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異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
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 答え合わせは

 地下三階探索中。

ドアを開けると中はやや薄暗く、左側に広いスペースのある部屋は、これまで壁一面にあった文字の羅列がまったくなく、壁の感触も滑らかで、明らかに他とは違う作りになっている。


 ドアが閉まらないように工夫して左へ進むと、ぼんやりと光る壁にくっきりと濃く赤い文字が書かれていた。


 “言葉は炎となりて道先を照らし、時に闇をまといて人を惑わす”


「なんだろうな、これは」

 そう言ってアルを振り返ると、小さく首を傾げ、

「炎……赤?」

と呟いた。


 シャロンはじっと壁を見つめ、これまでに眺めてきた言葉や落書きをひとつひとつ思い出す。

「そうか!壁の文字は、赤や黒や青なんかで書かれていた……もしここに書かれているのが本当だとしたら、炎、つまり赤は道を教えるヒントで、闇、これは多分黒だと思うが、それが偽りの言葉、ということになるんじゃないか?」

「そうかも知れないし、違うかもしれない。実際に試してみればわかるよ」

 活気づくシャロンとは対照的に、アルフレッドはごく冷静に意見を述べる。

「そうだな。よし、もう一度まわってみよう」

 そう言って踵を返した途端、バキィッと石が外れ、鈍い音を立てて扉が閉まった。


「扉がっ」

 慌てて駆け寄り、取っ手を掴んで強く引っ張るが、びくともしない。

「アル、まずい。なんとかこれを壊さないと……」

 振り向けば、薄暗がりの中で黒い髪がやや不気味にみえるアルフレッドは、まったく慌てずに近寄ると、シャロンの手に自分の手を添えて力いっぱい押した。


 動かなかった扉は、ギィイイッと重い軋みを上げながら向こう側へ開く。

「あ、あれ……?」

 よくあるパターンだと気づき、シャロンは首筋まで真っ赤になった。

「え、えと、その、ありがとう」

 ぼそぼそと呟き、さっさとその部屋を出る。もう一つのドアも、同じように強く押せば、問題なく開いた。


 こんなことならさっさと中を調べておいた方がよかったんじゃ……との思いが頭をかすめるが、精神衛生上のためにもう考えないようにした。


 さて、改めて壁を眺めてみると、覆い尽くすような文字はやはり色分けされており、さらによくよく見れば、落書きの中にかすかに赤い矢印が書かれていた。


 矢印は南を示し、広い場所ではあちこちに書かれていたが、そのうちの赤いものを探し出して東へ向かう。


 地下三階のどこに巣があるのか、やたら出くわすコウモリを追い払い、東の端の壁まで来たので意識して壁を見渡すと、天井に“←こっちが近道→”と書かれていた。黒ではなく北を示している赤い方を選び、ドアを抜けると、あの謎かけと三つのドアがある部屋の近くまで来た。


「そういえば……あの部屋の文字も色が分かれていた気がする。アル、見てみよう」

 いいよ、と頷くのを確認してあの部屋に入り、三つのドアと、その前に置かれた台の前に立った。


 台には変わらず“正しい言葉を選べ”とあり、三つの扉にはそれぞれ赤い字で“この隣は正しい”“両隣のドアは正解ではない”“この先に道は続く”と書かれている。


「前に開けたのは、一番左だったな」

 あのときは、通路の先が行き止まりになっていて、もう駄目かと思ったら、アルがいきなり蹴りつけたんだった……。

「そういえば、どうしてあの壁が仕掛け扉だとわかったんだ?」

「ああ、あれ。あの壁に目を凝らすと、かすかに下の方に、蹴ったような跡ができてた。それも、一人二人じゃない」

「相変わらず、いい目をしているな。全っ然わからなかった」

 “この先に道は続く”か……つまり、実際本当に続いていたことになる。

「赤い文字が真実を述べているとすると、なんだ、全部正しいじゃないか」

 ドアの文字は三つとも赤い。

 全部選ぶわけじゃなさそうだし、とシャロンが唸っていると、アルフレッドが台の文字を指差した。

「シャロン。この文字、黒いけど」

「そうだな、そういえば」

 台には黒い文字で書かれている。


「てことは、この謎かけそのものが嘘……?“正しい言葉を選べ”じゃなくて、“正しい言葉を選ぶな”ってことか?」

 しかし、この場所に間違った言葉なんて……と考えて、シャロンは思わず台を見た。


 アルフレッドも同じことを考えたのか、あれこれまわりを探り、ふと思い立ったように力を込めて台を押した。


 ズズッと台が奥に動き、その下には鉄の輪が隠されていた。

「な、なんだこれ」

 シャロンがその輪を握り、強く引っ張るとジャラジャラと鎖が現れ、同時に地鳴りのような響きを立てて隣の壁が上がり始める。


 信じられないような思いで壁向こうの通路を進むと、その先には小部屋があり、ドアを開けた中には鉄製の宝箱があった。

 達成感に心躍らせながら、鍵のかかっていない宝箱の蓋を開けると、そこにあったものは。


「わけが、わからない」

 シャロンは戸惑いながらも箱の底から、アンリ・フェブラスカがなくしたと言っていた、青く美しい首飾りを拾い上げた。

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