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異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
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 こんにちは、そしてさようなら

 残酷描写があります。苦手な方はご注意ください。

 四対一。リリアナが一緒に行動していたはずのメンバーはすでにやられたのかも知れない。薄暗い中でもはっきりわかるほど血に汚れ、怒りに顔を歪ませた男たちは大剣や戦鎚を構え、彼女に迫っている。

 と、リリアナがきゅっと身を縮め、体を震わせた。


 助けなければ。


 即座にシャロンは柄に手をかけつつ、アルに合図をして彼女に走り寄ろうとした瞬間。リリアナが顔を上げ、薔薇が花開くような、そんな艶やかな笑みを見せた。


 ぞわっ。


 同性なのにもかかわらず、シャロンの背筋から腰にかけて軽い痺れが走り抜ける。それを目の前で食らった男たちはひとたまりもなく、状況を忘れてぼんやり惚けているところに、彼女はさらに身を寄せ――――――。


 血飛沫が上がった。シャロンの目にくっきりと、恍惚とした表情のままその喉に剣を食らった男の姿が映る。


 悪い夢でも見ているかのようだった。


 リリアナはステップでも踏むかのように軽く、慌てて武器を握り締める男たちに飛び込み、飾り気のない双剣であるいは目を、あるいは指を喉を斬り裂き、一方的に蹂躙する。

 彼女は裾を翻らせて舞い、続く悲鳴も、血飛沫も、魅力を損うどころかむしろその身を飾っている装飾品のよう。


 動く者が無くなったところで、こちらを向き、血に塗れた顔で華やかに笑った。

「こんにちは。――――――そして、さようなら」

 いい香りがした。知らないうちに距離が詰められ、シャロンはほとんど反射的に剣を抜き放つ。

「きゃあっ!」

 紙一重で避けたリリアナが、怯えたように潤んだ瞳でこちらを見上げる。


 あれ?と言葉を紡ぐまに、

「シャロン!」

後ろでしゃがんでいたアルフレッドが、彼女に迫る刃を弾き、前に立った。


「二人がかりで、なんて……ひどい人たち」

 また距離をとったリリアナは呼吸も乱さず、悲しげな表情を作ってはいるが、その瞳は蝶を捕まえ羽をむしる直前の子どものようにきらきらと輝いている。


「なぜ……私たちを襲う」

 シャロンの問いかけに、愛らしく小首を傾げて見せ、

「何か、理由が必要?」

と逆に聞き返してきた。


 わからない。彼女の考えていることが、少しも。


 鳥肌が立つのを感じながら、シャロンは剣を構え、

「やあぁああッ」

叫んで斬りかかったが即座に受け流され、その返す剣が喉元を狙う。同時に横からアルフレッドがリリアナに迫り、そちらに向き直った彼女の剣を受け止めた。

「くっ!」

 お互いの肌が触れ合うような距離から、また遠くへ。リリアナ・レンレンの動きは、緩やかで速く、掴みどころがない。


「大丈夫?顔色、よくないけど」

 リリアナは余裕の表情で双剣をだらりと構え、脂汗を流すシャロンを見つめて心配そうにしている。頭が、おかしくなりそうだった。


「……相手を倒すことだけ考えよう。一気にいく」

 アルフレッドが隣に立ち、シャロンは深呼吸をした。


 ――――――落ち着け。まずは、リリアナの動きを封じる。


 彼女を睨みつけ一足飛びに斬りかかる。その攻撃も、アルの追撃も避けられたがそれは計算のうち。アルと斬り合うリリアナを狙い、剣を構えて鋭く風の刃を放つと、それは狙い違わずリリアナのベストとドレスの一部を切り裂いた。


 その途端にジャラッと金属のこすれ合う音がして彼女がややバランスを崩し、表情に動揺が走る。その隙を逃さず、アルフレッドは彼女の胸に剣を突き立て、ガキィンと見えない壁に弾かれた。


「!?」

 即座に間合いから逃れ、油断なく相手を窺うが、リリアナはドレスを押さえたまま動かない。こちらをぎらつく肉食獣のような目で睨みつけ、

「まさか、アーティファクト持ちとはね……。本当はもっと遊びたかったけど」

ふいに冷めた口調で呟いてからすっと立ち上がり、

「じゃあね。シャロンにアルフレッド。今度はもっと違う時に逢いましょう」

こちらが油断なく間合いを取っている間に剣を丁寧に拭いてドレスの中に仕舞うと、耳飾りを投げた。


 咄嗟に振り払ったシャロンのすぐ横でそれは爆発し、もうもうと煙を立てる。


「待て!……アル、追うぞ」

 このままでは禍根が残る。煙を吸わないよう気をつけながら彼女を追ってドアをくぐる先には、石の、蔓薔薇が彫られた扉が立ち塞がっていた。

「くそっ。駄目か」

 やはりその扉は開くことはなく、シャロンとアルフレッドは女神の像のある休憩所へと取って返した。


 血溜まりと死体さえなければ、本当に起こったのかどうかわからなくなるぐらい現実味が沸かなかった。


「シャロン、あれ」

 アルはいつもと同じ様子を崩さず、床に目をやると倒れ伏した男たちへ近づきその合間に落ちていた鍵の束を拾い上げ、こっちに手渡してきた――――――。





 一方煙に紛れて部屋を出たリリアナは、血に塗れた顔を拭い、斬り裂かれたベストを紐で結んで懐の貴重品が落ちないよう固定すると、足早に出口へと向かっていた。


 エドウィンがここに来なかったことが、残念で堪らない。もし来たら、まずアレをもぎ取って魔物の餌にしてやったのに。


 彼女は自分を陥れ、王都を追われる原因を作った相手にこの手で復讐する瞬間のことを考え、昏い欲望に身を震わせる。


 ジャラッ。


 冒険者を襲わせて回収した、かねや高価な装飾品の詰まった袋が、胸の高鳴りに合わせて音を立てた。

 彼女は、こういう人です。


〈補足:リリアナの装備品〉

 守りの腕輪……昔リリアナがエドウィンからガメた魔法具。魔力を溜めておくと一度だけ装備者を守ってくれる。(再び溜めれば何度でも使える)

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