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異郷より。  作者: TKミハル
幻想楼閣
282/369

番外 ひらりひらりと舞う 15

 やや残酷シーン有です。

 炎を纏い枝々を焼き払いながら、クローディアは嫌な予感が拭えなかった。……先ほどから、変化には富んでいるものの、やり方がぬるすぎる。


 まわりを見渡せば、いつのまにか、人数が減って――――――一瞬ひやりとしたが、さすがにやられたのならこの雰囲気はない。あまり目立たず控えているロッドを確認すれば、わかっている、と言うように頷き、口にしないで欲しいと首を振った。


 ロッドは枝からの攻撃を避けながら、冷静に状況を視ていた。


(さすがに彼の存在を目に、能力を過信するような者はもう、いないか……)


 あの精霊を相手にできる者を、と必要ならふるいにかけるつもりでいたものの、彼らは自ら悟り、手近な老衆に二言三言告げて、場を辞していく。


「おい待て。そのまま行くな」

 去ろうとした者の大部分が、腕を掴まれ引き留められ、寒気のするような笑みのまま、内側に植えつけられた種を処分されている。


(やはり心強い)


 術の熟練者がいるのといないのとでは、天と地ほども動きが違う。そんなことを考えているロッド自身は、避けるだけでまったく攻撃をしようとしない……ように見えるため、残っていた自警団のうち一人が、

「ロッドは何をしてるんだ!早く結界を張らないか!」

罵声のような悲鳴のような声が上がり、ああ、彼は中にいたほうがいい、と頸椎あたりに不可視の飛礫を当てて黙らせると、すぐさま守役の一人が回収し、結界内へ運んで行った。


 すでにリーダーであるラグールは、歯噛みし葛藤の滲む表情で屋敷を覆う大木を睨みつけながらも、自分の出る幕ではないと判断し、屋敷内へ戻り控えている。


 残るは運良く生き残ったものの、状況を掴めず引き際を間違えた者と、後は――――――。


「もう駄目だ、俺はこんなところにいたら死ぬ、助けてくれ!」

 叫び声を上げながら逃げ続けているオッファが目に映る。おい、おまえしっかり働けぃッとグリエル老にど突かれているが……。


 蒼褪め、震えつつも結界を張りながらかろうじて屋敷へ向かっているもう一人を援護しつつ、やたら響く叫び声を、ロッドは行儀よく無視することにした。



 ナスターシャは上に構わず木の根に狙いを定め、風により斬りつけ、再生できないよう切り口を炎で焼き払う、といった行為を続けていた。探りを入れながらなるべく生体エネルギーの大きい場所を、と選び破壊してはいるものの、焼いても焼いても別の場所から芽吹き再生する樹木に、さすがに心理的疲労を感じていた。


「ゼル……大丈夫?」

「ああ。いい鍛錬になる」

「あっそう」

 ゼルネウスは先ほどから瞳を輝かせ、襲う枝を斬り払い、隙を見て跳び来る甲虫を薙いでいる。ひっきりなしのその攻撃をものともせず、いい鍛錬だと言い切るその心持ちは、いまいちナスターシャには理解できない。


『調子に乗っては困るわね』

 どこからともなく聞こえた声と同時に、太い根の皮がぺろりとめくれ、下にあるびっしりと生えた棘状の種が顕わになった。


「っそったれ!」

 とても人には聞かせられない悪態をつき、ナスターシャが自分とゼルネウスに結界を張る。種子は次の瞬間爆散し、結界に触れると同時に再び変化を遂げ、壁を撃ち破った。


「ッ!!」

 届く前に弾道が逸れ、ナスターシャも結界を展開し、

「一度離れるよ!」

「わかった」

ゼルネウスも頷き、クローディアたちのいる場所まで後退した。


「ああもう!うっとうしいのよ!」

 枝葉により視界が遮られ、屋敷が軋む音や、やりあう音に邪魔されて、集中できず、とうとうクローディアが叫んだ。

 感情の赴くままに術を練り上げ、ロッドを含め、辺りで戦う者たちに、自分の身は自分で守るよう宣言する。



 怒気とともに発せられた言葉は力を纏い、連なる熱線が軌跡を描き周囲のものを巻き込んでいく。クローディアの魔力の発露に伴い、力を与えられ喜び踊る精霊の姿が視えた。

「いいかげんにしなさいッ!」


 誰に怒っているのか謎のまま迸る言葉は、炎とともに周辺一帯を焦土と変え呑み込んだ。


 傍にいたロッドはすでに、細かい作業とか空間把握とか苦手なクローディアその我慢の限界を察知していたため、待機していたセリエとともに屋敷にとばっちりがいかないよう結界と、水のヴェールで覆い、炎を防いだ。


 セリエはこれを好機と見て、地面へと力を伸ばし、ドリアードの本体と思しき大樹、その根を貫くため地下水を呼んで氷へと変え、下から一気に貫いた。

 

 が、それらは到達するかしないかのうちに水滴へと姿を変え、すぐさま蒸発して延焼を食い止める。


「やっぱり……」

 ドリアードは樹木の精霊。水、土とは特に相性が良い。


 あっさり精霊の主導権を奪われ、セリエはがくりと肩を落とした。


 空気が変わるを悟り、ロッドが咄嗟に、必要とされる者の周辺に結界を張る。



『どうして皆を引っ込めてしまったの?寂しいわ』

 ふわり、と少女が現れた。同時に、焼けた木の肌に植えつけられた種が芽吹き、再生を図る。


 屋敷内に避難した者たちのそれは、排除済み。もし彼らに種が残っていたのなら。内側から食われ、最初に精霊が示唆したあの姿になっていたに違いない。


「恐怖を煽り立てる演出までしたのに、無駄になったな」

 それまで老衆の面々のフォローにまわり、がっつり戦いたい、という意に反して戻る人々の護衛を任されていたバスケスがにやりと笑う。


 その挑発にも乗らず、ドリアードは小さく肩をすくめた。

『たとえどうあれ、取るべき道は変わらないわ。結界、いつまで保つかしらね』

 対する言葉に、こちらもざわりと不穏な空気を孕む。


 オッファが真っ先に逃げようとして、おまえは残れ、とグリエルに首根っこを掴まれ引き戻された。


「ジー、ニクス、チャロ。まわりのフォローをお願い。おじい様方は、無理をなさらないで。バスケス、セリエ……全力で行くわよ。アーシャ……これを」

 クローディアは耳飾りを取り出し、一つを左耳に、もう一つをアーシャに渡す。それからゼルネウスに向かって、アーシャをお願いね、とはっきり告げた。


「これ……クローディアがずっと持ってた……本当にいいの?」

 複雑な表情で受け取る彼女に対し、

「もちろん。一つあるし……私はこの村で最強なのよ?絶対負けないわ」

まったく影を感じさせない微笑みで応えた。


 それからひっそりと、死なないわ……死ぬわけにはいかないもの、と自分に言い聞かせるように、誰にも聞き取れないように呟いた。


 それから忘れてたわ、とはっとしたように、

「オッファ。全力を出しなさい。出ないと死ぬわよ」

ええーそんなぁ、と声が返るが、まったく構わず、ロッドと視線を合わせ、頷きあう。――――――傍にいるのが当たり前すぎて、口に出すまでもない。


 そう思った自分に照れて、クローディアはわずかに頬を染め、ふいっとそっぽを向いた。


 ロッドも黙ったままだったが、彼の考えていることは手に取るようにわかった。だからこそ、死ぬような破目に合うわけにはいかない。せめて、二回目は。


『お別れは済んだ?……もっとも、別れてもまたすぐに逢えるでしょうけど』

 ドリアードの少女は穏やかに、穏やかならぬことを言う。


『やはりね、無粋なのは嫌だから、華麗に行きたいわ』

 微笑んで手を振った。その仕草は優美、としかいいようがない。


 ふわり、と何の前触れもなく。その体が二つに増えた。次々に木の影から、まったく同じ声、容貌をした少女が、現れ、くすくすと笑いながらこちらを見つめてくる。


 そして――――――木から芽が出て蕾が付き、桃色の可憐な花が次々に咲いて、辺りにゆっくりと花びらが散り始めた。


 現れたかと思えば消え、消えたかと思えば再び現れる。変幻自在に動く少女の一部が変化し、時に絡みつく蔦に、時に鋭く貫く刃に切り替わり、彼らを翻弄する。


 少女たちは楽しそうだった。こんな状況でなければ、童女たちが遊びに興じている、と誰かの目には移ったかも知れない。


 斬り裂けば花びらへと変わり、噎せ返るような甘い香りが増す。


「ァッ…………」

 守役の一人、ニクスが顔を真っ赤にして喉を掻き毟った。ぱくぱくと喘ぐような素振りを見せ、バタリ、と花びらの中へ落ちる。


「これは……わしの術も効かん」

 顔をしかめてヘイグが言う。

「毒か……それも遅行性の」

 レブレンスがそう判断し、駆け寄ろうとしたが、少女に阻まれ、炎とともに鋭い視線を投げかけた。

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