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異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
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 開けられない扉、開かないドア

 閲覧感謝です。

 サイラスのパーティが去り視界が広がって、長い廊下は、登ってきたはしごに向かい合うように三つのドア、廊下の奥にも一つドアがあるのがわかるようになった。

「さて、それじゃあ確認するか!」

「熱。それから毒、か。ひとまず、奥の扉から行きたいんだが」

 シャロンの提案に後の二人も頷き、北の方へと歩いていく。ドアまで辿り着くと、すぐにサイラスの言っていたことがわかった。ドア自体部屋を密封するかのように隙間なく、全体的にうっすらと湯気が立ち上っている。

 試しに手袋をして取っ手に軽く触ってみたが……熱くてとても掴めるものではない。


「おかしいな。下の火は消したんだが、これは……濡らした布か何かがあれば開けられるだろうが、この熱気では」

「布なら、簡単に手に入るけど」

アルフレッドがぼろ布をカバンから取り出し、ひらひらとさせる。

「じゃあ、後で下で濡らすか?でもなあ……ま、とりあえず、先にこっちにするか」

 グレンが踵を返したのでそれに従い、今度は左手に並ぶ三つのドアをじっくり観察してみた。よく見ると脇の二つのドアには、細長い覗き穴が付いていて、おまけに珍しく硝子が嵌め込まれているらしい。

「……グレン、覗けるか?」

「ああ、もちろん。見事に毒々しい液体がとぐろを巻いているぜ。開けてみるか?あんまり勧められんが」

「いや、まず真ん中のドアを見てみよう」

 挟まれた位置のドアを開けると、真四角の部屋の右端に得体のしれない装置があり、その上には上下するレバーと四角い注ぎ口が設置されていた。

 装置の横には、おそらく説明書きであろう文字が、半分以上かすれて読めなくなっている。


「じょうか……を、探し……せ?どういうことだろう」

「毒を、浄化しろってことじゃないのか」

「じょうかは浄化で……浄化するもの、って、ああッ」

「うるさいな、どうした」

耳を塞ぎつつグレンは一歩下がる。

「犬の部屋に毒消しがあったんだが……」

「あんなとこ行ったのか?明らかに罠だろありゃ。で、その毒消しはどうなった」

「使った。あの牢獄で」

「あ、あ~あれか」

 自分が飲んだ薬を思い出したらしく、頭を掻いた。

「その薬はもうないのか?」

「……」

 シャロンが少しでも残しておくんだった……と額を押さえ俯いていると、アルフレッドが、

「あの部屋の机……全部調べてない。けど」

と奥歯に干し肉でも挟まったような言い方をする。

「あそこをもう一度、調べに言った方がいいかもしれないな」

 シャロンはげんなりしてため息を吐いた。


 水の流れる部屋を慎重に通り、再度犬の部屋に来た。扉を通り、中に入った途端、倒れていた犬の死骸の耳が、かすかに動く。どうやら、誰かが来ると起き出すようになっているらしい。

 ザシュ、とその足を斬り離し、文字通り足止めにしておく。


 他の犬も同じようにし、広い部屋に入ると、また再びすべての鍵がかかり、異臭漂う部屋に閉じ込められた。

 しかし、もう仕組みはわかっているのでさっさと用事を済ませた方が早そうだと判断し、隣の部屋へ向かう。アルフレッドだけは残り、どうやら犬が復活するかどうかの動きをチェックするらしいので、繋がるドアは開けておいた。


 そこには相変わらず三つのレバーとデスク、バラバラの人骨が鎮座していた。


 デスクの二段目にはやはりメモがあり、三段目を開けようとすると、グレンがその手をグッと止める。

「待った。ここに何か引っかかりがある。おそらく、開けると罠が発動する仕組みだ」

それからまわりを調べ、どうやらここに噴出孔があるみたいだ、と裏側を指した。

「解除できそうか?」

「ちょっと待ってろ。どうも、手が届きにくい……」

 しばらくして、カチッという音とともに、やったぞ、とグレンが嬉しそうに言う。

「よし、じゃあ、開けるからな」


 ガラッ。

 

 勢いよく開けると、その引き出しには何も入っていなかった。

「期待させておいて、外れか……」

がっかりして元に戻すと、

「急いで!犬が徐々に起き上がりつつある」

足止めも対して役に立たなかったらしく、隣からアルが声を張り上げてきた。


「わかった。とにかく脱出だ」

 そう返事をしてレバーのところへ行くと、そこに刻まれた模様が変わっていた。

「あれ?」

 レバーの上には、それぞれ2、3、4と数字が刻まれ、なぜか台には歪な人形のような絵が浮かび上がっている。

「どうかしたのか?」

 グレンも覗き込み、なんだこりゃ、と首を傾げた。

「シャロン、早くしないと。……来た」

 ちらりと顔を見せたアルフレッドが、剣を抜き、再び戻っていく。ザシュ、ドサッと、戦い切り裂く音が聞こえてくる。

「なら、これでいく」

 小さい数順にレバーを倒し、隣の部屋に行く。


 内臓のはみ出した犬五頭と戦うアルフレッドの向こうのドアには、全く変化はない。


「いったいどういうことなんだ!?」

 慌てて戻り、もう一度レバーを確かめる。2、3、4。数字に変化はない。

「悪いが、俺は謎解きは苦手なんだ。シャロン、頼む。犬の足止めは俺とアルフレッドに任せろ」

 グレンはそう言うと、隣の戦いへと加勢しに行った。


「2、3、4……何か法則があるのか?」

 試しにいろいろな順番で倒してみるが、反応はない。


「シャロン!まだ解けないのか!?こっちは犬の数がヤバい!」

 バタバタと犬の足音や、唸り声、剣や斧で叩き伏せる音がひっきりなしに続いている。


「く……こうなったら全部試すしか」

 果たしてそれはどれほどの時間がかかるものなのだろうか。シャロンはレバーの数字と、人形の絵をじっと睨んだ。早くしないと魔物が、と呟き、思わずはっとなった。


 昔読んだ絵本に、同じような場面がなかったか?謎が解けなければ、旅人は魔物に食べられてしまうという……。


「そうか。これは、あの謎と同じだ。つまり、最初に四つ足、次に二本足、最後に杖を合わせて三本!」

 その順でレバーを倒すと、ガチャガチャガチャッと鍵の開く音と、グレンたちの歓声が上がる。


 隣部屋では、犬の内臓やらなんやらが散乱し、見るも絶えない光景になっていたが、そこへ加わり、風圧で十数匹もの犬を吹き飛ばしつつ、じりじりとドアへ向かい、無事脱出ができた。


 外の数匹はものの数ではなく、あっさり倒して部屋と部屋との間に逃げ込み、安堵の息を吐いた。


「しかし、間に合わんかと思ったよ。……それに、珍しいもん持ってるな」

 グレンがにんまりと笑う。それにぎくりと身をすくませると、バシバシと肩を叩く。

「他の奴らには内緒にしておいてやるから安心しろよ。ただ、ちょっと口止め料は貰うかもな」

「……好きにしてくれ」

 シャロンは脱力しつつ、で、これからどうする、と二人に尋ねた。


「水門の装置は何もあそこだけじゃない。先に他のを見て回ったら、何かいい案が思いつくかもしれないぜ」

「確か地下四階に、蔓薔薇の扉が一つあったはず」

とアルフレッドが、そこへ行ってはどうかと提案し、それにグレンも頷いた。

「そうだな。先にそっちを調べてみよう」

 そう言って水の流れる大部屋への扉を開ける。

「うわっ!」

 突然蛭がぬちゃっと音を立てて落ちてきて、後ろにいたアルがそれを斬り捨てた。

「あ、ありがとう」

 シャロンは彼にお礼を言い、ふと、考えた。


 この迷宮をもし創った者がいるならば、そいつはよほど陰険な奴に違いない――――――と。

 

 答えは、人間。

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