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異郷より。  作者: TKミハル
幻想楼閣
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シルウェリス 2

すみません、今回短めです。ゆるい戦闘シーン有。

 いったん集まり、魔方陣から伸びる枝、そして空中に浮いているシルウェリスを見つめたシャロンが、

「しかし驚いたな……あれも魔法ってやつか?」

控えめに感想を述べると、

「いや、常に浮くとなると相当魔力を消耗するはずだ。あれは、もともとこの辺りに編まれた魔力の糸に、乗っかっているな」

とアイリッツが返事をする。そして、シルウェリスが嬉しそうに、

「よくわかりましたね。あっさりタネをバラされるとは……」

と答え、

「どうでもいい」「ふーん……そうなのか」

いまいちピンとこないアルフレッドとシャロンに落胆した。


「物にはそれぞれ引きつける力が存在しまして……それは物体の大きさに比例して大きくなります。これに反して宙に浮くのも凄まじいエネルギーが必要なのですが……残念です」

 重力、というものの存在を知らない相手に、その凄さを伝えきれず、シルウェリスは肩を落とし断念した。

「まあタネはあったわけですけれども」


 その会話のあいだにも、魔方陣から黒い枝が伸び、ゆっくりした速度で枝葉を茂らせていた。


 スパッスパッと風で切っても切っても伸びるシャロンがそれらを見やり、

「ふぅ……初夏に剪定する庭師の気分になってきた」

と呟き、特に激しい攻撃をするでもなくこちらを窺うシルウェリスに、アイツは何がやりたいんだ、とぼやいた。


 アルフレッドが後ろを向き、

「リッツ……どうにかしろ」

「どうにかしろってさっきも言ってたがアル……おまえオレの話聞いてたか?」

と呆れて尋ね、

「いくらでもやりようはある……盾でも囮でも」

そう返されてぐっ、と言葉に詰まった。

「おまえはそういう奴だよな……爆発しろよもう」

 嘆きつつシルウェリスを見れば、ちらっとこちらを面白そうに見返してきた。


「こんなのもできますよ」

 彼は浮いたままこちらを眺め、白い紙切れを取り出したとみるや、それは紙吹雪と化して散り、それぞれ唸り音を立てて小さな蜂の群れへと変化した。同時に、伸びていた枝の葉が、鋭い棘となり襲いかかってくる。


「まったく……」

 小さく、数があり避けにくいそれらに、シャロンは風を叩きつけ、散らして、

「いったい何がやりたい」

そうシルウェリスに強く告げる。

「いや、あれだろ。どうせ術を小出しにして力量を測った上で、弄り殺すつもりだろ」

すぐさまズバリとアイリッツが打ち抜いた。


「何を言ってるんですかー人聞きの悪い。私はただ、一息にっていうよりは、できるだけ長く長く楽しみたいだけですよ。まだまだ、見せたい呪文はたくさんあります」

 にこやかにシルウェリスが返す。

「本当はいろいろと語り合えたらそれが一番いいのですが……魔術に精通していない方々には、お見せした方が一番早いのでは、と思いまして」


 こいつは……エドウィンの同類だな。


 シャロンは戦いよりも自慢話を優先させるその性根に呆れた。まったく研究者ってヤツは……。


「まあ、せっかくのおもてなしです。……今度は少し派手に行きますね」

シルウェリスはパンッと手を叩いて影の枝葉を消し、するっと指を動かし、シャラララと指で半円をいくつも描いた……ように見える。


 アイリッツが舌打ちし、

「可視化するぞ、避けろよ!」

と叫び、自分の魔力の波を広げ、その辺り一帯に投げかけた。


 え。


 細く長い蜘蛛の架け橋。まるで網で守るかのように、幾重にもなった糸が地面に、建物に張り巡らされ、そのうちの一本にシルウェリスは乗っている。


 そして彼の目の前には光の筋で出来た大輪の薔薇。光り輝くその花びらの一枚一枚が、シュルリと散った。


 アイリッツは、自分でなんとかするだろう。即座にシャロンは自らとアルフレッドに、風の結界を張った。同時にアルフレッドは花弁の刃を避けるため動く。


 結界を張るため動きを止めたシャロンに容赦なく一刃が襲いかかり、それは、あっさり結界を突き破って迫り来た。


 本当にギリギリでシャロンは結界を解除し、自らを風で煽り体勢を崩す。その頬と髪、服の一部を斬り裂き、刃は過ぎ去っていく。


「なんというか、軽快な音楽でも流したいところですね」

 そう言いながらも手を休ませずシルウェリスは次々に大輪の薔薇を咲かせ、散らしていく。


 バチバチ、バチバチィッ


 なんとか避けるシャロン、アルフレッド、アイリッツのそれぞれの前で、光の刃が網目状に張られた守護結界にぶつかり、幾重にも音を立てた。それらの轟音にも関わらず、シルウェリスの声は、はっきりとこちらへと届いてくる。


 シャロンはやっと、その圧倒的な魔力の片鱗に気づき、顔をわずかに蒼褪めさせた。しかし、同時にこうも考えた。わざわざこちらに見せるためだけ、自分の声を届かせるためだけに、どれほど魔力を消費しているんだ。力の無駄遣いじゃないのか――――――と。



 シルウェリスの結界に守られているとはいえ、建物が多少揺れたり、パチパチッと音を立てるのが、会議室兼談話室にいるナスターシャの耳にも届き、あー楽しそうだねまったくと彼女を苦笑させた。


 戦闘開始から、ラスキは腕組みをし目を閉じて待ちの姿勢であり、ジゼルはどうか、シルウェリス様が負けませんように……と手を組み一心に祈っている。


 まったく通常通りのその様子に笑い、ジゼルをなだめようと口を開き――――――。


「やはり、俺も向かおう」

そう立ち上がるラスキに、待った!と慌てて制止をかけた。止められた騎士団長は顔をしかめ、

「なぜ。あいつが戦っている、ということは、俺の部下がやられた、ということだ。責任者がこんなところでのうのうとしているわけには――――――」

「いや、うん。わかるよ?言ってることはわかるけどね?ちょおおっと待って。今行ったらシルウェリスマジで怒るから。半端ないから。侵入者たち三人の前で第二次仲間割れ戦争を勃発させるのはやめて――――。敵はこの後討てばいいから!」

「私は……ッシルウェリス様がきっと、あの三人を撃ち破ってくれると信じています……ッ」

 その言葉に、祈っていたジゼルが顔をあげ、ナスターシャをきっ、と睨みつけた。あああ、空気読んで、と心で涙するナスターシャの前で、やはり、とラスキが表情を厳しくし、部屋を出ていきかけるのを必死で止め、

「うん、気持ちはわかるよ、わかるけどね……?とりあえず、シルウェリスの結果を待とうよ」

となんとかなだめ落ち着かせた。


 ふぅ……とどっと疲れがきて、ソファへと座り込む。


 そして、なんだか、どちらにしろ面倒なことになる気がしてきた……と遠くの戦闘に思いを馳せたのだった。

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