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異郷より。  作者: TKミハル
楽園の夢
225/369

光る、散る、落ちる

戦闘シーン、若干の残酷表現ありです。

白い華は一度消え、傷の癒えたミリアムがサーラに、

「ありがと。……あのクソ馬力野郎」

頬を膨らませてブツブツ言う。


「……こちらも、敵さんを少々侮っていましたわ。ベルーナちゃん、アリサちゃん!ここは気合で行きましょう!」

 拳を握り、力説するサーラの横に、ベルーナが来て頷き、そして、その隣に白い塊が現れた。

「アリサちゃん!まあ、なんて下拵したごしらえ抜群な姿に!」

「フライ、ちがう。ちょっと、ケホッ、早く落として」

 べルーナが指を振ると、ゴーッという音とともに、突然上から大量の水が降ってきて、アリサ(?)の頭からバシャ―とかかり白い粉を流した。


 あのクッキー似の道具の効果だろうか。よく見れば、椅子や床、そこかしこに小麦粉の袋をぶちまけたような跡がたくさんついている。

 くしゅん、とアリサがくしゃみをして、再びベルーナがその服を乾かした。


「ミリアムは、あっちを。あたしはこいつと戦う」

 アリサがアルを睨み、ミリアムが了解!とリッツの方へ向かう。その後ろに、

「あいつ、あたしたちと同じ匂いがする。……気をつけて」

と声をかけた。


 ちゃんと聞こえただろうかと思いつつも、アリサは焦げ茶髪の少女に向き直る。

「サーラはフォローを」

「ええ、もちろんよ。ここは派手に行くわ!」

「……」

 アリサは微妙な表情をしたが、頼んだ、と短く済ませて剣を構えた。


「ベルーナは好きにするよー」

「ああ、どうぞ」

 ベルーナが髪色を燃えるようなレモン色に変える。使う魔法とは何の関係性も見られないから、どうも、気分で変えているらしい。


 シャロンは四人が和気あいあいと会話する様子を、一段高い観客席から眺めていた。彼女たちは、そうやって話していると、どこにでもいる普通の少女と変わらない。


 …………殺したくないな。


 戦いを忌避する感情が沸き上がってきて、苦く思う。シャロンは首をめぐらせ、残る身代わりアイテムの数を確認しているアイリッツと、いつ飛び出そうかとチャンスを窺うアルフレッドを見た。でも、私は――――――。


 この勝負に手加減して勝てるほど、強くはない。せめて近くの、手に届く者ぐらいは、守れるように。


 剣に力を注ぐと、ふわりと風が舞った。


「“烈火薇晶”」

 ベルーナがしゅを唱え、朱色の炎が辺り一面に浮かび、螺旋状に炎が襲い来るのを、自分と、仲間のまわりに風の結界を張ってそれを受け流す。


「食らえッ必殺の一撃ぃ」

 その合間を縫い、ミリアムがアイリッツに攻撃を仕掛けた。サーラは様子見、アリサはアルフレッドと対峙する。


 ……この状況なら、真っ先に回復役を狙うのがセオリーだろう。


 こちらの動きを見たアイリッツが、袋を懐から出し、放り投げた。6枚のクッキーが散らばり、それはすべてシャロンとアルフレッドへと変化して、あるいはミリアムの攻撃を受け、あるいはサーラたちへと襲いかかっていく。

「あーもうこのッ」

 ミリアムが容赦なく身代わりに拳を叩き込んでいく。そこへアイリッツが斬りかかった。


 シャロンは結界を張りつつ、サーラへと近づくが、それを見たサーラは一瞬で姿を消し、

「私、攻撃は向いてないんですよー。その代わり、防御壁ホーリィ・カーテン!」

それぞれ四人を光の膜が包み込んだ。攻撃が、その膜に邪魔をされ、届きにくくなる。


「“白蓮華”」


 突然、近くに白い華が咲き、灼熱の炎が体を襲った。


「くぅッ」

 咄嗟に風を使い、炎を散らす。もう一度!


 アルフレッドのまわりを風が吹き荒れ、周辺の炎を散らした。同時に斬りかかるも、剣はアリサに弾かれ返す刀で肩に傷を負った。


 動きからして、そこまで深くなさそうだが……。


「えいッ」

 ふいに現れこちらを錫杖で殴ろうとしたサーラと、慌てて距離を取った。


「このッじっとしてろ!」

「い、や、だ、ね」

 避けながら双剣を叩き込むアイリッツの攻撃に、ミリアムの体のあちこちが傷だらけになっていく。

「“治療《ヒーリング”!」

 そして、近くへ移動したサーラの呪文で、再び回復した。


「これではきりがない……」

 左腕から肩にかけて負った火傷を、霊薬アムリタを飲んで回復する。身代わり人形は焼けてなくなり、このまま戦いが続けば……。


 サーラが錫杖を構え、

閃光驟雨レイ・スコール!」

と唱えた。


 一気に光が天井から降り落ち、突き刺さった者すべての動きを止め、そこへ白の炎が襲う。


 なんとかギリギリで風を使って散らそうとするが、絶妙なタイミングでサーラが飛び掛かってきた。ああもうこのッ!


 髪が幾筋か炎に巻き込まれた。一度溜め、サーラにぶつけ、即座にその場を離れた。シャロンは風をなんとかコントロールしつつ、速度を上げて足に火傷を負いながらもアリサと戦うアルの近くへ向かう。

  

「ちっ」

 アリサが気づき、身を引こうとするのに斬りかかり、同時にアルフレッドへ霊薬アムリタを投げた。


 アリサの剣は、粘りがある。打っても打っても絡み再び戻ってくるような剣戟。しかし、そのアリサの隙をつき、その腕をアルフレッドが斬り落とした。


蘇生リカバリー!!」

 サーラが叫ぶとその体から溢れた光が、アリサを包み、腕は元どおりになった。


 風でその体を狙うも、彼女は避け、こちらと距離を取る。回復したアリサの剣がシャロンを狙うが、それはアルフレッドの剣に弾かれた。


「“戦刃乱舞”」

 ベルーナのそう大きくはない声が響き、壁と床から刃が突き出した。それは、シャロンとアルフレッドを引き離し、二階席でミリアムを圧倒していたアイリッツにも襲い掛かる。


「くそッ!!」

 アイリッツが双剣で刃を受けようとするが、力足らず弾かれ、‘倹約家’が吹っ飛んだ。慌てて拾おうとするが、それをミリアムが下へ蹴り落としてアイリッツに拳を叩き込んだ。


 むせるアイリッツの首を狙おうと蹴りを放つが、その体は風に煽られた。

「ああもう、風がうざい!」


 シャロンは2対1でアリサに向かいながら、同時に何か魔法を使おうとしたベルーナへといくつか風を放った。

「…………?」

 受けた風はさほど強くはなかったので、さっさと払おうとしたが、その内の一つが予想外の重みを伴ってベルーナにぶつかってきた。同時にその死角から、鋭い風の刃が、彼女を襲う。


「危ないッベルーナちゃん!」

 ベルーナを突き飛ばし、風を避けてサーラがバランスを取る。ベルーナがこちらを睨み、手をかざすと、三つ叉に分かれた炎が一直線に向かってきて、シャロンは風の結界を張る。その背後でアルフレッドが力を籠め、防御壁を突き破りアリサを斬りつけ、

「う、あ、」

その体を斜めに斬り裂いた。サーラの悲鳴が上がり、彼女は一瞬でアリサの横へ移動して“蘇生リカバリー”を唱え、アルフレッドを睨みつけた。


「詰んだ」

 さほど大きくはなく、呟くようなアイリッツの声が、なぜかシャロンにはよく届いた。風のせいかもしれない。


 ズシュッ


「あ、れ……?」


 どこからアイリッツの小剣が鋭く飛来し、サーラの胸に深々と突き刺さっていた。


「サーラ!」

 サーラは駆け寄るアリサの前で、みるみるうちに光の粒となり霧散していく。


「よくもサーラを!」

 激高し隙だらけとなったアリサはアルフレッドの敵ではない。返す剣で斬り裂かれ、こちらも絶命し、光りの粒となって消えていく。消えた後に、小さな結晶のようなものが、床へとまろび落ちた。


 唖然としたような、ベルーナが、こちらを見ている。


「おまえ……同じなのか!なのになんで、こんなことを!?」

 ミリアムが叫び、アイリッツに攻撃を繰り出した。

「あたしたちは、この世界で生まれた……ここを滅ぼせば、再生もできず消えるんだ。消えちゃうんだよ!?それなのになぜ……!!この、裏切者!!」

「残念だが、オレは、立ち止まったりはしないよ」

 ミリアムはそう呟くアイリッツの剣に裂かれた。


 残るは一人。

「あ…………」

 呆然としていたベルーナは、何かを決意したように、こちらをきっ、と睨みつけた。


「魔力をあんたにあげるくらいなら、消えた方がマシ」

そう言って、

「“死、出ずる華”」

そう静かに唱え、その身すべてを薄紫色の、光る華に変え、花びらを辺りに撒き散らし光る粒子となって消えていった。


 静かに静かに、上から薄紫の華が降り、それが触れたところを次々溶かし、呑み込んでいく。しかし、アイリッツはそれすらも、手を振り、美しい白い炎として燃やしていく。


 シャロンたちの元にはかすかに灰が、降り積もるだけだった。

〈人物補足〉

アリサ……剣術を得手とする。カルテヴァーロ唯一の突っ込み役。

サーラ……法術、防御魔法回復魔法を得意とする。神官風ローブは創り主の趣味。料理はそつなくこなすが、時々とんでもない失敗をやらかすので注意が必要。最近、卵の新しい調理法を編み出そうと、殻ごと炭火に入れて爆発させ、アリサにひどく怒られた。

ベルーナ……戦闘系魔法が得意。髪色は気分で変える。元の色はごく薄いはしばみ色。

彼女のまわりの魔力障壁には、行動の遅延効果があり、その隙に簡易スペルでカウンターを繰り出す。動き回るのは苦手(白兵戦の能力ほぼゼロ)なのでじっとしている。パズルものが大好き。

ミリアム……カルテヴァーロのリーダー的存在(自称)。動きが素早く相手を翻弄する。ただし、一撃一撃は軽い。

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