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異郷より。  作者: TKミハル
幻想楼閣
242/369

つまり、フライング

 今回短めです。

 ひと休みを終えた後、シャロンたちは道と芝のある敷地を突っ切りながら、宮殿をひたすら目指していた。


「正面から行くより、まわり込んだ方がよくないか?」

 シャロンはアイリッツにそう尋ねたが、

「気づかれているしな。どっちでも同じだろ。内部もおそらく本来とは変わっているだろうしな……」

まったくやたら結界を張って、魔力誇示もいいとこだ、と零すのを聞きながら巨大な宮殿へと三人で向かう。


 このまま行けばちょうど、正面の入り口にぶち当たる、そんなことを考えながら足を動かしていると、ふいに、アルが、

「……誰かいる」

と呟いた。


 宮殿へと続く門の前に、出迎えのためのちょっとした庭園があり、石像が飾られた小高い場所があって、威風堂々、といった様子で、紺色といぶし銀とを基調とする鎧を纏う誰かがそこに立ち、こちらを品定めするように睨みつけた。


 黒髪に黒い瞳の、鍛え上げられた体つきの男で、鎧は肩、胸部、腰と分かれており、防御力と可動域の広さ、双方のあいだを取ったタイプのように思われた。胸の紋章にはドラゴンの吠える姿が描かれている。


「雰囲気からして、幹部クラスっぽいが、様子見でもしに来たのだろうか」

しかし、その割にはお供する従僕や部下の姿がない。


「しょっぱなからこんなのが来るとは……」

 げんなりしながら待ちかまえている相手に近づいていくと、彼は悠々と幅広の階段の半ばで、

「止まれ!」

とよく通る歯切れのいい声で制止をかけた。


 常に人を従わせることに慣れた感じだ。上位騎士か。


「よくここまで辿り着いた。まずは誉めてやろう」

 傍らに兜を抱え、こちらを睥睨しながら声高に言う。


 うん?なんだかやたら偉そうな感じだが。なんだろうな……この違和感は。


 なんとなく、初見から、こう、身分などを嵩にかかって威圧するよりは、生真面目な武人のような性格だと思ったんだが。


 そんなことを思っているシャロンと、じっと相手の出方を窺っているアイリッツとアルフレッドの前で、男は胸を張り、居丈高に、

「我が名は騎士団長、ラスキ・ハロルド・メースフィールド。騎士団長である。おまえらのようなこの城の汚泥に群がる蠅どもに、そうやすやすとやられはしな、い」

と言い、なぜか不自然に言葉を切り、腰元から小さな紙を取り出し、呆れたようにしげしげと眺めて首を振ると、

「……もういい。面倒だ。さっさと来い!」

今までのはなんだったのかと思うぐらいあっさり兜を被り剣を抜いた。




 シャロンたちからはまったく見ることが叶わないが、宮殿上部ではそのやりとりをナスターシャ、ジゼル、シルウェリスが覗き見て、驚き焦っていた。


「あ、あの脳筋猿野郎はいったいなんの話を聞いていたんでしょうね」

 震える拳を握り締めシルウェリスが呟けば、

「ていうかさーあのメモまだ持ってたんだー。意外なところで付き合いいいよねラスキって」

ナスターシャが呆れて別のことを返す。

「あの、なんだかよく分からないうちに回収された手紙のことですか?他に何が書いてあったんですかあれって」

 不思議そうにジゼルが尋ねた。もしここに、エルズがいたのなら、『くそ、あいつも持ってたのか!回収しそびれた!』と頭を抱え叫んだだろうが、幸いなのか彼はここに来てはいなかった。


 悪の城、その中堅、悪しき騎士団長役の台詞途中で剣を抜き、シャロンたちと対峙しているラスキを見ていたシルウェリスが一応落ち着きを取り戻し(たような素振りを見せ)、すでに弓を用意していたナスターシャの方を向く。


「アーシャさん……協力願えますか」

「おっけー。ここってさー窓開けてもよかったっけ?」

「視覚遮断の結界は、城を覆うように張っていますから、平気ですよ。アーシャさんは目暗ましを。そのあいだに、私はあの阿呆を回収しますから」

暗い表情でふふっと笑いながら呟き、おろおろするジゼルの隣で二人は顔を見合わせ頷いた。


「んじゃ、行くよー。〈真夏の太陽、光のしるべ〉、閃光シャイニング慈雨スコール

力ある言葉と同時に、腰に常に携帯している矢を次ぎ、力強く彼らへと解き放った、


 剣を取り向かい合うシャロンたち三人と、騎士団長ラスキ。まず、第一にアイリッツがそれに気づき、怒鳴る。

「おい、シャロン、結界を張れ!」


 どこからともなくまっすぐの光線が頭上に飛来したかと思うと無数に分かれ、強烈な轟音。雨音にも似たそれとともに、視界いっぱいに光の矢が降り注いでくる。


「くそ、前が!」

 シャロンはなんとか風を使い音を散らすもそれも完全ではなく、聴覚視力に優れたアルフレッドが一番影響を受け、ふらついた。アイリッツも光の奔流にややたたらを踏み、すぐに持ち直すが時すでに遅く、目の前からはいたはずの騎士団長ラスキが消え、静まり返った庭園が広がっているのみであった。



 宮殿内部会議室は、すでに臨戦状態であり、

「なぜ、連れ帰った」

怒りを収めきれないラスキを前に負けじとシルウェリスも青筋を立てつつ、

「あなたは人の話を聞いていたんですか。二番手は、私が行く、と」

冷静に、と自分に言い聞かせながら反論する。


 二人の状態を観察していたナスターシャは、その話し合い(?)の最中ジゼルに耳を塞ぐようにジェスチャーをして、自身もしっかりと耳栓をして、さらに念のため手で塞ぎ備えをした。


「は、おまえに任せたら容赦なく叩き潰すだろうが!俺は完全な状態での相手と手合せがしたいんだ!特にあの黒髪の男は、相当剣の腕が立ちそうだからな。満身創痍の者と戦って何が楽しい!」

「何を言ってんですか!私はあの三人全員と戦ってみて、その連携や魔術の行使が見たいんですよ!誰か一人欠けた状態なんて、まっぴらごめんです!」

 ラスキとシルウェリスの言い争いは徐々に白熱していく。ビリビリ、と部屋中にこだまし、耳を塞いでもなおうるさい二人の掛け合いに、ジゼルはこの部屋、建物全体が外に音が洩れない仕組みになっていて心底よかった、と現実逃避気味に考えていた。




 突然の閃光とともに、消えた騎士団長。

「いったい、なんだったんだ今のは……」

「ひょっとしたら、罠かも知れないな」

 シャロンの言葉に眉を寄せるアイリッツの横で、アルフレッドが未だ耳鳴りのする頭を振る。


 異常な状況を訝しみ、ざっとその周辺、なんの変哲もなさそうに見える庭園を探り、すぐには建物に入らず内部の様子を窺ってみたものの、手がかりは得られず、疑問を残したまま、三人は宮廷の内部へと足を進めていった。


※ラスキのメモについては、<始めに。>参照。

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