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異郷より。  作者: TKミハル
幻想楼閣
247/369

シルウェリス 3

戦闘シーン有。

 シャララララ、と音を立て、次々に展開される大輪の花。その向こう側にいるシルウェリスの体周辺に、目を凝らさなければ見えにくいほど薄い、泡のような虹色の膜が張られ、ところどころ光を反射していた。


 あれが、彼の守りか……。


 見た目に反して、ひどく手強いそれに、シャロンは風を飛ばし、あっさり弾かれた。


「ふふ、そう簡単には届かないですよ」

 どうします、と問いかけるように垂れ落ちてきた髪を払い、魔術師団長が笑う。


 いくつもいくつも乱舞する光る花びらを、ギリギリで避け――――――だんだん服の端が裂けてぼろになってきたが――――――反撃のチャンスを窺うも……今のところ、ない。視界の隅で、アイリッツがカバンを引っくり返すのが見えた。


 アルフレッドも難なく避けているのを確認して、もう一度シャロンは彼にじっと目を凝らした。――――――そういえば、これは。


「“カルテヴァーロ”に似ているな……」

 ぽつりと呟けば、すぐにいくつも魔法を展開している彼が反応して、

「彼女たちは、私が創り出したものですから」

そう穏やかに微笑んだ。


 同時に花びらが、ふわりと空気に溶けて消えていく。


 再び気を取り直したらしいシルウェリスが、無駄に明るく、

「そもそも、魔法生物ホムンクルスというのはですね……疑似生物、といっていいでしょう。その魔力構成は、内側に複雑な術式を組み込んであり……」

指先で空中をなぞるように、不可思議な文様を編み出して、円を描いていく。1、2、3……4つ。


 派手に光の筋を描きながら回転するそれらの奥。反対側の手で描いたのは6。目立たぬようゆっくりと地面に落ちるそれに、シャロンは気づかなかったがアイリッツが即座に潰しに向かう。


 あ、気づかれましたか、とまだまだ余裕なシルウェリスの前で、最初の4つの魔方陣が完成し、その中央から青銅と鉄の羽毛、嘴、爪を持つ奇怪な鳥たちが叫びながら飛び出し、羽根を広げて羽ばたきながらこちらへ飛ばしてきた。


 ギィイイイイイ


 歯車が軋むような音を立てながら、羽根を弾丸のように落とし、突っ込んでくる鳥たちと戦っているあいだにも、魔術師団長様のご高説は留まることを知らず、


「――――――で、内部の魔力暴走を防ぐため改良を重ね、なじませるのに大分時間を要し……」

とかなんとか鳥たちを撃ち落すのに精一杯になっているこちらへ向け、この激しい戦闘状況にも関わらず朗々と聞こえる解説の声は続く。


苛々して発生源に風をぶつけるも、まったく効いた様子がなく、

「ちなみに、今行ったのは召喚術です。召喚魔法には二種類存在しまして、一つはまあ見てのとおり、予め存在するものを呼び寄せる魔法ですね。自分の近くではない、別のどこかに出現させることもできますが、それには予め対象となる場所をよく知らなければいけません。まあ、‘印’をつけてそれと引き換えにするやり方が一般的ですね。突如物質を送り込むわけですから……その場所に最初から在る物とぶつかり破裂する、なんていうのも当然起こりうるわけです」

また次の話に移行してしまった。もちろん彼が話し続けているあいだにも、鳥たちの猛攻は絶え間なく続いている。


「……このッ、常軌逸脱者がッ」

シャロンは自身も鳥の羽根を叩き落とし、また、襲い来る大きな鳥の群れへ突っ込み、あるいは踏みつけ、あるいは斬って捨てるアルフレッドを助けながら、シルウェリスを睨みつけた。


「4、5、6……これで全部か」

 アイリッツは地で発動を待っていた魔方陣を全部潰し終え、カバンからスリングショットといくつか石を取り出したが……大きくうねるように風を練り、一気に叩き落とそうとしているシャロンを見て、黙って地面へ置いた。


「おお、風ですか、やりますね」

 まったく平然とした口調で呟いて、シルウェリスが研究者の眼差しで、じっと発動を観察する体勢に入った。楽しそうに小さく小さく、呪文を口ずさみながら。


 風は唸り、竜巻となって金属を纏った鳥を巻き込み、地面や壁へと叩きつけていく。


“チゼッタ、シルティーエ……カタリア、コイオス、ラセッド、ネブロド”


 辺りに血や肉片が、幾筋も幾筋もの線を描いて飛び散った。


“ネペンディス、カプトゥ、スコロペンドラ、ズジム、グーヤカ”


 死体がどろりと溶けた。血と肉片は、赤黒い筋となって中庭を囲むように走り、複雑で妖しげな曲線をいくつも描いて地面に円を描くように幾何学模様を織りなしていく。そして鈍く黒い輝きを放ち始めた。


「それで、先ほどの話ですが、二つめ……精神世界アストラル、または別のどこかに存在する魔素を集め、召喚者がそこにかたを与えるやり方です。これは、召喚者の想像力、魔力量にすべてが委ねられます。しっかり細部まで創り込まなければ、バランスを崩し崩壊するか、もしくは極端に弱くなるか、で……ああ、そろそろですね。出でよ、“へカトンケイオス”」


 シルウェリスがそう告げた瞬間。


 突然、円の中から腕が伸びた。魔方陣の形成になす術なく佇んでいた手近な、シャロン、続いてアルフレッドを狙い、ブン、と振り上げられる。


 避けた手がドシン、と地面を叩いた。出てきたのはいくつも腕と……そして、茶色く剥き出しの顔。ぎろりとこちらを血走った眼が睨み、続いて口が現れた。


「数十の顔を持ち、その手は百に近い。いい感じです。これは滅多に発動できないんですよ。何せこの大きさですから、なかなか理解を得られずまわりの反対を受けまして」


 そんな与太話はどうでもいい。


 背丈は城の建物を頭一つ分凌駕し……無数の腕とそれよりは少ないがやはり数の多い頭部は醜悪の一言に尽きる。


「じゃあ、私は高みの見物と行きましょうか」

 シルウェリスが建物際まで下がってのんびりと構え、そのすぐ隣睨みつけてくる巨大な生き物を前に、シャロンは呆然としたが、こちらを掴もうと振り上げ開かれた指に、すぐに我に返り、避け、バシンと叩かれる風圧に飛ばされそうになりながらも、自分に風を使い、アルフレッドを掴んで巨大生物の後ろに一時避難した。


 動きはやや遅いがドシン、ドシンと確実にこちらを追うように方向転換し始めたため、速度を上げて遠ざかる。

 アイリッツがすぐさま駆け寄ってきた。


「リッツ……あれ、倒せるのか……?」

少々暗い表情のシャロンに対し、アイリッツは、

「この召喚が術者に頼るものだとしたら、まずあのくそ野郎をやるのが先決だろう」

「…………あいつか」

 うろんな顔で見つめる三人相手ににこやかに手を振ってくるシルウェリス。


 どことなく毒のある笑みだ。


「作戦を立てようにも全部傍受されてるし……ッ」

 巨人が迫ってきて、アイリッツを殴ろうと腕をぶん回してきたのでそれを避けるが、次々伸ばされる腕に顔を引きつらせつつ、その腕に斬りつけた。ブシュッ、とあちらの全体としては少量の血が飛び散る。


 ……ささいな切り傷ぐらいはつけられただろうか。


 迫り、突進してきたのでシャロンたちはお互いに離れ、手の届くギリギリのラインで避けつつ、なんとか反撃のチャンスを窺うが、

「一応私もいますので」

 待つのに飽きたのか、シルウェリスが、無数の光の筋を生み出した。それらは巨体の攻撃を避けるシャロンたちを、腕の合い間を縫い、的確に狙い撃ちする。


 防ぎきれない……ッ


 風の結界では弾き切れなかった光が、何かにバシンと弾かれた。


「これぐらいはな……」

とアイリッツが言ってまた、再び離れていく。言葉には出さず、口パクで、あとでまた話す、と言い残して。

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