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異郷より。  作者: TKミハル
幻想楼閣
314/369

VS 守護龍 5

引き続き戦闘シーンに伴う、グロくてアレな描写があります。ご注意ください。遅くなりすみません。

 どくりと心臓が嫌な音を立てる。暗い闇を湛えた眼窩が、目もないのにこちらを見据え、幾筋もの傷跡が脈打つように蠢いている。もはや、その姿自体が混沌と化した蒼龍が、吼えた。


 ギュギィイイィイイイ、と軋みつんざくような叫び声が、鼓膜を、空気を震わせ響き渡る。


 尾がギチリと音を立て振られ、こちらに何か―――――鱗交じりの肉片としかいいようのないもの――――――を飛ばしてきた。


 体躯がたわみ、内臓を引きずりながらながら地を蹴り、飛びかかってくる。


 相変わらず龍自身に風は効きにくく、シャロンは逆風により、アルフレッド、アイリッツが散開しやすく助けていく。二股にベリリと避けた尾に狙い打たれたが、風で防ぎつつも、うかつに攻め入るような真似はせず、一時距離を取る。

 


 ―――――どうしたらいい。中身がアレでは……。


 受けた腐蝕で崩れ落ちたアルフレッドを思い出し、心臓を握られるような慄きに、じっとりとかいた汗を拭う。そこへ、細長く蒼い鞭のようなものがしなり、シャロンの張った風の結界を打った。壁にぶち当たり、ゆらゆら揺れながらこちらの様子を窺っている。


「うかつな真似をすれば触手プレイに突入だな………」

 アイリッツが真剣な表情で呟くのが聞こえた。……触手ぷれい、というのがよくわからないが、新たな攻撃の一種かも知れない。


 シャロンも真剣な眼差しで油断なく構え、ヒュンヒュンと細く長い触手を彷徨わせる蒼龍に向き合い、アルフレッドは、アイリッツのすねを蹴った。


「ちょ、おい何をする!」

「妙なことではなく、手段について考えろ」

「…ああ、もちろん考えてるさ。ここは、オレの結界でいくしかないだろ」

「概要。あと、さっさと張れ」

「わかってるっつうの」

 ぶつぶつ言いながらアイリッツがこちらに合図し、三人の周囲に薄く結界を張る。風のみでは不安を覚えていたから、ちょうどいい。


 そういえば、とふとシャロンはこの逼迫した状況にも関わらず、アルはいろいろ語彙が増えたな、としみじみした。まあ、その増えた語彙が、ひたすら会話の短縮のみに活かされている気がしてならないが。



 龍の口がビリりと開き、赤、紫のまだらの吐息ブレスが吐き出され、シャロンの風で阻まれるも広範囲に渡り地面の色を変える。周囲に、毒の煙が立ち込めていく。


踏んでつるっとか滑ったらアウトだな、とまたもくだらないことを考えるアイリッツと同じくして、シャロンも、踏み込まないように気をつけよう、と眉根を寄せていた。……龍との戦闘に集中している時が危ない。


「……行こう」

 地を掻き、跳躍の仕草を見せた蒼龍へとアルフレッドが先陣を切る。風の加護もあり、速くまっすぐに毒溜まりへ。

「なッ」




 まだろくに作戦練れてもいないのにしょうがねーな、というぼやきとともに、アイリッツも同行し…強大な龍が、内臓を引きずらせながらも跳躍した。長い首から肉がずる剥け、下から骨が見え隠れする。彼は、再び口を開き、辺りに毒液の吐息ブレスを撒き散らした。


 それとほぼ同時、飛び退ったアルフレッドの剣が地に叩きつけられ土を削ぎ、毒溜まりの隙間を縫って龍へと向かう。


 ああそうか、とシャロンは舞い散る毒の飛沫を、シャロンが風で巻き上げ、戦闘の邪魔にならないよう固めて吹き飛ばす。


 龍の苛立ちとともに長い触手がシャロンを害そうと振られ、飛び来る肉片に風を展開すればべちゃりと結界に当たり、ずり落ちていく。バシリと風の結界を叩いていた触手が突然、その動きを変えた。


 一点のみに力をかけた直線の攻撃に、やすやすと結界は破られ、シャロンは間一髪で避けざまその触手を薙ぎ払った。ビチリ、と嫌な感触が手に伝わる。それを開始の合図にか次々に結界を破ろうと触手が一斉に襲い掛かってきた。あたりに、うっすらと紫の霧が立ち込める。ここで、風の操作を揺らがすわけにはいかない。


 シャロンの気概も虚しく、再び風の結界が破られた。避け、薙いで斬り捨てる。数が多い。


 アイリッツの結界はどうなってる、と、舌打ちとしかけたところで、何か、取り巻く気配が増加し、数多く突き破り、迫り来た青黒い触手の群れが、一度に遮断され、あるいは斬れ落ちて地面へと叩きつけられ、あるいはシュウシュウと煙を立てて溶かされいく。


 半目でアイリッツを見やれば、指をピッと立て爽やかな笑みを向けたかと思うと、また龍との戦闘へ戻っていく。


 アレらを一網打尽に削ぐ囮にされ……いや、信頼された。そう考えることにしよう。


 シャロンは気を取り直し、触手の群れへと向き直った。  



 明らかに、龍の周辺を漂う、触手の数が、増えているような……いや、倒せばいいだけの話だ、と気合とともに剣を握り締め、首筋から後頭部へと一閃の悪寒が走り、振り向きざま飛来した何かに向けてその刃を薙ぎ払った。


 ビチリ、と切れ落ちたはずの触手の肉片が、その刃に跳ねるも、怯むことなくずらりと牙の生えそろった口を剥き出し、また跳び掛かり齧り付こうとするのを、鳥肌を立てながら切り刻む。一体、二体、三体……触手も手(?)を休めることなく、シャロンの結界を突き破ろうと襲い掛かってきた。


「この、ッそったれッ」

 罵りながら気合を入れつつ、シャロンは一度取り巻く風の結界の幅を縮め、一気に解放した。ずっと、鳥肌が半端なく立っている。そして、気持ち悪い、というのもまどろっこしく、きもい、としかいいようがない。

 

 ばらばらの肉片として跳ね飛ばされた触手たちは、性懲りもなく、ピョンピョン下を跳ね、蒼龍の元へ行き、再びその血肉として組み込まれていく。


「きゅ、究極の再利用だ、な………」

 腕を擦るシャロンは悪寒を紛らわせようと、そんな言葉をつい零していた



 結界と風の加護に助けられ、アイリッツとアルフレッドは、ひたすら龍の体と戦っていた。ずぶりと柔らかい嫌な感触とともに肉を裂き、骨を絶つ。


「駄目だ、これは」

 アルフレッドが舌打ちしながらも、振り払おうとする龍の腹に剣を突き立て、斬り開く。やたら手応えのない体は、どこをとっても、大してダメージを与えているようには感じず、

「一応、力は削っているはずなんだが……細分化されすぎてる」

「分かるように言え」

 アイリッツがザシュザシュザシュと、おおよそ手当たり次第にしか見えない攻撃を食らわしながらの呟きに、アルフレッドが吐き捨てた。

 

 ぷちぷちぷち、と傷口から溢れる黒の体液が泡立ち、肉から牙が生えた。ガチ、ガチガチッ、と歯を立て突き立てられた剣を四方から咥え込み離さない。

「くッ」

 アルフレッドの顔に焦りが見え、その横から龍の皮膚が裂け、赤くぬめる巨大な舌が勢いよく伸ばされ、捕らえて呑み込もうとするも、アイリッツがすかさず“倹約家”の小剣で牽制し、“穀潰し”で薙ぎざま斬り落とす。


 斬り落とされた舌先を、また別のところから生まれた口が、ぐぅっと捕らえすかさず呑み込み、体内へ戻していく。


「つまり、細工飴のように切っても切ってもキリがないってヤツ?」

「意味がわからない」

 アルフレッドが鼻を鳴らし、龍の唸りを聴き、噛み砕かんと伸ばされた攻撃を避け、剣に力を溜めて振り払いざま腹を蹴って、一時離れた。アイリッツも追ってやはり龍から距離を取る。


「ああ、気持ち悪ぃ……」

 腕を擦って鳥肌を収めようとしているシャロンの元へ戻り、

「さて、改めて。どう攻略する?」

と不敵に笑みを浮かべつつ、問いを投げかけた。



「分断し、アイリッツの結界で、焼き払う」

「ま、それしかないだろうな」

 シャロンの意見に、はは、笑うアイリッツ。こちらも考え込んでいたアルフレッドが、

「それにはもっとも効率のいいタイミングを選ばなければいけない。無駄打ちさせる意図があるかもしれない。あと、他の方法もあるはずだ」

と珍しく長く、しかも、相当に鋭い意見を述べた。



……いや、彼の能力の高さは、よくわかってはいるけれども。近くにずっといたし。




「そうだな。例えば、どこかに、魔力の核というべきものがあって、それを破壊するなんていうのは……」

ふと浮いてきた思いを沈め、難しい表情で考え込むシャロンに、ああ、多分ないない、とアイリッツが手を振って、

「探ったけどな、それらしいモン、見当たらなかったぜ。おそらく、核があると探ったら、パクリとやられるパターンだ。地味でもちまちま削るしかない」

「あれをか………」 シャロンは、腐り落ちかけた体躯を震わせ、羽根をバサバサと広げて、地を後足で掻く龍を見やった。……あ。


 飛び立つ気か…………!!


 急ぎ風を練り、羽根を狙い放つも、特に効いた様子もなくやすやす跳ね返される。しまった、奴に直接風が効きにくいのを…………!


と焦るシャロンの目の前で、龍は羽根を動かし高く上空へと飛び立っていく。


「おいリッツ!奴が飛び立ったぞ!」

「うん、まあ、そうだけど。きちんと案は詰めといた方がいい。それに……上空から地に降り立つ時が、もっとも都合のいい、攻撃のチャンスとなる」


 ぱた、ぱたぱたぱた。


 上空で優美な曲線、完璧な円を描き飛び続ける小さな影。それを睨む三人の上に、やがて、赤黒い雨が降り注いできた。

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