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異郷より。  作者: TKミハル
『荒れ地と竜』
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死中に活を見る

 今回は短めです。

 紹介状を渡すと、疲れた様子の馬主は、

「最近運動させてないから使ってやってくれ」

と言って破格値で気立てのよい牝馬ウルスラを貸してくれた。


 さて次を選ぼうか、と思ったのだが……。


「僕は、馬に乗れない」

アルフレッドが告げる驚愕の事実。まあ、よく考えたらグレンタールで乗馬はあまり盛んではない。

「じゃあ、一緒に乗るしかねえな」

 親切にも主人は二人用の鞍とわざわざ取り換えて、送り出してくれた。


 前に座り、後ろのアルフレッドにしっかり掴まるよう指示を出す。

「ちょ、ちょっと待て。あまり強く持つな」

 うっかり手綱を引いてしまい、ウルスラが驚いて立ち止まる。

「……?」

「違う違う……せめてもうちょっと下を、ふ、あ、はははっ」

 アルフレッドがお腹辺りに手をまわしたので、くすぐったくて死ぬ、とシャロンは体をよじらせた。


 何回も立ち止まっては進むを繰り返し、

「ふ。……うう、なんとか我慢できるようになってきたな。よし、行くぞ。落ちないように」

ようやく慣れてターミルへ向けて出発することができた。


 草地を駆けさせながら進むと、澄み切った青空に大ワシが飛び交っている。

「この前より多いな。一、二、三……六羽か」

「全部で十二いる」

「そんなにいるのか」

 じっと目を凝らしてみるが、どんなに頑張っても近いのが二羽と、それらしき四つの点しか確認できなかった。……どれだけ視力がいいんだ、こいつは。


 上空を眺めていると、後ろのアルフレッドが体を強張らせ、身を寄せるのが分かった。

「……早く行こう」

「うわっ、おい、耳元でしゃべるんじゃない」

 今度は思いっきり手綱を当ててしまい、ウルスラは心得たとばかりに駈足かけあしをしてスピードを上げる。


 そんなこんなで、結局ターミルには予定よりかなり短時間で着くことができたのだった。


「一日ぶりだが……それほど変わりない、か?」

「いや、ところどころよくない空気が漂ってる」

 言外に鈍いと言われたようで、シャロンはややふてくされた。

「しかし、そう簡単には見つからないだろうな……って、あそこに!行こう!」

 建物の向こう側に、小さな黒い影が走る。二人でそのトカゲを追いかけ、やっと手が届くところまできて、アルフレッドが剣を抜いて切りかかった。

「こら!あんたたち何をやっとるッ」

 その途端、小道から髭面のおっさんが出てきていきなり怒鳴りつけた。

「え、いや、その……」

 例のトカゲは振り下ろされた剣と壁とのあいだをぬるりと抜けて逃げていく。


「あんたらは旅行者だから知らんだろうが、あれは神聖なものだぞ!それを切りつけるとは……」

 行きがかり上そんなことは知っているなどとは言えず、堪えつつおっさんの説教を聞き終えるころには、トカゲはもはや影も形もなかった。


 それからもまた苦労の連続だった。必死で追うこちらを嘲笑うかのようにトカゲは逃げ、わざわざ人のいる方へと向かっていく。


 何とかこっそり三体倒し、見つけては追いかけ、見つけては追いかけの繰り返し。

 ひょっとしたら、ストラウムの方が通行人が少ないだけ楽だったのでは、と思い至るころにはすっかり夕方になっていた。


 そろそろ放牧されている羊たちが帰ってくるころかな、と、ひと息入れていると、村の端が騒がしくなった。


「おいっ、誰か雇い主読んで来い!」

「まず、急いで血止めをしろ!」

 怒声と人だかりのできているところへ行き、近くの人に事情を尋ねてみる。

「ああ、どうやら羊と、その群れを預かっていた奴が大ワシに襲われたらしい。運良く人間の方は腕を多少抉られただけのようだが……ありゃあ被害は甚大だな」

「運良く、か」

 腕を血だらけにしたままぐったりしている男を見ると、とてもそうは思えなかった。


 夜になり、いったんトカゲ探しを止めて酒場へ食事に行くと、話はすでに突然羊を襲った大ワシのことで持ちきりだった。


「本来なら繁殖の時期でもないかぎり突然襲う、なんてことはありえないんだが……いったいどうなっちまったんだ」

 シャロンは馴染みの客にぼやく酒場のマスターの話をテーブル席で聞きながら、ひそひそと、

「……これはやはり、あのトカゲの影響だろうか」

「その可能性は高い」

アルフレッドは豪快に羊肉にかぶりついている。


 この地域の人々の生活は、馬と羊に根差しており、もし放牧ができないとなれば死活問題だろう。

「明日にでも大ワシの駆除隊が編成されるかもしれないから、腕のある奴はチェックを欠かさずにな!」

 マスターが喧騒に負けない大声を張り上げ、すぐに店内の不安げな雰囲気が一掃されて爆発的活気に満ち溢れていく。


 辺境の人々は逞しいというか、へこたれないんだな、とシャロンが改めて実感した瞬間でもあった。

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