VS ドリアード 4
大分遅くなりすみません。短めですが更新いたします。戦闘シーンありです。
枝を伸ばしたシダ類から、滴が降り落ちてくる。シャロンは自身と、アルフレッド、アイリッツにかからないよう風の結界を操っていく。
アルフレッドが伸ばされた枝を足がかりに跳躍し、新芽を根元から斬り、それを今度はアイリッツが結界により包み潰す。
「オレもやるときゃやるぜ!」
斬られ、薄い膜に覆われた植物たちが押し潰され、くたりとその力を失っていく。自分の手足というべきものたちをもがれ、少しずつ力を削がれていくドリアードの顔色が、目に見えて変わり始めた。
らーるー ららるー
少し悲しみを帯びて歌声が紡がれる。ぷく、とそれまでしなやかに伸びていた枝々に、異様な瘤が膨らみ、ボコボコ増えていく。
様子見のため距離を取る間も置かず、それらは少しの衝撃で連鎖するように弾けていく。風の結界を破り、恐ろしく強力な弾丸のごとき種子が、あちこちで弾け飛び、襲い掛かってくる。
肩を突き破られ咄嗟に防ぐも、脇腹に重い衝撃が走り、シャロンは蹲る。
舌打ちしながらアイリッツが、至近距離で攻撃を受けたアルフレッドを回復するため、慌てて向かうのが見えた。
痛みで身動き取れないシャロンの足元からふいにぐん、と蔦が串刺しにしようと太く、強く、高い槍のように伸び、風の結界を突き壊すも、シャロンはわざとバランスを崩し、斜め後方に風を作り自らを吹き飛ばした。
素早くアイリッツが、血塗れの傷を急ぎ“ヒーリング”で癒していく。
アルフレッドが、例の蔦を斬り落とし、善戦してはいるものの、戦うその動きはあの弾け跳ぶ種子を恐れてか、これまでよりやや鈍い。
その勢いのまま飛んで、ドリアードの少女へ剣を突き立て、風で包もうと試みる。突如、風の結界を打ち破り、太く鋭い蔦が生えた。
咄嗟に体を捻り、その攻撃をかわす。少女の体はすでになく、放射状に硬く太い蔦がくだを巻いた。
「シャロン、離れろ!」
アルフレッドが叫んで寄ろうとする。
霧で視界の悪い湿地帯のあちこちから、それぞれ高く天に伸びていた幹が裂け、分かれてくるくると新芽……なのか別の何かなのか、怪しい動きを見せて絡まり始めた。
一度始まれば、こちらを呑み込まんばかりに枝を伸ばし、絡まりあい絡みつく。檻か、とも考えたものの、どうやらそうではないらしい。
次々に伸びて収束し、ギチギチと密集してさらに大きな幹へ。
やがて、白い霧を打ち破るようにして、巨大な、蛇にも似た塊が突然押し潰さんと、上から伸びてきた。ひとつから、八つに分かれ、アイリッツとシャロンを掴もうとがむしゃらにぶん回される奇妙な物体の、全貌はよく掴めない。
「……敵さん、なりふり構わずきやがったな」
その台詞に、シャロンは肩で息をし頷きつつも、巨大な腕と掴もうとする手の平を見上げ、アルフレッドに“加速”を再びかけて、その攻撃のフォローにまわる。
アルフレッドがその枝の硬さに顔をしかめ、剣に力を籠めた。シャロンが、風で足場を作り、勢いをつける。
剣が当たる瞬間、蔦の塊はほどけて姿を変え、突き刺さる刃となった。躊躇なくアルフレッドは体を捻り込み、その塊を貫き、薙ぎ払いかけて顔をしかめ、一度抜いた。間髪いれずそこへシャロンが凝縮した風を送り込む。
悲鳴のような軋みとともに、蔦が弾けた。アイリッツが戦輪を使い、細かな破片を捉えて破砕し押し潰す。
ぁああああああっ
美しき少女が涙を流しながら声を上げた。
蔦は絡まり、首をもたげ、地面から、茎が伸び進んで、大輪の蓮が、一輪、また一輪と咲いていく。
それらを慎重に窺い、シャロンは風の刃で斬り裂き、風圧で押し潰していった。蓮の中央から花弁が伸び、風の結界ごと彼女を引き寄せるも、いったん空気を圧縮して放出させ、破砕していく。
「あっちは心配ないみたいだな。行くぜ」
「わかってる」
アルフレッドとアイリッツが短くやりとりし、うねりながら口を開く蔦の集まりへ対峙する。
「よっ、と」 アイリッツは双剣を取り出し構え、その口目掛けて飛び込んだ。アルフレッドが外へまわり、こちらも剣に力を籠める。
「え……」
いきなりか、なんて突っ込みつつ、シャロンは風を操り、蔦の大蛇を囲む旋風を作った。それに乗り、蔦に剣を突き立て、アルフレッドが回転しながら斬り開いていく。
内と外から。
絶妙なコントロールで頭から尾の先まで半分の輪切りにされた大蛇は、すぐさまアイリッツが結界を展開させ、その中で再生も不可能なほど、分解されていく。
「後少しだ。大技行くぜ!」
アイリッツが楽しそうに宣言して、戦輪が宙を舞う。
最後の抵抗か、生えている植物群が、ゆらゆらと動き出し、一斉に襲い掛かってきた。それを、避け、時には一部裂かれながら、シャロンとアルフレッドが対になり、斬り裂き、吹き飛ばし、押し潰して数を減らしていった。
「よし、いい感じに成功!」
戦輪がぐるりと巨大な湿地帯を囲むように円を描く。アイリッツがその円の完成と同時に、にやりと笑みを浮かべ、手を振り拳を作る動作をするや、その円の内側から空へ目掛けて光が一気に上がり、全体を包み込んでいく。
ああああぁああぁ
嘆き、とも悲しみとも似つかぬ声が、三人の耳に届いた。じりじりと白熱した光に焙られ、生い茂っていた植物たちは、揺らめき、燃え、灰となっていずこかへ散っていく。
やがてその悲鳴が途絶えた時、その場を支配していた植物群も湿地帯も消え、そこには、元の荒涼とした大地が再び戻っていた。