだ。


「なんだ、どうした?」

 はしごを降りかけていたグレンが頭を出して尋ねてくる。

「これとよく似たのを、拷問部屋で見かけたんだ」

「そうか。だったら、そこも寄らないとな。まあ、まずは庭園だ」

そう言ってひょいひょいと降りて行ったので、シャロンたちもまた後を追いかけてはしごを降りていった。

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