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異郷より。  作者: TKミハル
『荒れ地と竜』
33/369

文献によれば

 今回短めです。そして説明の会話ばっかりでごめんなさい……。

 夕方、ターミルへ着くと、シャロンの体にどっと疲れが押し寄せてきた。

「シャロンさん、私たちは一度別行動を取りますが……またあの宿の食堂で落ち合いましょう」

 魔物退治の報告のためか、エドウィンとヨアキムは連れ立って町の中心地へと向かって行った。


なんとか宿へ戻り、アルフレッドを部屋に運び入れ、腫れが引いているのを確認してから消毒と包帯という簡単な手当てを済ませると、かなりの時間が経っていた。

「あ……ありが、と」

「しゃべるな。こういうときはさっさと寝るのが一番だ」


 無理に体を動かそうとするアルフレッドを半ば強引に寝かしつけて一階へ向かうと、食堂ではエドウィンとヨアキムがたくさんの酒や料理を前に手を振っていた。

「大ワシと火蟻退治、お疲れ様でした」

テーブルに着くとすぐ、エドウィンが声をかけてくる。

「アルフレッドさんの具合はどうでした?」

「ああ、腫れも引いて、かなりの勢いで回復しているみたいだ。薬が効いたのかも知れないな」

「そりゃそうですよ。何せ一つ30銀貨もするんですから」

「ええ!?あれがそんなにするんですかっ」

ヨアキムの声は食事をする人たちの喧騒に紛れ、目立たずに済んだ。先に言われたシャロンは微妙な表情をしている。

「二つで60銀貨か……」

「ちゃんと言いましたよ?よく効く代わりに、値が張ると」

 含みのある笑顔。じゃあ、果たして魔物退治の報酬はいくらだったのかと、シャロンは当然の疑問を抱いた。


「そういえば、魔物退治の……」

「そう、そのことなんですが……依頼主には、経過報告という形にしました。まだ、完全に脅威が去ったわけではないし、ヨアキムの村も、ターミルからの通行が途絶えていた方がよさそうなので」

「そのとおりです。だから、シャロンさんも魔物の数が減ったことは話しちゃだめですよ」

「……そうか、わかった。竜の使者は残り二匹だが、心当たりは?」

 僕にはちょっと、と言葉を濁すヨアキムの横で、エドウィンが、

「町と村のまわり、荒れ地と草原もかなり探索しましたが……まだ探していない場所があるじゃないですか……あの竜の祭壇ですよ」

静かに言った。

「そう、か。確かにそこにいる可能性は高いな」

「ストラウムの状況はかなり進んでいます。確かめてみなければわかりませんが……最悪、すべてのものが石像になっている可能性だってある。そこから広がり出せば……もう歯止めはかからない。だから、明日、もし二匹のトカゲが夕方までに倒せたなら、一気に儀式もやってしまいましょう」

 エドウィンの力説に、シャロンは首を傾げる。

「一気にって……竜を呼び出すんだろう?危険じゃないのか?」

 彼はふっ、と笑い、

「何を言ってるんですか。竜は……っっと、そういえばここは説明してませんでしたね。私の読んだ文献によれば、竜というのはこの辺一帯を統べる守り神。はるか昔、疫病を封じ込めるために知恵者が魔法技術の限りを尽くしたご神体、つまり、彫像なんです」

 思いもよらない言葉に、シャロンはやや呆然と、

「……そうなのか?」

と誰にともなく呟いた。するとヨアキムが眉根を寄せながら頷いて、

「僕もあれから村でいろいろ調べてみたのですが、なんと村長のところに昔からの言い伝えがあったらしいんです。夜明け前に竜の奉られし祭壇と、そのご神体に真摯な思いを捧げ、呪いを鎮めよ、と……」

「そう、私の調べた話でもあの場所が正常でさえあれば、有事の際に祈ると、あの遺跡の祭壇から竜の彫像が現れ、呪いを浄化する仕組みになっているんです。よく考えてあると思いませんか?」

 まるで大切な宝を自慢するように話したが、

「なぜそれを最初に、あの祭壇で祈ってた時に言わない」

ひそかに竜が出現するのではと心配していたシャロンにとって、そのエドウィンの話は疲れが増すだけだった。


 翌朝、シャロンは馬小屋からウルスラを出し、その手綱をヨアキムへと渡していた。

「本当に、大丈夫か?」

「ええ。もう決めたんです。僕には僕のやるべきことがある」

 ストラウムへ戻り、みんなの生活を助けたいから、と微笑んだその顔には曇りがない。

「このウルスラも持ち主に返さないとね。……彼がまだ石に変わってなければ、だけど」

 自嘲気味に呟いてくるりと踵を返し、それじゃあ、と手を振った。


「……馬、交換したの?」

 体のあちこちに包帯を巻いたアルフレッドが馬小屋からこちらへ向かってくる。時折動きにくそうではあるが、昨日のことを思えばその回復は本当に驚異的だ。

「うん。そういえば、こいつの名前聞きそびれた」

「知らなくていいんじゃないかな。もしそれに乗っていくなら」

 シャロンは情が移りやすいから、と言ってさっさと宿へと帰っていく。


「なんだよ……」

 そんなことない、と言いかけてやめ、しばらく彼女はアルフレッドの去った方を見つめていた。

ヨアキムが呪いにかからなかった理由その2→実はストラウムの村人は太古に竜の祭壇を管理していた守り人の末裔で、魔法耐性値が高い者が多く、呪いの進行が遅い。

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