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異郷より。  作者: TKミハル
幻想楼閣
335/369

砂寥に潜む、無垢なるもの

大分遅くなりました。番外がまだかかりそうなため、先に本編を投稿します。

 戦闘シーンありです。

※前回までのあらすじ

中央都が人知れず危機に瀕しているのを察知したシャロンとアルフレッドは、魔導装置によって造られた異界を、自ら正体をバラした男アイリッツとともに旅をし、その核ともいうべき存在に迫り、その‘試し’を受けている最中であった。

二体倒したところで、やっと束の間休息する彼らだったが……!?


 長くも短くも感じる時間ののち、ビュウウウウウ、と強く風が吹いた。荒地から砂が、つかのま休息を取っていた三人に叩きつけられる。


「嵐、か」

 アイリッツが暗雲立ち込める空を見上げた。風が収束し、細く長く天まで螺旋を作っていく。

「おい、シャロン!出番だぞ」

「ぅ……うん」

 肩を揺さぶり起こし、きつい一撃を食らい押しのけられる前にとさっさとアルフレッドに渡した。


 再び砂が吹きつけられ、顔をしかめて目を覚ましたシャロンは、すでに荒地にいくつも起こり、長く太く育ち始めた竜巻を見やり、ぼんやりする頭を振り、剣を構えた。


「風よ」

 剣に力を籠め、竜巻を潰すのではなく、逆の方向へ風をぶつけて散らす。何本も立ち、巻き上げる風はさらに強まり、土を削り、罅割れた地面を持ち上げた。


「アル、リッツ!」

 より‘力’を無駄なく使うため素早く決断しシャロンは、剣に意識を残したまま手を伸ばし、二人の腕を捕らえ、きつく掴むと、潔く竜巻へ飛び込んでいく。


 おいっ……と上げたアイリッツの抗議は風で吹き飛んだ。渦に呑まれた三人はぐるぐると回転し、上へと巻き上げられ、斬りつけられるような冷気の雲の中で、突然放り出された。


「うぁああああーッちょい待ちッ」


自らの重みに従い、一転急降下する彼らに、シャロンが幾層も風の膜を作り、錐もみ状態から落下速度と衝撃を和らげ、あっというまにボスン、と下へ着地した。


「……うるさい、アイリッツ」

 完全に髪の毛が逆立ってしまったアルフレッドが、低く言って嫌そうな顔で癖のついた髪を押さえにかかり、うわ、と呟くシャロンは鳥の巣状態に絡み合う髪の毛から砂を払う。

「あーびっくりした。でも、こういうとき短いと得だよな」

 さっさと髪を整え得意げなアイリッツは、やがて荒地から姿を変えた周囲へ油断なく目線を走らせた。



 先ほどの竜巻が嘘のように空は穏やかで、高く青く澄み、その下には……一面の砂がところどころ隆起を成し、果てなく続く赤茶けた寂寥の大地。時折風が吹き、砂に波紋を描いて渡っていく。


 果てしなく続く無限が不安を感じさせる、砂と、たまに転がる岩だけの、静寂の世界がそこには広がっていた。


 髪の毛から砂を払い、なんとかひとくくりで結んだシャロンは、

「それで……次の相手はどこに……?」

と呟いた。



 ズザザザザザ



 それに応えたわけではないだろうが、遠くの砂地の一部が砂煙を立て、ゆるやかな曲線を描き、どこかへ渡っていく。


「何かいるな」

 アルフレッドが、そう端的に表現し、手をかざしてその位置を見極めていたアイリッツが、

「………風、じゃあない。アレ、だろうとは思うんだが」

向かってこないな、と呟いた。



 まだ寒さの残る風は、徐々に過ごしやすくなり、太陽が真上になるころには相当暑いだろうなというのが簡単に判断できたので、体力の温存のため、じりじり歩いて距離を詰めていく。ザザザザザ、と砂は派手に縦横無尽に、好き勝手に動き、またふいに消えて、位置がわからなくなる。


「なんとなく位置は掴めるんだが……オレの“気”をぶつけるぞ。3、2、1」

 ヤッ、と気合とともに、バシ、と砂の下の方で小さな音がした。


 最初は小さく、次第に大きく。ズズズズ、と地面が揺れ動き、目の前が突然盛り上がった。


 バシャアッ


 盛大に砂を撒き散らし、構える三人に容赦なくかけながら飛び出したのは、ぬるりとした光沢を放つ、白い巨体。大きなヒレと、平たい尾が、横を薙ぎ、砂をさらにこちらに大量にかけて再び潜っていった。


 きゅいきゅいきゅいッ


 どことなくはしゃぐような声が響き、くぐもって砂に呑み込まれていく。



さほど衝撃を受けたわけではないが、互いに無言でそちらを見やる。多分、別の意味で衝撃を受けていたのだろう。


 遠くで意外なほどの身軽さで、砂地から大きく細長く見える姿が、バシャァ、と飛び出した。


白いヒレのついた体は、魚に似ているが鱗がなく、のっぺりとしている。体を翻し、腹部をこちらに見せたかと思うと、また砂へと潜っていく。


「あれ、を倒すのか……」

「ああ。少しコトだな。シャロンの風かオレの“気”をぶつけて出させ、攻撃にまわるしかない。だがそれとなく……防御に秀でるタイプに見えるな、あれは」

 照りつける強烈な太陽の光から目を細めてアイリッツがそう告げ、

「ああ。あのぬめぬめした皮膚は、刃が滑りやすい。斬りつけにくそうだ」

とアルフレッドが言って、

「一刀一刀、常に“力”を籠めるしかない」

剣を一振りした。


 そのあいだにも、ズズズズ、ザザザザ、と砂地は波打ち、弧を描いて動いていく。傍に来る気配は、今のところ、ない。



 その様は、自由に遊びまわる無邪気な生き物を思わせるが……。


 シャロンは息を長く吐き、戦いにくいな、と考える自分自身に気合を入れ直した。



「アルたちのところへ、追い込んでみる」

 シャロンは、跳ね上げられた砂の動きを追いながら、その行き先を予測し、まず先にと風を使い、自らの速度を増して、先回りをと試みた。


 シャロンの纏う風に合わせて、砂煙とともに地に軌跡が描かれ、砂の中を泳ぐ白い獣を追う。“力”を加減しながら、追いすがり、時に交差する二つの筋。


 そのまま追い抜かし、跳ねた砂が曲がる絶妙なタイミングで、シャロンは砂の奥の、魔獣の頭部周辺の空気を圧縮し固定した。


 ゴィン、と音が響き、たまらず砂地が盛り上がり、そこから白い体躯が背を逸らしながら地上へと飛び出していく。


 きゅいー!


 何度か飛び跳ね、ごろごろとのたうつ姿は愛嬌たっぷりだが、シャロンはそこへ容赦なく風の一撃を加えた。


 バシィ、と音がしたものの、白いなめらかな体には傷一つついた気配がない。


「やはり駄目か……」

 呟くも、すでに次の手を打ち、アルフレッドに“加速”をかけて走らせ、トン、と地を蹴った彼が跳ねる巨体のヒレを避け、その頭部に剣を突き立てた。


 きゅいきゅいッ


 細く、青い硝子球を嵌め込んだような目がアルフレッドを見た。額には血の色をした宝玉が嵌め込まれ、赤光が辺りを焼いた。


「くッ」

 炎ではなく、熱がその場を支配し、熱砂が渦巻き、アルフレッドを襲うも、間一髪でアイリッツが結界を張り、シャロンの風が彼らを遠ざける。



 きゅいきゅいッ


 おとといおいで、とでも言うように片方のヒレをひらひらさせ、反り返った巨体は再び砂地へと潜り、縦横無尽に中を泳いだかと思うと、二三度砂地から飛び出し、美しい曲線を描いたり、くるくると回転したりしてまた砂地へ潜り、余裕の表情を見せている。



「二人とも、大丈夫か」

 シャロンが岩陰で休む二人の元へ戻れば、アルフレッドが、怪我はないと答え、あいつ舐めやがってとアイリッツが舌打ちする。


 ……どうしよう。あれが可愛くみえるのは、私だけか。


 シャロンは目を細め、再び溜め息を吐いて気持ちを入れ替えた。



「とにかく、砂地から追い出し、攻撃を続けよう。あの龍と同じだ。繰り返せばダメージは募り、体力を奪う、はず」

「うーん、個人的には殴ってボコボコにしたい気分だな」

シャロンは非現実的な台詞を言うアイリッツを、呆れたように眺めた。

「やってきたらどうだ。あれに潰されでもしたら頭が冷えるんじゃないのか」

 ペッ、と口に入った砂を吐き出してアルフレッド。


 険悪な雰囲気になる前にと、慌てて、

「さ、作戦は、きちんと練っといた方がいい!今余裕のあるうちに!……私かリッツが砂から追い出して、それからどうする?」

「……目か」

「目だな」

 二人が同じ意見を口にした。


「額か目を狙うのがセオリーだが、あの宝玉は硬いし、フェイクという可能性もあるから……目を狙いそこを攻撃する。もちろんカウンターを食らう前に、離脱、でね」

 ぱちっとアイリッツが片目をつむってみせた。……今の流れでウインクする必要はあったのだろうか。


 アルフレッドが予備動作無しにアイリッツの脛を蹴ろうとして避けられ、渋面で、

「効かなければ他の出立てでいく。通常ならヒレか腹なんだが……エラという手もある」

と、頷いた。

 

 バシュッバシュッバシュッ


 砂地で三回白いのがバウンドした。ごろごろと転げまわり、再び頭から潜って楽しそうだ。



「あの野朗……見てろ。今度はオレがやるよ。奴の鼻を明かしてやる」

アイリッツが剣を握り、不敵な笑みを浮かべ、じゃ、行くぜと走り出す。


「鼻、あるのか……?」

 気持ち的にも置いていかれた感のあるシャロンはつい、内心の疑問を口にし、続いて、


 これは、あれだ……。いわゆる精神的同レベルで張り合ってる、という奴、なのでは……?


と限りなく正解に近い考えを導き出した。



「シャロン、そこは仕方ない。それがリッツだから」

内心の呟きを読み取ったのか、達観したような表情でアルフレッドが肩をすくめてみせた。

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