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異郷より。  作者: TKミハル
幻想楼閣
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番外 ひらりひらりと舞う 13

虫の描写があります。ご注意ください。

 霊体に位置する状態から普通の人間に視える姿を取るのは、例え高度な術師といえど、そこそこの精霊力を消耗する。


 ……にも拘らず姿を作ったのは、誠意を見せるため、なのだろう。


ナスターシャはそう理解して、隣のゼルネウスをこっそり仰ぎ見たが、こちらはこちらで、頓着なく頷いた。


「気にしなくていい。あと、元よりそのつもりだ。問題ない」


大物なのか大雑把なのか……まったく。


ナスターシャがそんなことを考えているあいだにも、ロッドは感謝の言葉を述べ、深々と頭を下げた。


‘こちらも手一杯なため、あまり力はお貸しできませんが……よろしくお願いします。それと、アーシャ’

「はいはい」

‘力に呑まれることの無いように。務めを果たしてくれ’


さりげなく釘を差して、ナスターシャの返答を待たず、ロッドは姿を消した。

「伝達か。なかなか便利そうだな」

「……前準備半端ないからできるんだけどね。あたしにはちょっと無理かな」

感心するゼルネウスの横で彼女は引きつった笑みを見せた。



一方、セルマとヨハンの幻覚を無事解いたザックは、さらに襲い来る樹木の傀儡と、羽虫の群れと対峙していた。

「この、いい加減にしなさい!」

セルマが煙の衝撃に未だ充血したままの目から零れる涙を乱暴に拭きつつ、風を操り羽虫を一気に薙ぎ倒す。


 薙ぎ倒せなかった木偶人間が次々に腕を振り上げ、ヨハンが――――こちらも目と鼻が相当赤くなってはいたが――――拾った手斧を叩きつけ防ぐその向こうで、ブンブンと飛びまわっていたは緑色の甲虫の一部が急に動きを変え、空中で静止ホバリングしたかと思うと、弾丸のように瞬発的に三人に襲いかかる。 ザックがカチカチッと煙と共に火花を散らし、虫がわずかに動きを止めた隙に、虫、向かい寄り来た木偶を炎を高め焼き払った。


ヨハンが無言で風の手助けをする。


ザックは手短かに礼を言い、これ結構疲れるんだがな、とぼやきつつ、ザックたちは歩みを進めていった。


 ――――――村長の屋敷へ向けて。



ロッドはクローディアたちの安否と状況確認を終えた後、自分の蓄えた守護の媒体である石や砂を足掛かりにあちこちをまわりながら、何か取りこぼしのないようにと調べてまわっていた。


もはや精霊の傀儡と化し幻覚の花粉を撒き散らす花人間を哀れみを込めて眺め、炎でもって焼き払い、助けを待つ村人が、あるいは助っ人に幻覚状態を解かれ、あるいは、彼の声も届かず、助けも間に合わず惑わされるままに傷つけ合い死んでいくのを目の当たりにしながらも、なお生き残りを探り、必要に応じて結界を一部強化したり、救援を向かわせたりを繰り返していたが、さすがに限界が近づきつつあるのを感じていた。


ほぼ中央にある自分の身体を守る結界には、やはり相手に悟られたのか執拗に攻撃が加えられ、ぐらつきを見せている。


彼は、一つ息を吐くと、幻覚の素を吐き続ける樹木を焼き払い、蔓延る魔物を倒しながら村人と自警団の者たちを助けていたクローディア、バスケス、セリエに連絡を取った。

了解の返事の確認とともに、元の身体を意識する。


 すると、すぐさまロッドは吸い寄せられるように身体へと戻り、重なって入ると同時に、我に返り、瞼をパシパシと瞬き、至極ゆっくりと首を巡らせた。


 大分長いこと離れていたなせいで身体が重い。


外から結界をガンガンと叩くモノがいる。

内側から結界を外へ割り飛ばす形で解除と同時に、魔物を吹き飛ばし、足を踏み出せばよろめいて崩れ落ちた。


馴染むのには、まだ少しかかる、か。


 一人ごちて地を踏み締めれば、地霊の手応えと、気まぐれな風霊たちが励ますように髪を撫でて走り去るのが感じられた。


 おぼつかないながらも体を動かし、村長の屋敷へと向かう。


道中さすがに、いい獲物を見つけたとばかりに、わらわらと花や草で彩られた木偶人形が現れ、雑多な虫たちが飛び交いながら突撃のチャンスを窺っているが、本調子でもなく、そしてまた、先を急いでいるロッドに相手をする気はまったくなかった。


呼吸を細く長く静かにするのに合わせて、心を無に近づけるのと同じくして、なるべく気をまわりの樹木へと寄り沿わせる。村を、人々を襲い、養分としたモノたち相手に、他の多くの村人からすればおぞましいの一言に尽きるが、ロッドは難なく同調し同じ気配を纏うと、標的を見失った魔物たちの脇をすり抜けた。


 最近ではもう廃れ始めその考え方すら変化して来てはいるが、もともとこの村は精霊に寄り添い、精霊とともに暮らしてきた。


 本来であればどんなかたちを取ろうとも、敬う精霊であることに変わりはない。


 足元の地の精霊に呼びかけ、滑るように動く彼を追うものはいない。

 その心に、少しでも怯えや敵愾心があれば、すぐさまそれを察知し追ってきたであろう魔物たちを、ロッドはどんどんと追い抜いていく。


例の本体の化身が様子を見に来ていたなら別だが、今、ドリアードは村に散らばらせ隠しておいた生命エナジー塊の2つ目をナスターシャたちに破壊され、それどころではなかった。

ロッドは精霊の気配とどよめきから、おぼろげにそれを読み取り、さほど速くはない足取りでも焦らず確実に、目的地へと向かっていった。


傷つけられ、村を攻める手段を失った精霊がどう出るのか……。


予想が当たらなければいい、と思いつつも、ほぼ次の出現場所を確信していた。


今から向かう先が、これから激戦区となるに違いない、と――――――。

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