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異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
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 鉢合わせた幸運

若干文が長いかもしれません。

 大きな扉を軋ませ苦労しながら開くと、大きく深い溝の向こう側、左のドアから見知らぬ冒険者らしき男たち四人組の一行が現れ、呼びかけるかどうか逡巡している間に石で蔓薔薇の彫られたドアの前に立ち、その中へと去っていく。


「とにかく、降りよう」

 アルに声をかけ、生臭い匂いのする溝の底へ下り立つと、底の周辺には長くぶよぶよした皮のベルトのようなものが張りつき、ゆっくりと伸びながら動いていた。

「……蛭っぽい」

 アルフレッドがポツリと呟いたので、踏まないように歩きながら観察してみると、それらは時折眼鼻のない頭をもたげ、うろうろと彷徨わせている。


 気持ち悪いのでさっさと離れてアルとともに反対側のはしごへ向かうと、今度は何事もなく辿り着いたが、登っている途中はしごの上にも例のヤツを見つけたので、注意して剣を抜き、真っ二つに斬る。


 ぬるぬるした切れ味に閉口しながら登りきり、先ほど四人の男たちが通過していった蔓薔薇のドアまで来たが、それにはコイン投入口があって鳥の彫刻のと同じように引いてもびくともしなかった。


 諦めて左側の、シンプルな石のドアへと向かい、罠がないのをチェックしてから取っ手を引くと、こちらはすんなりと開く。

 

 そこは壊れた椅子が一つあるだけの部屋だったので、一度休憩を挟んでから北側に抜けると、左側に部屋、前方に下への階段がある広い場所に出た。


「こんなところに階段なんてどう思う?」

「……さあ」

 首を傾げるアルフレッド。

「だいたい近くに何か手がかりがあるんだよな、こういう時って」

 そう言いつつシャロンは隣の金属製ドアの取っ手を掴む。


 掴んだ瞬間、バタンとドアが開き、

「誰だ!」

と中から聴き覚えのある声とともに、金と茶の髪にバンダナの男が抜き身の剣を引っ提げ、現れた。

「ライオネル?」

思わず呟くと、向こうもこちらを認め、零れ落ちんばかりに目を見開き、

「あ、これは失礼!」

と剣を収め、いや~こんなところで奇遇ですねと笑いながら中へ案内してくれた。しかも床にわざわざ布を敷くという気の使いようだ。そして、奥では仲間の二人が軽くいびきを掻いて眠りこけているため、非常に座り辛い。


「……邪魔したようだから私たちは、これで」

 考えてみれば、深夜は通り越しているはず。疲れている二人の隣でおしゃべりするわけにはいかないと、小声でそう告げると、

「ああ、大丈夫。あの二人なら耳栓して寝てるから。もう明け方も近いし、なんなら起こしてもいいけど」

 激しく首を振り、シャロンはあまり顔には出さないがげんなりした様子のアルフレッドと視線を交わし、手早く話を終わらそうと決意する。


「しかし、久しぶりだな。ライオネルたちにここで会うなんて思ってもみなかった。ここには」

「また逢えるなんて、何かあなたとの間には運命的なものすら感じられる」

 言葉途中で潤む眼差しをこっちに向け、ぐっと身を乗り出すライオネル。しまった、また話題にしくじったかとシャロンは焦りつつ、

「同じ遺跡を探索しているから普通だと……」

「いや、あなたは他とは違う、内に秘めた輝きを持っている」

どさくさに紛れて手を握られそうになったので慌てて身を遠ざける。……こいつには吟遊詩人の方が向いてるんじゃないだろうか。


 よほど腹に据えかねたのか、アルが夢中で話し続ける彼の死角をついて小石を投げた。

「痛てっ。何をするんだ!?せっかくの貴重な時間を……」

 見事にそれが当たり、即座に彼を睨みつけるライオネルに、

「無駄に口数が多い。内容もない」

と言い捨て、小石を片手でジャグリングしつつさらに追加で投げる気満々になっている。


 一触即発の雰囲気での睨み合いが続いたが、この騒ぎに気づいて起き出してきたステイツとカルロスがライオネルを諌めにかかり、こちらもアルをなだめてなんとか収まりがついた。


 眠そうにあくびを噛み殺したり、頭を振っている二人に礼を言って立ち上がると、再びライオネルが真剣な顔で声をかけてきた。

「行かないでくれ。大事な話があるんだ」

「いや、もう充分で……」

「ああ~ちょっと待ってくれませんか。で、リーダーはもう寝た方が。ただでさえ変な性格がますますひどくなってるんだから」

と金髪のカルロスが口添えする。

「何を言うんだ!そんなわけには、」

 言いかけていつのまにか背後を取った短い茶髪のステイツにドスッ、と首筋を打たれ、そのまま崩れ落ちた。

「ここのところリオルはピリピリしててろくに眠れてないので、申し訳ない。まあ、こう見えて意外と神経質なんで」

 ステイツとカルロスは二人ががりでライオネルを寝具のあるところまで引きずり、ごろりと転がすとまたこちらへ戻ってくる。


「価値のある品物や金が出るようになってきて、逆に分け前なんかで諍いを起こす奴らが増えているんだ。まったくよく争いの種が尽きないと思うが」

「そうだったのか。よく知っているな」

「こっちが喧嘩を吹っかけられることもあるしな。今までそんな場面に出くわしてなかったんなら、そりゃ運がよかったんだろ。それか、あんまり金には無縁そうに見えたとか。あんたら高望みとかしそうにないもんなあ」

 まあ、だからこそこっちも声かけたんだけどなとステイツは笑い、

「値段を吹っかけず信頼できる情報をくれる相手は貴重なので」

とカルロスがフォローした。

「それで、さっきのリオルの話に戻るんだけれども。もし、オチューを見かけていたら教えてほしい。少なくともこの付近に二体はいるはずなんだ」

「オチュー?どんな姿なんだ。そいつは魔物なのか?」

「そのとおり。緑色の丸い体で、触手と大きな口がある」

「もしいるところを教えてくれれば、代わりにいい物と交換しますよ」

 ステイツとカルロスが口々に言ったので思わず、

「交換する物が気になる」

と問いかけると、

「ほら、このコイン。この階段の先にある、地下五階で使えるんです」

カルロスが鈍く銀色に輝くコインを小さな袋から取り出した。

「でも、それは重要なアイテムだろ?」

「いえ、もうおれらはここで戻るんで。だんだん魔物も強くなってきたし、潮時かと。……それで、オチューのことは?」


 シャロンがステイツとカルロスに地下四階の階段のある場所から南側のドアを抜けたところで倒した魔物の話をすると、新鮮なものが欲しかった、と落胆を見せたものの、

「じゃあ、これを。ま、今からすぐ行ってみますよ。……せっかく眠ってるリーダーには悪いけど」

カルロスが袋から表面に犬の絵が刻まれたコインを取り出して渡し、ステイツはその間に荷物をまとめてライオネルを揺り起こし、まだ夢うつつの彼を無理矢理引っ張っていく。

「あ、そうそう、地下四階と五階は繋がっているらしいんで、真っ先に中央の貯水場を見といた方がいい。なかなか圧巻だから楽しみにな」


 そう最後にアドバイスして彼らは去り、シャロンたちもまた部屋を出てすぐ左横の階段を念のため調べたが、石段が濡れているのと、小さく下からザーッと水の流れる音が聞こえるだけで特に危険はなさそうだったので、足を滑らせないよう一歩一歩階段を下へ降りていった。

〈地下四階 既出の魔物〉

 オチュー……眼のついた緑色の丸い体に吸盤つきの触手を二本持ち、獲物を引き寄せて大口で飲み込む。水の中でも呼吸ができるため、水底などにいて死骸を漁っている。

 リーチ……人間の身長ほどもある巨大な蛭。吸った血の量によって体が膨れ上がり、嵩が倍以上になる。

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