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異郷より。  作者: TKミハル
『荒れ地と竜』
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竜を祀る祭壇

 ヨアキムの馬にシャロンとアルフレッドが乗り、前より減ってはいるが、相変わらず大きな荷物を背負ったエドウィンが横に並ぶ。


 やはり昨日、あれだけ倒した後では、飛び交う大ワシも火蟻の群れも少なくなっている。


 一行はごくたまに向かってくる魔物の相手をするだけで、比較的楽に祭壇へと辿り着いた。


「……それでは、ここを中心に探すことにしましょうか」

 エドウィンは朝から眉間にしわを寄せたままで、その指示にもどことなく力がない。

「なんか今日は覇気がないな……大丈夫か?」

 心配そうにシャロンが尋ねるのに対し、平気ですよと首を振ってみせる。

「でも、さすがに旅の疲れが出たのかも知れませんね。あんまり無茶なことはできなそうなので、皆さん頑張ってください」

 そう言って日差しを避け、石柱の影に座り込む。なんだか本当に調子が悪そうだ。


 降り注ぐ太陽の光に、こちらも時々休憩を挟みながら二匹のトカゲを探し続けていると、崖のある方を注視していたアルフレッドが、南西の岩場の片隅を指差した。

「……あれ」


 どこからどうみても岩の影にしか見えなかったが、近づくとその影は形を変え、中からトカゲが這い出してきた。アルフレッドが間合いを詰め、一気にトカゲの首を落とした瞬間、その姿はどろりと地面に溶けて消える。


「これで、あと一匹」

 シャロンがその様子を見て呟いた途端、岩場の上から細く大きな影が飛び掛かってきた。

「そう同じ手を食うかっ」

 一歩下がって落ちてきたトカゲを避けざま斬りつけたものの、見事に宙を切り、慌てて短剣を突き立てる。


「薬が足りなくて、塗ってなかったのを忘れてた……」

 突き刺したままで呟くと、隣でアルフレッドが息を吐き、構えていた剣を戻した。

「え、と……ごめん」

 謝ってから足元でもがくトカゲに目をやれば、それはみるみるうちに手の平サイズの玉子型の石へと変わっていく。


 なんの気負いもなく拾い上げたアルフレッドが、戻ろう、とシャロンを促した。


石柱の連なる場所へと馬を駆ると、別れた時とまったく姿勢の変わらないエドウィンがこちらを見て軽く手を挙げた。馬を停めて近づけば、これだけ乾燥しているにもかかわらず、びっしりと汗をかいているのがわかる。


 シャロンの物問いたげな表情に気づいたのか、肩をすくめてみせ、

「どうやら、私も発症したようです。まあ、まだ石像にはなってませんけどね」

と言って苦く笑った。

「それより、トカゲはどうなりました?」

「あ、ああ、最後の一匹を倒したら、それがこの石に変化したんだ」

 アルフレッドが手提げカバンに入っていた例の石を渡すと、エドウィンの表情が目に見えて明るくなる。

「これは……この祭壇から持ち去られたものに間違いありませんよ。ここからは任せてください」

 よいしょっ、とゆっくり立ち上がり、手帳を取り出して地面に埋められた石の羅列を一つ一つ見比べ、修正していく。


 これはエドウィンにしかできない仕事なので、シャロンたちは魔物の動きに異常がないかを見張ることに専念する。


 やがて、日が落ちかける頃、膝をついて最終確認をしていたエドウィンが満足そうに石の配置を眺め遣った。


「これで、全部位置が正確になりました。それでは、これを戻します」

 彼が、玉子型の石を欠けた部分へと埋めると、どこからともなく暖かい風が吹いた。

 その風は、ぐるりと石柱内部をめぐり、冷えていた場所が次第に暖まっていく。


「完成、です。後は、夜明け前に三人で祈りを捧げれば、竜が現れ、呪いが収まる」

 それまでしばらく休みましょう、とそのまま石柱にもたれ、荷物から出した薬の中身を一気にあおった。


 シャロンたちが祭壇で休息を取っている頃、ストラウムのある農家ではヨアキムが熱にうなされる壮年の男を看病していた。

「あんた、すまないな……」

「いえ……困った時はお互い様です」

 青年は家々の扉を叩きすぎて痛んだ手で、食事を男の口元へ運ぶ。

「でも、本当に、いいのか?手伝うところもあるだろうに……」

「ソランさん、後の家は手が足りてますから」

 安心させるようにヨアキムは笑う。彼の他は、みんな石像に変わってしまったなんて、言えるわけがなかった。


 その夜の星は、いつかと同じように手で掴めそうなほど輝いていた。

「この祭壇は本当にすごいな」

 シャロンは祭壇の中と外の温度の違いを確かめ、感嘆の声を洩らす。

「シャロン、寝とかないと朝辛いよ」

「……わかってるよ」

 早々と地面に上着を敷き、寝てしまったエドウィンの横で、見張りの順番を決め、交代で休息を取る。


 そろそろ夜明け間近かなという刻限になって、エドウィンが目を覚まし、決められた立ち位置へ移動するよう指示を出す。


 三人がそれぞれちょうど石の陣を囲むように等距離に並ぶと、エドウィンがやがて厳かに祈りの言葉を唱え始めた。竜は、現れるのだろうか。


 やがて、ズズズと音を立て、石の陣の中央が沈み、その下から祭壇と、足が八本ある、首の長いトカゲにも似た竜の彫像が迫り上がってきた。


 夜が明ける。一筋の光が地平線の向こうから差し込み、石柱の間を通リ抜けると、どういう仕組みかそれを受けた柱が光を反射して、彫像を取り囲み、最後にその竜の彫像の額にある血が凝ったような宝石に集まっていく。


 夜明けの太陽とともに宝石は光輝き、風が巻き起こり黒い瘴気をそこへ吸収し、轟々とすべてが収束し、宝石の中へ飲み込まれていった。


 祭壇にも光が満ち溢れると、強い輝きを宿した宝石からやがてその竜の彫像は色づき、パリパリと薄い膜を剥がすように中から鈍く光る鱗に包まれた体が現れ、そこに竜が出現した。








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