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異郷より。  作者: TKミハル
『荒れ地と竜』
35/369

荒れ地を統べる王

 閲覧の方、登録の方、ありがとうございます!


 今回戦闘場面が主なので苦手な方ご注意ください。

 突然のことに、誰もが動けずにいた。尖った鶏冠、黒く潰れた眼に、針の生えた尻尾。こちらの二倍はあるかと思われる竜は台に爪を立て、首をもたげて咆哮する。


 キュィィィイイッ!


 鼓膜を振るわせる高い鳴き声に、まず先に馬が反応して暴れ始め、繋がれていた縄をブチブチッと外すとものすごい勢いで逃げていく。


 その姿にはっと我に返り、シャロンは慌てて剣を構えた。すでに臨戦態勢のアルフレッドがじりじりと間合いを詰めていて、エドウィンはそれを止めるため叫んだ。


「待ってください!こいつはバシル・クックだ!私たちのかなう相手じゃ」

 竜はその黒く潰れた目を彼に向け、思いの外俊敏な動作でブンッと尻尾を振っていくつもの針を飛ばす。

 エドウィンはなんとかかわそうとしたが間に合わず、針の何本かがその腕に突き立った。


「く、そ……毒液と、石化の瞳がバシル・クックの……」

 必死に叫ぶが、やがて彼は石像に変わった。


「エドウィン!」

 シャロンは駆け寄りたかったが、足が震えて動こうとしない。

 バシリ・クックは、シャロンたちなど眼中にないかのように、台座から体を伸ばし、下りようとして二の足を踏んでいる。


 アルフレッドが一気に間合いを詰め、竜の鈍く鉛色に光る体に斬りつけた。

 ギュィイッと竜が鳴き、口から透明な液体を地面へと吐き出し、それが地面に触れると黒く変色してシュウシュウと音を立てる。


 シャロンがなんとかエドウィンの元へ辿り着き振り返ると、竜は距離をとるアルフレッドの方へ鼻先を向け、大きく息を吸い込んで黒い息を吐きかけた。


「くっ」

 アルフレッドの上体がぐらりとゆれ、膝をつく。竜は台座から飛び降りることにしたらしく、身を乗り出している。


「アル、下がって!」

 なんとか注意をこちらに引きつけようと、シャロンはなるべく口を狙い、自分の剣をぶん投げた。狙い違わず竜の口に突き刺さ……ったかのように見えたが、バシル・クックは迷わずそれを噛み砕いた。


「馬鹿なっ」

 シャロンは驚きの声を上げたが、竜が剣を咀嚼するその隙をついてアルフレッドは後退し、姿勢を立て直した。


「毒の息か……それなら」

 シャロンはエドウィン借りるぞと石像に呟いて彼が装備していた風の剣を取り、バシル・クックが台から下りるのに苦心しているあいだに、アルフレッドの傍へ寄る。


 ドサリ、と台座から下り、体を膨らませた竜は、潰れた眼でこちらを睨んでいる。


「アル、大丈夫か」

 急いでカバンから一瓶残してあった薬を取り出し、アルフレッドへ飲ませて様子を見ると、薬が効いたらしく顔色がよくなった。


 ギチッギチギチギチッ


 嫌な音を立てて竜の背中が裂け、そこから蝙蝠にも似た翼がぬらりと先端を伸ばす。そしてピクリと潰れていた眼が動いた。


「まずいな……この上に空まで飛ばれたら」

 そしてあの眼。エドウィンが言ったことが正しいのなら……。

「シャロン。あの竜は、成長するんだ。この後はたぶん、あの眼が完全に開く」

「そうだな。石化の瞳……そうなってしまえば終わりだ。一気に片をつけよう」

 アルフレッドは頷き、

「双方に分かれて……僕が囮役をするから、シャロンは額を狙って。きっとそこが弱点だから」

そう提案をした。

「何言ってる。囮なら私が……」

 言いかけてアルフレッドの強い眼差しに言葉を止めた。

「……わかった。でも、状況次第にしよう。どちらかが隙をつき額の宝石を壊す」

 竜は羽を伸ばし、バサバサと振っている。乾くまでそう時間もなさそうだった。


 ふいに、シャロンの心に不安がよぎる。もし、こいつを倒しても石像が元に戻らなかったら……?

 ここで戦うより逃げた方がいいんじゃないか、と後ろ向きな考えが浮かんだが、彼女はなんとかそれを振り払った。……今は、ベストを尽くそう。 


 これだけの巨体で、飛べるのだろうかと疑問に思いつつも、アルフレッドとちょうど対になる位置に動き、ちゃんと発動してくれよと祈る気持ちで剣を構えてじりじりと近寄っていく。


 接近に気づいた竜が毒の息を吐きかけるも、シャロンが剣を振ると風が起き、そのブレスを散らした。


 鋭い牙を剥きだしたバシル・クックは大きく翼を羽ばたき、その上体が少しずつ持ち上がる。 


「行くぞ」

 アルフレッドに声をかけると彼がまず近づき、翼を薙ぐ。ギュィイイと悲鳴を上げながら竜が振る尾を、反対側ではじき、勢いを殺した。続いて背中を斬りつけるが、鱗が硬く刃が立たない。


「くうっ」

 うねる体に慌てて飛び退り、頃合いを窺う。アルフレッドはそのあいだも竜の吐く毒液を避け、額を狙っている。


「たぁああああッ」

 シャロンは隙を作るため、わざと大声を出して竜に向かい、剣を振りかぶった。と、今まで翼を震わせつつアルフレッドの方に集中していたバシル・クックがこちらを向き、その眼を開いた。


「あ、アルッ……」

 視界は白く灼かれ、渾身の力を振り絞って呼んだが、体が固まリ始めていく。


 その瞬間、アルフレッドの剣が額で毒々しく色づく宝石を砕き、シャロンの石化は唐突に止んだ。

「っああ……」

 体から力が抜け、そのままへたりこむ。


 ワンテンポ遅れて、

「…特殊能力です。ここはいったん引きましょう……って、あれ?」

エドウィンの気の抜けた声が響いた。

「ひょっとして……終わったんですか?」

 アルフレッドが剣をしまい、どしゃりと脇に倒れ込んだ竜は、その色を失い、もうただの崩れた石塊にしか見えなかった。 

バシル・クック=バジリスク。この世界での特徴は、体長三メートル、石化する尻尾の針及び眼力、毒の吐息ブレス

 弱点:額の宝石。これは潰された目の代わりにもなっている。

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