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異郷より。  作者: TKミハル
幻想楼閣
336/369

VS クヒィラ 1

戦闘シーンありです。

白い体躯は、テスカナータで戦ったあの魔獣を思わせる。あの白鯨に似た魔獣よりも小柄で、頭部が尖り、より機動力の高い体をしならせ、固い砂の大地をものともせず、自由に泳ぎまわっている。


 乾いた風が渡る中、優雅に体を翻し、跳躍する姿は、美しく絵になる光景だが、滑るように動くそれは、他の追随を許さない。


……さて、どうしよう。


 砂から仰向けになり、純白の胸ビレを出して振る魔獣を見ながらのシャロンの物思いを遮るかのように、

「んじゃ、行ってくるわー」

「シャロン、援護を頼む。狙いは、頭部だ」

アイリッツとアルフレッドが口を揃えて言った。


「やはり目を狙うのか……?」

 弱点とは程遠そうだとは思うんだが。


「もちろん。ってか、他に目印ねえし」

 アイリッツが悠々と砂の海を泳ぐ魔獣を睨みつけた。そこには苛立ち、動揺……?かすかなブレが滲む。


 らしくない。やはり、終わり間近となって、アイリッツも焦っているのだろうか。


 なんとなく“試し”はこの戦いで最後だ、という予感がシャロンにはあった。だからこそ、慎重に、との思いもある。


「シャロン……行かなければ、始まらない」

 アルフレッドが静かに言った。


「わかってる。私は、援護だけでいいのか?」

「奴には、魔力の攻撃は効きにくそうだから」

 戦っているあいだにとっかかりを探れ、とアルフレッドは言葉にしないながらも告げている。


 テスカナータの魔獣はどうしたんだったか……確か、ジークの毒つきボウガンで動きを鈍らせ、ほぼ一方的にこちらが攻めていた。そういえば、ジークはどこにいるのだったか………?


 仕掛けようとしないこちらに、魔獣も焦れたのか、声音を変え、キュイキュイ、と抗議するように強く鳴いている。


「……?」

 何やってるんだ?とばかりに眉を寄せるアイリッツに、

「それじゃあ、送る」

シャロンは思いきり風を叩きつけた。


 わお、と小さく叫び声を残し、奴が飛ぶ。続いて、アルフレッドにも風を下から強く叩きつける。高く、少しばかり白の魔獣から離れた方向へ。


 来た!


 風を操作して誘導するはずが、むしろ魔獣の方から空を舞う二人へ嬉々として近づいている。白い魔獣に跳びつかれ、体当たりで吹っ飛ぶ二人の姿が目に浮かんだ。


「何だコイツは!」

 アイリッツの台詞は、シャロンの気持ちをも代弁していたかもしれない。風を操り、体当たりの直前でやや二人を浮かせ、頭部が下にくるよう調節して、


かぱりと魔獣がその口を開いた。


 あ、まずい。


 口から衝撃波が放たれ、シャロンがそれより早く風を二人にぶつけ、回避させる。散らされた二つの木の葉のように舞ったアイリッツとアルフレッドはそれぞれ横から、魔獣の体を突き刺した。


 キュゥウウウウ!


 魔獣が威嚇なのか叫び、振り落とそうと左右に身をくねらせ、地面に叩きつけられるその直前で二人は離脱した。


「くっ……!」

 今が好機だ。シャロンは目を凝らして風を操り、二人を純白の真上に押し上げる。二人がそれぞれに剣を構え、落下速度を衝撃に変えて魔獣の体を、貫いた。


「あ?」

 砂煙が立ち上り、貫いた、と思った魔獣の体が消える。


 キュィイイイイ!


 砂の下から、白い体躯が突き上げ、二人を空高くへ吹き飛ばした。


「…………」

 シャロンはその勢いを殺さず、風に乗せて、一度二人を傍へ呼び戻す。


 二人は怪我もあまりなく、ドサリ、トン、とそれぞれふてくされ、あるいは平静なままで戻ってきた。


 あの魔獣は余裕を崩さず、悠々と体をくねらせ砂の海を泳いでいる。


 やがてどっかりと座り込んだアイリッツが、

「あいつを倒すには、やはり協力ぷれい、が重要だな」

わざとたどたどしく告げた。



 シャロンはふぅ、と息を吐き、瞼を閉じて気持ちを落ち着かせ、

「ひとまず、まとめよう。あの巨体は、硬い」

「白く、滑りがいい」

「おまえら、やる気あんのかよ」

おもわず、というようにアイリッツが唸る。


シャロンが笑い、

「冗談だ。いや、そう冗談でもないけれど。白く硬く、滑らかで捉え辛い。全体的に防御力が高そうだ。……が」

「奴は、遊んでいる。まずはその隙を突く」

「おまえら、本当似てきたんじゃないか?言葉使いとか」

アイリッツが呆れた。


「二人でわかっていないで、オレにも頼むよ。あいつの攻略はどうする?」

しゃがみ込んだまま、ひそひそ話でもするようにアイリッツ。

「なんだろうな……あの一瞬で、巨体が掻き消えたように見えたが。幻術……?」

 シャロンがぼんやりと言えば、

「この“場”はヤツが創り出したものだからな……強い“気”で満ちていて、発動も予測しにくい。その可能性はある」

気を抜くと酔いそうなくらいな、と首を振った。


「術か……やはり引っ張り出さないことには、どうにもならない、か」

「もう一度、オレが引きつけるか。やっぱり、攻撃するとしたら、内部からかな?」

そう、呟いて立ち上がる。

「……」

「……そう決めつけるのは早い」

アルフレッドの言葉に、うわ、本当に似てきたな、と苦い顔になり、じゃあいってくるとアイリッツは砂を蹴り走り出して、ズザザザザと砂の飛沫を立てて過ぎる巨体を追った。


「……こちらも動こうか」

 どうもすっきりしない、と頭を振るシャロンに、アルフレッドが、

「あれ、はどうする?」

「まあ、しばらく放置で」

 普段ならもう少し鋭く、キレのあるアイリッツの行動に粗が目立つ。そしてやや不安定。酔いそうだとか言っていたが、それだけじゃなく、何かがある。何かはわからないが。


 内心シャロンは首を捻り、様子を見るようアルフレッドを促した。アルフレッドは一足先にあの白い魔獣の元へ行き、追い立てている魔獣の軌道をじっと見つめ、タイミングを計っている。


 アイリッツが簡易結界を張り、魔獣の行く手を阻む。ここだ。


 風で、魔獣が跳び出すのに合わせて、その鼻先へアルフレッドが飛ぶ。

  

 さて、と。


 隙を窺い、魔獣に対峙する二人をフォローしていたシャロンもやがて結論を出した。風を使い、近くへ飛ぶ。高く跳んで相手を挑発するアルフレッドに合わせて跳躍した魔獣の下、砂の上に風の膜を張り、退路を塞ぐ。


「アル、剣を」

 それだけでアルフレッドが頷き、

「はっ!このオレの攻撃が防げるかな!?」

仕掛けるのを悟ったアイリッツが、大声で魔獣を引きつけ、落下状態から、身を捻り、その後頭部を狙い打つ。


 その攻撃を避けるため胴体を反らした魔獣のそのエラ……と思しき窪み、そこにアルフレッドが“力”を籠め、剣を突き立てそして離脱した。


「!!」


 アイリッツが呆気に取られる間もなく、シャロンは空気を振動させ、摩擦により一気に雷電を起こす。ただ一点、アルフレッドの剣目掛けて。そして、雷が落ちた。


「あっぶねえ!」


 自分のまわりに結界を張ってアイリッツが叫びつつもチャンスを逃さず小剣“倹約家”を突き立てた。次いで、“穀潰し”も、と振り被ったところで、やはりその剣は空を切る。


 シャロンが動いた。後方にまわったアルフレッドを確認し、アイリッツに風を叩きつけ、後ろ側に飛ばすと、同時に砂に剣を突き立て、粒と粒の隙間にある空気を意識し、奥深くから、上へと一気に巻き上げる。


 膨大な量の砂が風で巻き上げられ、奥に潜む白い巨体が剥き出しになった。そのまま砂を邪魔にならない位置に吹き飛ばすのと同じくして、アルフレッドが擂り鉢状に空いた穴へと滑り下り、身動きが取れずにいる純白の魔獣の背へと剣を力いっぱい突き立てた。


 ギュァィイイイイ!


 魔獣の悲鳴が上がる。アイリッツの剣が、そこへ飛来し、追い討ちをかけるように白い皮膚へ突き立った。


 バシィッ 


 突き立ちダメージを与えた剣が、強い力で跳ね飛ばされた。


 白の魔獣が口を開け、ィイイイイイイイ、と音にならない衝撃波を飛ばす。せめてアルフレッドには風を、と覆ったのが功を奏し、彼は素早く跳ね飛ばされた自分の剣を回収し、戻ろうとして、砂にズボッと足を突っ込んだ。


 ズズズズズ、と魔獣を中心に、砂が渦を描き引き寄せられていく。シャロンは疲れた身体を叱咤して、アルフレッドのために砂を圧縮し道を作り、それを彼が駆け上がる。


「アル!掴まれ!」

 途中でアイリッツが、アルフレッドに鉤縄を使い、彼は切り立った砂の淵を一気に脱出した。そのすぐ後に砂が渦巻いて引き寄せられ、巨大な穴が振動と爆音とともに埋め立てられていく。


 やがて、それらは少しずつ収束し、辺りを静寂が覆っていく。



 完全に音が止んだ、と思った次の瞬間、


 きゅいきゅい!


いっそ無邪気ともいえるほどの鳴き声を立て、砂地から白い体躯がまったく変わらぬ姿を見せ、巨体に似合わず軽々と跳躍し身を翻すと、砂の深くヘとまた再び潜っていった。

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