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異郷より。  作者: TKミハル
幻想楼閣
300/369

走駆 3

戦闘シーンあります。

 エルズがかつての魔術師団長に毒づいている頃、シャロンたちは部屋から部屋へ渡り、続く階段を駆け上がっていた。


 ぬるぬるででろでろの軟体生物がいたかと思えば、骨ばかり掻き集めて組み立てたような獣、赤く楕円でしわのある体から、八つほどの目を瞬かせ、透明な触手を伸ばす怪物。


 それらすべてを、薙ぎ払い、斬り裂きながら進み、何度も階段を上り続ければ、少しずつ周辺が明るくなり、やがて地上に出た。


「ここは……演習場か?」

 青々と草が生え、照葉樹の森が広がる、かつての演習場。


 キキキキキッ


 出た瞬間に、鳴き声を立て、イタチを数倍にしたような獣が数匹襲いかかってきた。アルフレッドの目が輝く。


「…………ごちそう」

 うん、それはいいから。


 魔物なら容赦する必要はない、とスパンッとシャロンが首を撥ね、アルフレッドが嬉々として獲物を吊るしにかかる。


「ま、オレらの敵じゃあないな」

 物見遊山、とばかりにのんびり呟いたアイリッツが、ああー、と唸り

「おい、焼いてる暇はないぞ」

忠告する先から、大地が揺れ、低い地響きが遠くから鳴る。


 キュィッアアアア


 つんざくような鳴き声に振り仰げば、空には巨大な、蝙蝠の羽根を持つ蛇が踊っていた。羽ばたきながら旋回し、血の匂いに魅かれたのかこちらをぎょろりと睥睨する。


「ああ。蛇もいいな」

 アルフレッドが頷く。……いや、お腹が空いているのはよくわかった。


「ただの蛇じゃない。コアトルだからな?自在に魔力を扱い、ブレスに変える」

 聞いているのかいないのか、その魔物が一直線にこちら、というか多分あのイタチの肉を目指し迫りくるのに対し、アルフレッドは木々の枝を利用し、高く跳ぶ。


 ふっ、とため息交じりにアイリッツが双剣を抜き放ち、ブン投げた。跳躍したアルフレッドの高度が落ち、体をくねらせ蛇がぱくりと呑もうとしたところで、シャロンが風を使い、彼の体を跳ね上げた。


 アルフレッドが空中で体をひねり、落下する速度を利用してコアトルの額に剣を突き立てようとしたが、それより速くギィシャァアア、と嫌な声で鳴いたコアトルが灼熱のブレスを上方目掛け解き放った。


「アル、ごめん!」

 謝りながら、シャロンがアルフレッドを吹き飛ばした。木の葉のように舞った彼の体が、長い蛇の胴体にぶつかり、剣を突き立て落下を防ぐ。


 振り落とそうともがき、上昇する蛇のその翼の一部を回転するアイリッツの剣が切り裂き、一気に高度が下がり、森の中へ突っ込んだ。バキバキバキと枝を折りながら突き進み、体をひねって再び抜け出したが、そこにアルフレッドの姿はない。


 止まない地鳴りは徐々に近づき、突然地面を食い破り巨大な芋虫のような怪物が、シャロンたちに襲い掛かったが、その前に風の力で跳躍し、届かない位置の樹木へ下り立った彼女は、力を籠め風の刃で巨体へ斬りつけた。


「硬ッ」

 残念ながらその肌は土を潜っているだけあって頑丈にできている。

「アイリッツ!こいつの弱点は!」

「水だ!砂蟲こいつは水に弱い!」


 空は、曇ってはいるが雨が降るほどではない。そして、近くに水場はない。


「まあその、なんだ。がんばれ!」

「まったく……」

 肝心な時に、とは思ったが、まあ仕方ない。


 シャロンは、森へと変わった場所のせいか、ありがたいことに今ひとつ動きが鈍い砂蟲ワームを見上げ、どうすべきかと考えた。


「リッツ。頼みがある」

 もうこれしかない、と、シャロンはアイリッツを振り返る。

「シャロン……もう少し躊躇とか、気遣いとか、いろいろ欲しいんだが」

 その作戦を悟ったアイリッツが苦りきった表情で、返事をした。


「これは、強靭な体を持つリッツにしかできないことなんだ。信頼している」

 空中でコアトルが体勢を整えるあいだ、砂蟲はなんとか絡み合う根を破壊したらしくその巨大な頭をもたげ、こちらに狙いを定めてくる。

「ちょっといい感じに言ってみたところで無茶振りは変わ、らなッぁ、ちょい待ちッ」

「いいからさっさと行け!」

 顔や腕に擦り傷を作り、髪に葉がくっついたアルフレッドが、アイリッツを掴み、口を開け迫る砂蟲ワーム目掛け放り投げた。

「アイリッツ!おまえならやれると信じてるから!」

 シャロンが拝み倒しつつ風でアイリッツを後押しする。


そのまま彼は、大口開けた砂の魔物に見事に呑み込まれた。


「あっちはこれでいい。次はコアトルだな」

 一応呑み込まれる瞬間風の結界は張ったけれども、とシャロンは後ろ髪引かれる思いを断ち切り、空飛ぶ翼ある蛇を睨みつけた。……自分では、あの砂蟲の内部が予想より硬かった場合に、無事でいられる保障がない。だから、最善の策だと、思われる。


 砂蟲から急ぎ離れて距離を取り、こちらを窺いながらとぐろを巻くコアトルを睨み据える。

「シャロン。翼が傷つけられ、飛べずにいる今がチャンスだ。回復しないうちに」

 アルフレッドが空の怪物を示し、頷いた。


 背後でビタンビタンと砂蟲が体を打ちつけ、地響きが起こるその場所で、シャロンはコアトルの鼻先に風の刃を打ちつけ挑発する。


 キィシャアアアア、とコアトルがブレスを放つが、風の結界であるいは逸らし、あるいは防いで対応する。


 ブレスの一部が砂蟲の方にいったようだが、そこに構っている余裕はない。


 アルフレッドの跳躍に合わせて、風を操り、魔物の巨大な体へ飛ばす。彼が胴体に剣を刺し、抜くのに合わせて落ちないよう風でフォローする。


 アルフレッドが胴体を走る。跳ぶ。それに合わせてシャロンが風を使い、前へ前へ。

「たぁあああああッ」

 頭部へ辿りついたアルフレッドが、気合とともに首に剣を突き刺し、一気に中ほどまで斬りつけた。そのまま暴れ狂う蛇に掴まり、空中を舞う。

 シャロンははらはらしながらそれを見守り、落下していくタイミングに合わせてアルフレッドに風の結界を張った。


 ズゥウン,,,,と音が大地に振動を伝え、のたうちまわっていた砂蟲はと見れば、さほど経たぬうち、

「この糞が!」

アイリッツが怒声とともにその巨大な体の後ろを斬り裂き、飛び出してきていた。


「おまえらなぁああ……」

 全身妙な液体まみれにし、相当頭にきた様子のアイリッツが唸り声を上げた。


「適材適所という言葉がある」

「アイリッツ……本当に、悪かった」

 アルフレッドとシャロンの言葉が重なった。はああ、と盛大にため息を吐いてアイリッツがしゃがみ込む。

「まったくいいコンビだよほんと」

 望みどおりきっちり口から入って内臓裂いて出てきたからな、と呟きつつ、うっとうしそうに白と緑のまだらになって垂れ下がった前髪を払い、アイリッツは瞬時にその汚れを消し去った。


「いろいろ言いたいが……その余裕もなさそうだ」

 そう言って睨みつける先に、ヒュン、ヒュン、と音がして、枯れ草色の服装に亜麻色の髪と褐色の肌に金色の瞳をした、なんだか茶尽くめな青年が現れた。


「やー手間を省いてくれてどうも。俺が侵入者に会うなんてどれぐらいぶりだろうねぇ」

しみじみというその背後、遠くのほうで、じゅる、じゅじゅじゅ、となんだか気味の悪い音が響いてくる。


 特に意に介した様子も見せず、

「俺の名はナナゼロ。今絶賛食事中なのがジェリコ。目ぇ覚めたばかりだし、軽く運動といこうかな」

そうにやりと笑いかけてきた。 


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