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異郷より。  作者: TKミハル
幻想楼閣
338/369

VS クヒィラ 3

お待たせしました。戦闘シーンありです。それと、誤字を直しました。

 回復をしたのもつかのま、三人へと砂飛沫すなしぶきが三、四、五体近づいて、

「跳べ!」

「避けろ!」

とシャロン、アイリッツがほぼ同時に叫び、彼らは散開した。


 次々に雪崩れ込む白い巨体、砂に揉まれ、避ける自分たち……って、これは。


 シャロンは砂で圧死しないよう注意を払いつつ遠ざかり、ひたすらゴロゴロと遠くに転がって、立ち上がると、まず顔の砂を払い、アルフレッドとアイリッツを確認し、風を飛ばす。


 直接当てるのは利かずとも、風の膜を張り、その白い魔獣の動きを制限し、二人をフォローする。


 遮られたことに憤るでもなく、まるでじゃれつくかのようにそれぞれに纏わりつく三体の魔獣、後二体は、と考えたところで、下から体当たりされ、シャロンは高く吹っ飛ばされた。


「~~~ッ」

 次々に頭突きを食らわせようと高く魔獣が飛び出すのに合わせて風を操り、その二体の隙間を交互に挟まれるようにして逆に下がり、急ぎ砂地へ降り立つと、巨体が上から降ってくる前にすぐさま跳び退いた。


 ドシン、ドスッと砂の地面を震わせ、落ちてきた白の獣は、体をくねらせ中へ潜ると、砂に弧を描きながら遠く、近くぐるぐると周囲を泳ぎ、時折背中を出して、キラキラと陽光を反射させる。


 完全に遊ばれている、と、その様子を見たシャロンの目が据わった。


 …………もういい。それならそれで好都合だ。乗ってやろうじゃないか。




 バシャア、と派手に下から、追われていたらしいアルフレッドと一体の魔獣を出てきたのを見計らって、シャロンは爆風を使い、魔獣のみを吹き飛ばして合図を送る。


 一応アイリッツも巻き込まれはしたらしいが、特に負傷もなさそうだ。まあ、あんまり心配もしていないが……。


「アル……長くかかるかも知れないが、頼んだ」

 真摯に、訴えるようにアルフレッドを見つめ、声が届くよう張り上げた。

「奴が遊んでいるうちに…………その弱点を探し、見つけしだい、一気に叩く。余力を溜めておいて」



 ぎりぎりのところまで揺さぶりを、かけてくれ。アルだからこそ、できるはず。


 言葉にせず口の動きだけでそう告げると、しっかりとアルフレッドが頷いたのを確認し、続けてアイリッツに、

「リッツ……聞いたとおりだ。焦らずじわじわと攻めよう。搦め手は、得意じゃないか?アルと二人で息を合わせ、頑張ってくれ。こっちは全体を見てフォローするから」

「おう……わかった。あー、面倒そうだなー」

笑みを見せると顔に複雑な色を滲ませ、アイリッツが答えた。特に焦るようでもないその頭を風でどつきたくなったが、あいつの今の状態では意味がない。



 場違いだが、シャロンは怒るのを通り越してもう笑うしかない気がしてきた。いわゆる、やけくそ、という奴だろう。……こちらにとっては幸いなことに、まだあの魔獣は遊んでいる段階だ。この隙に、なんとかするしかない。アイリッツを。



 シャロンはもう一度口元にうっすらと笑みを浮かべ、白く砂の海に踊る、ヒレのある優美な魔獣を睨みつけた。



 アルフレッドが、アイリッツの傍へ寄る。

「……リッツ、試してみたいことがある。あの魔獣は強靭な体だが、それ以上の力を以てすれば、傷つけられないことはないはずだ」

「わかった。どうする?」

「口は危険だ。体の横からあの白い体躯を、挟み打ちにする」

アルフレッドが軽く、試すように剣を振る。


「大丈夫か?並の力では……」

「心配ない」

 そっけなく言ってシャロンに手を振ってから、

「気合を入れよう。‘試し’が終われば、いわゆる、最後の敵、ってヤツだからな」

「……そうだな」

 アイリッツが、ほんのわずか、よほど注意していなければわからないほどに小さく、震えた。アルフレッドの眉間に、砂漠に落ちた短い糸屑ほどの、しわが寄る。


「あっちは準備できたみたいだな。行くぞ」

 その、パッと見はまったく普段と変わらない無表情のまま、そう宣言して、アルフレッドは剣を構え、二人はじっと、砂の飛沫が魔獣の軌跡を描き出すのを、追い、シャロンが動くのを待った。



 縦横無尽に、砂合いを縫って泳ぐ自由な獣。シャロンはその軌道を目で追いながら、そのうちの一体の進行方向一帯に風を使い、砂の周囲を凝固して、上へ跳ね上げた。


いつもよりも重く、扱いにくい。……おそらく、あの魔獣にもこれと同等か、限りなく近い‘力’がある。



ギシリと軋むような重圧抵抗を振り切り、さらに逃れられないように風の結界で地面を覆う。同時に、アルフレッド、アイリッツの二人がその一体を両側から挟んだ。


双方、剣を抜き、斬りつける、逃れようのないタイミング。



そして、さぁっ……と白い体が、細かい光る粒子となって、ほどけた。

「な、」

「……ッ」

アイリッツとアルフレッドが標的を擦り抜け、ぶつかり合う。

体の真ん中から光る粒となった魔獣は、すぐさま実態を取り戻し、落ちざま尾を振り、二人を弾き飛ばす。


「アル、リッツ!」

叫びながらもすぐさまそれを追おうとする他の個体を牽制するシャロンの、冷静な部分が、囁いた。


……これで、相手の能力の一つが、おおよそ把握できた。



あとはアルがうまくやってくれればいいが……。



そして、ちらっと心配そうに視線を投げかけるも、すぐに切り替え、自分のことに集中する。



いつもは周囲に縮めて張る結界を、球体に作り出す。硬く、硬く。

これだけ硬くしてしまうと、中が少しずつ息苦しくなるから、どこかでまたほどいて練り直さなければ。


保つおおよその時間を計算して、シャロンは、気ままに泳ぐ白い魔獣に、風を再び練り、砂を吹き飛ばし攻撃して、挑発した。


すぐにこちらに注意が向き、その青い透明な瞳が、ゆるやかに細められた。


何も感情は映し出されていなかったが、なぜかシャロンには、


お・も・し・ろ・そ・う


という気持ちが伝わってきて、狙ったこととはいえ、ぞくりと背筋を震わせた。





白い、光の残像が、頭にこびりついて、離れないでいる……



跳ね飛ばされた二人にさほどダメージはない。シャロンが、風で衝撃を和らげた。


アルフレッドは飛ばされる途中で体制を立て直し、地面に着地と同時に剣を突き立て、その勢いを殺し、すぐにアイリッツの元へ向かう。



奴は、呆然と突っ立っていたが近づくとこちらを向き、くそッやられたな、なんて悔しそうに言ってきた。



その頬から、雫が伝い、ポタッ、と砂地に染みを作る。



涙……?



「どうした……、すぐにシャロンのところへ、」

「いや、いい。それよりも今はおまえだ」

アイリッツは、明らかに怒りを籠めて睨むアルフレッドに、ためらい、じり、と足を一歩後退させた。




アルフレッドは、奇妙な生き物を見る目で、アイリッツを見ていた。



足がつかない、か、自暴自棄、か。こういう状態のことをなんていうのがしっくりくるのかは知らないが。



アイリッツがもし、魔導装置を基に生まれたものならば、魔導装置の核を潰せば、こいつはどうなるかわからない。


その存在を保てたままで、居続けられる、というのは、可能性の一つであり、あくまでも、希望的予見に過ぎない。



あの魔獣の姿を見て、この戦いで、ひょっとしたら消滅するかもしれない自分が、怖くなったのか……?なぜ、なぜ今更……?


ギリ、とアルフレッドは歯噛みし、射殺しかねない眼差しで睨みつけたが、それでもなんとか言葉を絞り出し、

「もういい……アイリッツ。おまえがこの戦い……先に進むことを疎むなら、留まれ。来なくていい。重要な仲間が一人欠けるのは痛手だが」

本当は殴ってでも、引きずってでも、連れていきたいが、それでは意味がない、と堪えて、そう告げた。




「なんだって……?」



アイリッツは、戸惑っていた。アルは何を言っている……?


オレが、オレはこの先に進むことを怖がるって……?



ありえない。



アイリッツはそう思うと同時に違和感を感じ、まず自分の両手を見た。 その手は、固く強張ったまま、細かく震えている。





ああ、そうか。



「少し、待ってくれ」

アイリッツはそうアルフレッドに呼びかけて、静かに、探るように、深く両目を閉じた------。

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