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異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
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 まわり合わせ

 閲覧に感謝です。

 鍵を受け取ったシャロンは、無言で男たちの死体に背を向け、リリアナが逃げたドアに隣接したドアを開けたが、その部屋は外には繋がっておらず、あの犬の部屋の中にあったのと同じように鎖と棒が渡されている。


 その棒を外してまた通路の一部を作ると、アルフレッドを振り向き、

「アル、一旦町に帰ろう。なんか、いろいろ起きすぎて……疲れた」

「うん、でも、その前に……助けに行こう」

 返された言葉。ややあってシャロンの頭の中で壁の覗き穴の向こうから聞こえた音と鍵の存在とが結びつく。

「そうだな、そのとおりだ」

 そう言って水の集まる大部屋への扉を開け……張りついていた蛭の魔物がボトボトと落ちてきたのを三つ一気に斬り裂いた。


「魔物相手だと、簡単なのに」

 シャロンの葛藤は、そのまま剣の発動にも現れ、時に隙を生み出す。アルフレッドは少し前からそれに気づいていたが、彼女自身が解決するべきことなので黙っていた。


「……それがシャロンのいいところ、かも」

 シャロンは滑りかけた足を下ろし、

「うるさい。このタイミングで意味不明なこと、言うんじゃない」

鳥肌が立った腕をこすりながら呟くと頭を振って、もう一度ゆっくり狭い通路へと踏み出した。


 上からも蛭の魔物がにじり寄ってきたものの、アルの投石で面白いほど簡単にバシャンバシャンと水の中へ落ちていく。まあ、落ちたところでダメージは少ないだろうが……。


 ザァアアア――――――


 シャロンは再び流れ出している滝の近くまで来た。壁のあちこちの穴からも水が出ているので、また徐々に水位は上がっている。


 例の鍵の束を取り出し、その一つで扉を開けると、五段ほどゆるく下がる階段になっていて、床には水が溜まっていたが、次第になくなっていく。


 また頑丈そうな扉があったので鍵を合わせて押し開くと、前にはずらりとドアが並び、入って来た扉の右側には鉄格子の檻があり、中で黒く長いものが蠢いている。

「蛇、か」

 どうやら鉄格子に阻まれてこちらには来れないらしいが、だからといって安心もできないので、シャロンは剣を使い、風で斬りつけたが、それはまったく効果がなかった。

「間違いなく罠だろうな……アル、何かあったら頼む」

 独房のドアの前に立ち、鍵穴に鍵を差し込んだ。しかし、何も起こらない。二度三度と繰り返すと、ちょうどいい鍵が見つかり、カチャリと回る。同時に、ゴウンと鉄格子が持ち上がり、蛇が放たれた。

「やっぱりかッ」

 今回予測をしていたため、スムーズに蛇に対応できたが、この蛇は突いても斬ってもびくともせず、こちらに牙を剥き飛び掛かってこようとする。

「おい、戻すぞ!」

 アルが剣の腹で蛇を殴り、檻の中に叩き入れると同時にシャロンは急いで独房の鍵を閉める。ガシャンと檻は下がり、蛇はまた中に閉じ込められた。

「……うかつに開けない方がいいな」

 シャロンは次の扉に耳をつけ、音を探ってからトントン、とノックしてみた。反応はない。他の扉でもやはり反応はなかったので、今度は足で壊れそうな勢いでノックしてみると、右から二つ目の扉からかすかに音が返ってくる。

「ここ、か。アル、また後ろを頼む」

 ゴウン!

 鍵を開け、同時に中の人間を引きずり出そうとして、

「お、重いっ。しっかりしろっ」

閉じ込められていた男は、ひげ面のむさくるしい姿だが、左頬の傷といい、身に付けた大斧といい、あのグレン・カワードに間違いなかった。呻いているから意識はありそうだが、随分と衰弱している。

 ひとまずアルに襲い来る蛇を吹き飛ばし、二人がかりで引きずり出したが、当然その間は無防備になるわけで……。

「ぐぅっ」

 蛇があちこちに咬みつき、体に焼けごてを押し当てたような激痛が走る。


 なんとか振り払い、蛇をまとめて牢にぶち込んだが、蛇の毒で体全体が燃えているように熱く、怠い。

「くそ、これじゃ外までもたない」

 かすむ目をこすり、へたりこみそうになる体を起こしながら言えば、アルがごそごそとカバンを漁り、袋入りの白い粉を取り出した。

「……こ、れ、使えないかな?」

 毒状態にあるはずなのにあまり様子が変わらないアルフレッドより先に、まずは自分で試してみる。例えこれが毒の類でも、何もしないよりはましだ。


 水と一緒に飲むと、体を覆っていた悪寒がなくなり、熱もゆっくりと引き始めた。浄化薬、というのは正しかったみたいだ、とアルにも薬を渡し、衰弱しているグレンにも一応薬を飲ませておく。


 ややあって、グレンが小さく何かを呟いた。

「どうした。何か伝えたいのか」

 シャロンが耳を近づけると、声は少しだけ大きく、何か食べるものを、と呟く。


 乾パンなど消化しやすい携帯食料を砕き、水と一緒に飲ませると、グレンの声は次第にしっかり出せるようになり、パン類をすべて平らげると起き上がれるようにもなっていった。

「いやしかし、二三日塩と水しか口にしてなかったから……助かったよ」

 心のどこかでグレンはもう死んでいるんじゃないかと考えていたシャロンも改めてほっとして、

「助かってよかった」

と笑い、アルフレッドをひじで突いたので、干し肉を取り分けていた彼も力強く頷いた。


「私たちはトマソン・ハーブルに頼まれてあなたを探していたんだ」

「……そうなのか?そりゃ悪いことをしたな。かの有名な歌姫リリアナから、俺を付け狙う連中がいると忠告されたんで、ギルドへ行くのを控えてたんだ。……結局こうしてその連中に捕まっちまったがな」

ふう、と大きく息を吐いてグレンが出したその名前に、その場の空気が凍りついた。

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