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異郷より。  作者: TKミハル
最後の戦い
352/369

8

お待たせしましたm(_ _)m


※戦闘シーン、残酷表現ありです。ご注意ください。


 見栄をきるアイリッツを間近で眺めてもなお、特にアルフレッドが表情を動かすことはなく。


「……これでいこう」

 ただ、これまで半眼のままだった目をパチッと開けて、頷いた。


「一人で納得すんじゃねー」

 ぼやきつつ、それで、いい手は思いついたのかよ、と訊くアイリッツに、

「……どうかな」

と首を振る。





 ゼルネウスは、そんな彼らのやりとりのあいだも攻撃をすることなく待っている。――――――そう、私たちが追いつくのを、待っているのか。……自分のいるところまで。


 ふと浮かんだその考えが正しいのかどうかはわからなかった。甚振るように面白がっているのかも、わからない、とも思い、そこまでで、シャロンは考えるのを止めた。


 どちらでも構わない。ただ、全力を尽くすだけ。


 ふぅっ、と息をするように空気の層を膨らます。届くように、と願いながら。……速度も、力も、段違いなゼルネウスに。


 重厚な風の層が弾けた。爆発の威力を利用して、仲間の速度を増す。


「~~、~~」

 ハミングでもしそうな、表情をしている。アルフレッド……が?いやまさか。


 シャロンが見間違いかと瞬きをするあいだに、風の威力に乗り、アルフレッドが剣を抜く。なぜだか、その刀身が、ブレた。


 はっ、と気づいたシャロンがアルフレッドに合わせる。張るのは風の結界。ゼルネウスとシャロンたち三人を含む周囲を包むように。


「いくぞ、大盛り大サービス!!」

 アイリッツが叫ぶ。シャロンは集中が途切れないように、剣を握り直さなければいけなかった。


 光の筋が、質量を伴い、ゼルネウスに襲い掛かる。同時にアルフレッドが剣を振りかぶった。無言で受けるゼルネウスの動きに合わせるようにたいを捻る。跳ね飛ばされた、が、周囲を包む風の結界に弾かれ、再び舞い戻る。


 アイリッツの攻撃と、アルフレッドの剣戟が、絶妙なタイミングで交差する。ゼルネウスはそれを一閃した。……私だって遊んでいるわけじゃない。


 背後を取った、と思ったのもつかのま、後ろを向いていたはずのゼルネウスから強烈な蹴りを食らい、飛ばされた。しかし、同時に正面からアルフレッドが狙う。間一髪で身を引いたが、ゼルネウスの服に、三筋の鉤裂き模様を作った。それでもアルフレッドの動きは止まず、アイリッツの光の砲弾(?)も追従した。


 そこまで視界に納め、シャロンは風の結界を張ってもなお襲う衝撃に耐えた。ゼルネウスからの追撃がこちらに来ないだけマシか、と思うことにして。


 ゼルネウスが剣を一閃し、アイリッツの砲弾を打ち砕き、アルフレッドの剣を受け……ようとして、防御の結界を張り、勢いで後方に下がる。


「まあ、少しはできるようになった、か」

 にやり、と笑い、ふと頬に伝う血に気づくと、黙って親指で拭った。


 黙って剣を構える、その姿は、そこはかとなく嬉しそうだ。そういえば、ここにいるのは戦闘狂ばっかりだった。



「“影追い”」

 ゼルネウスが動いた。アルフレッド目掛けて。シャロンがその速さを鈍らせるため、風で体を絡め取る。スススス、と絶妙な体さばきで、絡みつく風を散らし、足と体の発条ばねを利用し、最大限の力でもって剣を振りかぶる。


 アイリッツはその様子を冷静に眺めつつ隙ができるのを待っていた。――――――アルはこれぐらいでやられるタマじゃない。


 重い剣撃を流し受けようとするアルフレッドに、剣ごと巻き込むようにしてゼルネウスが切っ先で左耳を狙う。咄嗟に片手に持ち換え、アルフレッドが拳で剣の広刃の部分を叩き、跳ね上げたが、すぐに高い場所から落とし斬りがくる。


 ――――――ここだ!


 アイリッツは剣を双剣に変え、ゼルネウスの背後両側から狙い打ちするように剣をブン投げた。アイリッツの意志で動く剣は、狙い違わず正確に死角を突く。

 

 まるで後ろに目でもついてるかのようにすっ、と腰を低くすることで交差するその剣を避け、ゼルネウスは、そのままアルフレッドの腱へと剣先を突き立て、ようとして空を切った。


「……」

 ほんの半歩だけ風で後ろに下がったアルフレッドは上からゼルネウスの眉間を狙う。“気”が籠められた刀身が振動を起こし、あたかも三枚刃のような切っ先を作る。


 ぎゅるりッ、と嫌な音が響き、二人の体が追突の衝撃により離れた。


 もうもうと土煙が立ち込め、シャロンはひとまずアルフレッドと思しき方を風により相手から引き離す。それと同時に、

「アイリッツ!ゼルネウスを!」

と呼びかけ、

「わっ、かってるよ!」

と叫び返された。


 戦輪チャクラムと双剣の多重攻撃に効果が感じられないとみるや、急いでいったん自分の元へ戻し、ゼルネウスと思しき方を睨みつける。


「無粋な攻撃だ」

 顔をしかつつゼルネウスは、すぐに自分が風の結界に囲まれていることに気づいた。破壊するため剣を構えるも、間を置かず地中からアイリッツの強力な‘気’を纏う礫を受け、衝撃に耐えるため、結界を張り、それでも衝突の際バランスを崩し二三度足を踏み締めた。


「……やるな」


 “影追い”――――――残像に‘オーラ’を纏わせることで、複数攻撃に対し防御及びカウンターを仕掛ける技だが、シャロンはすぐさまそれに気づき、アルフレッドと剣を交えていたその時すでに大きな半球のような風の結界を作り、アルフレッドとアイリッツの攻撃を待ってから結界を狭めた。


 そう、チャンスを窺っていたのはアイリッツだけではない。


「……いい観察眼を持っている」

 動体視力も申し分ない、と、ゼルネウスは目を細めてうっすらと笑った。


 その性根も、能力も、見方でないのが惜しい人材だ、と内心で称賛しながら、それでも戦いの手を緩めることはない。


 全力で。すべての力が尽きるまで。



 ふぅ、と息を大きく吐き、肩を上下させながら、アイリッツは今一度ゼルネウスを感知し、その残りのちからの程を計った。


 互いに抉り、抉られ、失った力は計り知れず。だが……確実に終わりは近づいている。


 そう、互いに、だ。



 鉄錆の味がする唾を吐き捨て、したたる汗を拭うと、アイリッツは声を張り上げた。



「ゼルネウスはだいぶガタがきてる!やれるぞ!」

 激を飛ばせば、シャロンとアルフレッドがそれぞれ力強く頷いた。ふっ、とゼルネウスの笑う気配がする。


 こっちの消耗具合も、向こうは把握済み、か。



 結局のところ、粘った者ン勝ちの、泥沼試合……精神こころが折れた方が、負ける。


 

 自分を鼓舞するため、アイリッツはもう一度拳を固く握り締めた。


「アイリッツ……気負わなくていい。もう、ここまで来たら、なるようになる」

 吹っ切れたようにシャロンが笑う。

「もちろん、わかってるさ。オレたちの勝利が絶対ってことは」

 不敵にそう言って笑い返す。


「おまえは、なんか言うことないのかよ」

「そうだな。もちろんある」

と珍しくしっかり頷いた。


「何か食べる物持ってないか?お腹がすいた」

「……うわぁ。外さねえなぁ」

 アイリッツが思わずといったように晴天の空を仰いだ。


「よく考えたら、あまり食事も取らずにずっと戦っているからな……」

 シャロンは、自分のカバンを探ろうとして……それがかなり離れたところに放置されているのを発見し、肩を落とした。



「給水の時間ぐらい、待っても構わんが」

 どこか面白そうにゼルネウスが告げて……アイリッツが首を振る。

「フン……おまえを倒してからゆっくりするさ」


「そういえば、塩の欠片がどこかに残ってなかったかな」

 シャロンがズボンのポケットを探り、あった、と小さな塊を取り出すと、服の袖で拭いてからアルフレッドに渡す。

「ありがとう」


「人が決め台詞言ってる時におまえら……」

 あと、本当は馬用の残りじゃないのかその塩、と言いかけ、なんだか聞こえてもいなさそうなので、もういいやと肩を落とす。



「まあ、焦ることはない。時間だけはたっぷりある」

 ゼルネウスはそう言うが、ここで感じる時の流れは外とは違い、気まぐれだ。時にひどくゆるく、時に怖ろしく速い。中心ゼルネウスがある程度コントロールしているのだろうが――――――。



 どうやら、シャロンたちも気が済んだらしい。



 あぶれ者って、辛いよな……。


 アイリッツは現実逃避気味に、そんなことを考えていた。

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