表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
68/369

 水門七つ

 地下二階の中央へ行くため、東から西へ長く伸びる廊下を歩いていると、存外軽い足音がして、向こうから双頭の黒犬が三匹の群れで現れる。

「またこいつらか」

といいつつシャロンが柄を握ると、

「おお、ワンちゃん」

ふざけた調子でグレンも柄の長い斧を構える。アルフレッドはどういうわけか剣は抜かず、腰の剥ぎ取りナイフの状態を確認している。

「行くぞ」

「おう!」

お互いに声をかけ、吠えかかる黒犬に斬りかかった、まではよかったが……グレンの攻撃は、ブン、とシャロンの横ほんの髪ひとすじの距離を唸りながら犬の首を跳ね飛ばす。

「……」

 背筋が冷えたので、シャロンはグレンから離れ、様子見と決め込むことにした。


「おい、なんだってそんなさぼってる!!」

「いや、この獲物は任せた」

 グレンの振るう斧は三匹目の腹を薙ぎ、壁に叩きつける。その威力は凄まじく、残念ながら通路が狭いため、隣に立ち手助けするのはよほどタイミングを合わせないと無理だろう。


 アルフレッドは最初に倒された黒犬を検分していたが、肉を取るのは諦めたようでこちらへやってきた。

「お、全滅したぞ」

 残りの二匹も危なげなく彼が片付け、こっちを恨めしげに睨みつけているが息も乱していない。これからの探索はかなり楽になりそうだとシャロンが考えていると、それを見抜いたのか、

「あ~、なんかおれに戦わせる気満々みてえだが……せめて手を出す頃合いぐらい掴めるようになってくれや」

そうグレンが訴えた。


 無事に地下三階も通り抜け、再び地下四階へと戻ってきた。相変わらず通路は冷たく湿っていて、ランプらしきものの明かりに照らされて薄暗い。階段横を見ると文字は、〈Ⅳ-12 対の迷宮〉となっていた。

「それで、だ。一応布に描いてきたんだが……おれたちのいるところは、今ここだ。それで、開ける水門は、全部で七つ」

 グレンが、一枚目が右上と左上、左下に大きな空白がある地図を取り出し、床に広げてみせる。


 地図に描かれているのは、地下三階からの階段部屋の北と南と東三方向にそれぞれドアが一つずつ、このうち通ってないのは北側の鳥の彫刻がなされた扉の向こうで、東には例の深い溝の部屋、南にはその溝に流れる水を止める装置が設置されている場所がある。

「これは水門を開く装置か?」

とシャロンは地図上の四つの丸を指し示していく。


 丸で囲まれた場所は、ライオネルたちと出会った北側周辺に一つ、中央から東南に一つ、東に間隔を空けて二つ。


「そのとおり。ただ、東の二つは部屋に入った途端異臭がして、やばい感じだったんで入れなかった」

「異臭……か。まあ、行ってみないことには始まらないな

「この地図には空白もかなりあるね」

 アルフレッドが南東と北西のぽっかり空いた部分を指でトントンと叩いた。

「ああ。まずそこへ行ってみよう。で、どうすればいいんだ?」

「そうだなあ。まず、奪われたコインをもう一度手に入れないと。確か、あるのは犬のコインだったな。それじゃあ、次は蔓薔薇のコインか」

「蔓薔薇か……どこにあるんだ?」

「ここの、一番最初の下り階段の前に部屋があっただろ?この中にある」

「そこは開かなかったんだが」

「あ~、この部屋はな、大部屋の水位が一定量下がると開かなくなる仕組みになっているんだ。水門の位置からして、ここに水が流れ込んでいくんだろう」

「なるほど。じゃあ、水門を開けるのにも順番がいるかもしれないってことか。……相当手間がかかりそうだな」

 シャロンが肩を落とすと、違いない、とグレンは笑い、カバンへ地図をねじり込んだ。


「さて、それじゃあまずはあの、流れる水を止めに行くか」

 そう言って立ち上がると階段前のドアに立ち、慣れた様子で耳をつけてしばらく向こうを窺い、一気に開く。


 そこには、オチューの不気味な死体が…………なかった。床に青緑のしみがうっすら残っているだけである。そういえば、ライオネルたちが持っていくとかなんとか言ってたっけ。


「しっかしまあ……ここにある道具なんかは誰が使っていたんだろうな。鉤つきロープなんてのもあるから、万が一足を滑らせた時のために持っていくか?」

 グレンが倉庫の中を漁りながら言う。

「そうだなあ。じゃあ私の荷物に入れようかな」

「僕も何か持つ」

 こちらを見てカバンの膨らみに眉をひそめ、アルがそう提案する。

 その言葉に甘え、食料を半分ほど渡すと、今ここで食べて減らすかどうか迷っていたようだったが、結局残らずカバンに入れ、彼の手提げはパンパンになった。


「もういいか?」

 倉庫をあらかた物色し終えたグレンがそう尋ねて答えも待たず奥にある、より丈夫なドアを開いた。

 むわっと血生臭い空気が来たものの、以前ほど強くはなく、あの血の跡も、綺麗に消えている。


 不気味に感じつつも、ゴウンゴウンゴウンと音のする中奥の鉄格子へ行くと、それもなぜか再び下りていたので前と同じようにスイッチを押して通り、流水を止めるハンドルの前へと来る。

「これをよく見てくれ。水門を開ける装置もこれと似たようなハンドルがあって、やはり同じように非常にゆっくりと戻るようになっているんだ」

 ハンドルは、灰色の壁に付けられていて、それもまた金属でできているらしく、アルが叩くと硬質の音が返ってきた。

「……?」

 アルフレッドは何を思ったのかバシンバシンと続けて四角い壁を叩き、その側面へ来ると突然ナイフを突き立て、上に跳ね上げた。同時に小さく閂が外れる音がして、側面の壁の一部が半開きになる。

「え」

 驚いて中を覗くと、そこには流水を止めるハンドルより一回り小振りなハンドルが設置され、近くに注意書きが書かれていた。


“彫刻品置き場入り口対応”


「彫刻品置き場なんてあったか?」

 シャロンが首を傾げると、

「これから先あるのかも知れないな。今はいじるのやめようぜ」

とグレンが止めに入る。

「そうか。じゃあ、こっちのだけ回すぞ」

 シャロンが先ほどの大きいハンドルを最後まで回し、ひとまず三人は長い溝が間に横たわる部屋へ急ぐ。

 途中やはりプクプクと太った蛭や細長いのが這っていたが、難なく斬り飛ばして溝を渡り終え、左の扉を開けて北の下り階段のある部屋に辿り着くと、グレンが片隅の壁を指差し、

「あそこにも隠し扉と水門開閉ハンドルがあるんだが……後にしよう」

といってさっさと階段を下っていったので、シャロンとアルフレッドも慌てて後を追った。

〈地下四階〉

 真西の端には登り階段の部屋。

 そこから東へ行くと流水と溝の部屋(全体からして西寄りの中央部分)、南に行くと道具倉庫及び給排水操作室への入り口。

 道具倉庫及び給排水操作室は南西、全体の四分の一ほど。罠と解除スイッチの小部屋は南西の端から南側の壁に沿って長く、通路に沿って排水操作室、浄化槽の部屋(ほぼ真南)。

 奥の格子を抜けて入る部屋の給水操作装置は、流水と溝の部屋に接する形になっている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ