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異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
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〈地下一階 祭壇のある大広間〉

 この回ではほとんどわかりませんが、一応迷宮ものです。

 階段を下りたところは広く、短く巨大な柱が天井を支え、上にぽつりぽつりと空いた穴が埃まみれの石畳を照らしていた。目の前に続く灰色の通路は、よく見れば足跡だらけである。

 カバンからスカーフを取り出し、顔に巻いて話し声が聞こえてくる方向へ進む。


 道は左に折れ、その先に天井が高めの大広間があって、その中へ入ると、ここの空間はどこかに通気口でもあるのか空気が新しく、シャロンは思わずスカーフを取って深く息を吸い込んだ。

 奥には埃が積もってもなお風格を保っている石造りの祭壇。そして上から照らす美しいステンドグラスの光があり、神秘的な雰囲気だったが――――――その前でわいわいと騒ぐ人だかりがそれをぶち壊しにしている。

 いったい何があるのかは知らないが、

「アル、今度は人の少ないときに来よう」

と振り返ると、何しにここへ来たのかと突っ込まれてしまった。

「そうだった。グレン・カラードのことを訊かないと」


 そんなやりとりをしていると、

「シャロンさん、アルフレッドさん!」

人混みから見知った女性が手を振ってくる。リリアナのその呼びかけと同時に、集まっていた男たちがざっとこちらへ向き、シャロンは引きつりながらも手を軽く上げた。


 わざわざ走り寄ってきた彼女は、かかとの高い靴こそ履いていなかったが、なぜかスリットの入ったドレス姿に胸当て代わりのベストを着用していて、また逢えて嬉しいです、と微笑みかけてきたので、まわりの視線がさらに嫉妬に変わる。


「皆さん、また後でゆっくりお話ししましょうね」

 そう集まっていた男たちに声をかけると、彼女はそのまま大広間の一角に広げられた敷物の上へとシャロンたちを案内して置かれた袋へ腰掛けた。


「こんなところで何をしているんだ?」

 不思議に思い尋ねると、ふふっと笑い、

「場所を取っているんですよ」

と返事をする。

「こんなところを?」

「ええ。…………というのは冗談ですけど。きっと明日からこの大広間には人がたくさん集まるでしょうね。行商人や、ここをベースにしたい冒険者たちが来て」

ふうっと綺麗に磨き上げた薄紅色の爪を見つめ、またこちらへと笑いかける。

「ここには魔物は出ないけど、南側で発見された階段を下る先には現れるみたい」

「そ、そうなのか。じゃあ、そちらに向かった冒険者もいるんだな」

「ほとんどです。ここに残っているのは、下へ行く決心がつかない人か、情報収集の人たちだけ。これまでの話だと、この下の魔物も大したことないらしいけど、やっぱり行ってみないとわからないから」

「リリアナさんは……」

「そんな他人行儀じゃなくて、リリアナって呼んでくださいね」

 魅力たっぷりに秋波を送られたが、送る相手を間違ってやしないだろうか。

「え、と、リリアナ。私に色目使われても……」

「あら、そこの人を誘っちゃってもいいの?」

 いたずらっぽく笑うリリアナに上から下まで見つめられたアルフレッドは、非常に嫌そうに一歩下がって視線を振り払った。


 本当に苦手なんだな、とそれを見ていたシャロンは、はっと忘れていたことを思い出した。

「そうだ、リリアナさ……リリアナ。グレン・カラードっていう冒険者を知らないか?焦げ茶の髪で、皮鎧を着た、斧を武器にしている男なんだけど」

「……その人なら昼すぎに慌てて来て、ひととおりここにいた人たちから情報を手に入れると、さっさと下に降りていっちゃったみたい」

「そうか。ここで待っていたら、また来るかな?」

「う~ん、それは……かなり名の知れた冒険者だし、ひょっとしたら奥深くまで行ってしまうかも」

「わかった。ありがとう、出直してみる。彼にもし会ったら、ギルドへ寄るように伝えてくれないか?」

「そうね。……会えたら、そうしておくから」

 

 一応他の人にも話を聞いてみたが、うろんな目で見られた挙句見返りを要求されたりもしたので、さっさと立ち去ることにした。


 リリアナから聞いたとおり大広間から出て南側の奥ヘ行き、元は倉庫らしき部屋の散乱したガラクタを踏み越えて扉を開け、その先の階段を確認したが、下は薄暗いばかりで何も見えなかった。


 怖いものみたさというか、どんな場所なのか覗いてみたい気もする。しかし、まずは依頼だ、と再び倉庫を抜けて元の通路へ戻ると、アルフレッドが奥の壁に近づいてその下を足でこすりだした。


「どうした?」

「いや、何か書いてある」

 そこには古くさい表現で、“地下一階には、何もない”と書き殴ってあった。


 残すならもっといい情報を残してほしかった、とがっかりしながら、塔の遺跡を出て、シャロンたちはアンリ・フェブラスカが首飾りを無くしたという湖に向かう。


 夕陽を浴びながら、湖というか、藻が繁殖していてまるで池のような水場のまわりを文字どおり草の根をかき分けて必死に探したが、首飾りはまったく見つからず、結局収穫のないまま日没とともにそこを引き上げることとなった。


 町に帰ってギルドで尋ねてもやはりグレン・カワードは来ていないとの返答があった。もちろん彼がここに来た時点で報酬は無くなるが……あの地下に探しにいかなければならないのかと思うと気がめいる。


 どちらの依頼も期限はなかったことにわずかになぐさめられつつ、憂さを晴らそうと、シャロンはアルフレッドを引き連れて酒場へと繰り出していった。

  

 裏タイトル:不憫すぎるアルフレッド。

〈地下一階の蛇足的補足〉

 北側…地上の神殿へ続く階段、その左隣(東)に物置。大広間からの通路沿いにゆとりのある客室二部屋。

 北東…大広間から続く神官控室。独房と拷問部屋(今後出る予定なし)。拷問部屋のドアの前にダストシュート。

 東寄りの中央…祭壇のある大広間。入り口付近に瓦礫の山。

 南側…大広間からの通路沿いに客室二つ。一番奥(南東)に物置部屋→壊された隠し扉→地下二階へ。

 南西…大広間入り口から南西の通路を行くと小部屋二つ、左奥に客室一つ。左の客室へ行かず通路を直進すると地上への階段あり。

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