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異郷より。  作者: TKミハル
『荒れ地と竜』
27/369

一歩手前

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 エドウィンの目がきらっと光った。

「ちょっとこの剣見せてください」

「断る」

「いやいや~、そんな固いこと言わずに」

 なおも言い募った男に、ものすごく嫌そうな顔でしぶしぶ剣を貸すアルフレッド。

「大きさのわりには軽いし、これは、そこそこの名品ですね」

 エドウィンは剣を抜いて両手で二三度振る。

「ふむ。特殊スキルは無し、と。どうでしょう、金貨10枚では?」

 にこにこと読めない笑顔で突然商談に入った。

「は?」

 シャロンは耳を疑う。いきなり金貨10枚とは……。

「売らない。さっさと返せ」

 憮然としているアルフレッドを見て、エドウィンは名残惜しそうに丁寧に剣を鞘に納めて返す。


「くっ……珍しく良い品に出会えたと思ったんですが……。その剣でなら竜の使いは倒せるはずです」

 諦めきれないのかしばらくはじっと腰に戻されたそれを注視していたが、やがて気を取り直し、ごそごそと大荷物から小瓶を出してテーブルの上に置いた。

「で、シャロンさんに相談なんですが。……実は私の荷物の中に、『キレールX』というものがありまして。これを使うと塗るだけでラクラク!簡単に実体のない悪霊も倒せるようになります」

「わあ、すごい。この状況にピッタリだ…………って、めちゃくちゃ怪しいんだが」

 決して高くはないテンションでシャロンが言えば、そうですよねえとエドウィンも同感する。

「でも、ちゃんと効きますよ。すでに試行済みなので。どうです、一つ銀貨30枚で」

「お金取るのか!?」

「当たり前ですよ。こんな高価なものおいそれと渡せますか。効き目を疑うなら、ためし切りもできますが」

「……いや、いい。アルフレッドに任せる」

「でも実際の話、この辺一帯から13ものトカゲを探し出すには手が足りません。倒せる人数は多い方がいいのでは?」

「……トカゲの強さ自体はそれほどじゃないのか?」

「ええ、普通のトカゲレベルだと。ただし、瘴気をまとっていますから忌避意識が強く働き、それが見つける目安でもあるんですけど」

「わかった。銀貨5枚なら買う」

「あの~これ非常に貴重な品なんですけど……。せめて20枚は貰わないと」

「一介の冒険者がそんな大金持っているはずがない。だいたい、依頼書には報酬+αって書いてあったのに全然くれるそぶりもないじゃないか」

 エドウィンは何やら言いたそうにしていたが、やがて頷いた。

「そこまで言うなら、銀貨15、いや、12枚でなんとかしましょう。これ以上は無理ですよ」

「わかった。……その値段でいい」


 シャロンはなんとか半額以下にしたという、その苦い勝利を噛みしめた。

 そもそもエドウィンの依頼料を破格値にしてしまったので、そこから今のアイテムの値段と滞在にかかる値段を引けば、微々たる金額しか残らない。この交渉でなんとかゼロになるのは防げたものの、魔物退治の状況次第では赤字になることすらありえるのだ。

 落ち込むシャロンの肩を、アルフレッドがポンポンと叩いて慰めた。


「……いや、落ち込んでいる場合じゃないな。まず、ゆっくり休養を取ろう。すべては明日からだ」

 不敵に笑うシャロンに、エドウィンは若干引いたものの、それではまた明日、といって火箸でいろりから大きめの石を取り出すと、分厚い布でくるんで懐に入れる。

 あの寒々しい部屋に戻ることを考えただけで気が重くなるので、シャロンたちもエドウィンにならい、石をカイロ代わりにと持ち運んでいった。


 翌日。宿を引き払った三人は、張本人がさぼっているのを見過ごすわけにはいかない、とのシャロンの言葉でまたヨアキムの家に来ていた。

「ヨアキム!ちょっと来い」

 シャロンは昨夜もまた眠れなかったのであろうヨアキムを連れ出し、事情を説明する。


「というわけで、トカゲを探すのに手を貸してほしいんだ」

「え、でも、竜の使いにそんなことするわけには……」

「おい、この村が大切じゃないのか?救う手立てがあるのに、何もせずそうやって逃げてばかりでどうする。このままじゃおまえ一生後悔するぞ」

 一息吐いて、シャロンは垂れさがってきた前髪を払う。

「それは……」

「このまま臆病者でいるのか、それとも、呪いを解くため尽力するのか、どっちなんだ」

「……わか、わかりましたよ。やればいいんでしょう、やればっ」

 いらだだしげにシャロンの腕を払い、睨みつける。

「でも、そのトカゲを倒す武器なんて、持っていませんよ……」

「ああ、それは心配ない。ちゃんとこっちで用意した」

 シャロンはにこっと笑ってカバンを叩く。後ろで、男前だ、とアルフレッドが呟いたが、それはもちろん聞こえない振りをした。

「これを剣に塗ると実体のないものにもダメージが与えられる。貴重だからなくしたらそれっきりだ」

 そう言ってあの薬を小瓶に分けてヨアキムに渡す。


「それじゃあ、私とヨアキムでストラウムを探しますから、シャロンさんとアルフレッドさんとでターミルに向かってください」

「わかった。アル、行こう」

 行きかけたところで、ヨアキムが急に呼び止める。

「待ってください!知り合いの馬主に紹介状を書きます。それを持っていけば馬を貸してくれるはず」

「それは助かる。でも、いいのか?」

「かまいません。こんな状況なので……ああ、もちろん魔物退治云々のことは秘密ですよ」

とさらさらと書いた紙を封筒に入れ、こちらに渡す。


 こいつも実はかなりイイ性格をしているんじゃないだろうか。


 引きつった顔で受け取った後、シャロンとアルフレッドは急ぎ足でその馬主のところへと向かった。

 宿の部屋は凍死するほどではないが、暖をとるものがないと寒くて眠れない程度。


 薬の名称と宣伝文句を考えたのは薬を作成したエドウィンの知り合い。必ずこの言葉を言ってくれと頼まれているが、不信を買うのでほとんど使っていない。

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