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異郷より。  作者: TKミハル
楽園の夢
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広く、深く

 次の日。早朝これまでのようにアイリッツがよお、と挨拶してきた。無言で会釈をして、アルと朝の鍛錬を始める。今日はそれに、風を上手に操るための修行も追加した。やはり、ここぞというときに使えるようになっておきたいと、そう思って。


「アイリッツの言ったとおりだな。使いこなせれば、これほど便利なものはない」

何を迷っていたんだろうな、と呟きながら、風を起こし遠くの動くものを狙いうちする。すぐさまアルフレッドが嬉々としてその方向に走り、ついでに辺りを一周して、あまり表には出してないがそこはかとなく満足げに先ほど狙った穴ねずみと、茶色のトカゲ数匹持って帰ってきた。


 それから朝食を取り。さて行くかと、天幕を畳み、各々荷物を持つ。

「まずここの主を倒さないとな。で、どっちへ向かえばいいんだ?」

 アイリッツが無邪気に尋ねてきたので、訝しみ、

「それはおまえが詳しいんじゃないのか?」

と問いかければ、

「いや、気配がほぼ全体を覆っているし、なんか掴みにくいんだよね。オレより羅針盤で探った方が手っ取り早いよ」

「まったく……」

 シャロンが羅針盤を取り出すと、それは、荒れ地のある一定方向を示しながら、ゆっくり左右に振れだした。


 じりじりと照らす太陽の下、三人はひたすら針の差す方向を目指して進む。

「しかしただっぴろいなぁ、ここは」

「……口を動かすと、体力を奪うんじゃないのか?」

「いや~オレには関係ないし」

「…………」

 もう黙ってろとじっとり睨んで、なおも歩き続けると、やがて、少しずつ辺りに丈の短い草や木が増え、川が遠方に現れてきた。


 しばらくなおも歩いていくと、遠くから、賑やかな歌声のようなものが聞こえ始める。



“エイホウ、エイホウ、おれたち仲間を探してる。こっちへ来いよ、遊ぼうぜ。輪になって楽しく踊りにいこう”


 歌は遠くの、やたら硬そうな葉が茂った木がまばらに生えている……乾いた雰囲気の森の中から聞こえているようだった。歌声はひとりだったけれども、たくさんの斧で木を切る音が響いてくる。


 近づけば、森の中では、たくさんの斧がてんでばらばらに木を切り倒し、多くの服が重なったまま吊り下げられた服の、その近くでは、一人の老いたきこりが歌いながら木を削り、人形を創っては並べているようだった。無数の人形を創り、一心に作業を続けていた老人は、こちらに気づくなり、金きり声を上げて斧を振りかざしてきた。そのしわだらけの顔は、まるで木偶のようで、目の位置には乾いた穴が二つ。


 即座に風の刃で狙うが、老人は斧の風圧で風を相殺させ、こちらに駆け寄ろうとするも、その胴体をアルが薙いだ。呻いてたたらを踏む老人とそれと同時に、木を切っていた斧がピタッと動きを止めた。


“来い来い、来い。来い来い来い!おれたち仲間を集めてる。こっちへ来いよ、遊ぼうぜ”


 辺りに大勢の歌声が響き渡り、てんでバラバラに動いていた斧が数本、こちらを狙い打ちする。

「予想済みだよ、っと。……げ」

 アイリッツが呻く横で、人形の下へ飛びながら斧や服が集まり、同じような木偶の魔物が次々にこちらへ参戦し始めていた。ザッザッザッザッと隊をなしてこちらに迫る様は、なかなか鬼気迫るものがあった。


 あー、ここにイーカルスでもいてくれればよかったのに、とぼやきながら、キィキィ叫ぶ手近な木偶の魔物と斬り結ぶアイリッツの横で、シャロンは剣を構え、

「いくぞ!」

と叫んで風を放った。それにより並ぶ魔物のうち何人かの首、そして腕をすっぱりと落とし、同時に地を蹴って斬り込んでいく。


「これは……オレいらないかも」

数度に渡り魔物を斬りつけ、命を奪うアイリッツの前には、凄惨なる――――といっても血が出ていないのでそれほど感じないが――――光景が繰り広げられ、あるいはシャロンの風によって体をバラバラにされ、あるいはアルフレッドの剣に胴体を真っ二つにされた魔物の、死屍累々とした山がそこかしこに出来上がっていた。


 何体か、突然こちらに駆け寄ってくる同じような樵の魔物を倒し、森をさらに進んだ先には小屋があり、その前では切り株に腰掛けた老人が、パイプをふかしながら顔を上げたが、ほぼ反応する隙も与えず、シャロンの風と、アルフレッドの剣に斬り刻まれ、アイリッツにとどめを刺されてその命を失った。その瞬間世界がぼやけ、色を失って崩れ落ちていく。


 気がつくとシャロンたちは、ゆらゆら揺れる、木でできた巨大な部屋の中に佇んでいた。馬の首に甲冑をつけた妙な生き物がうろうろと歩き、こちらを見つけるなり走り寄ってくる。


 造作もなく三人はそれを倒し、部屋が並ぶ横に長い廊下を走りながら、その先を目指すと、やがて、豪奢に飾られた広間のような場所に出て、一段高い場所には玉座、そこに鎮座する長く豪華なサーコートを纏う骸骨がガチャリと立ち上がった。空気がパシッと弾けて小さく音を立てる。


「高貴なる死霊リッチか……おそらく稲妻をつか」

う、までアイリッツが言いきる前に、剣の柄に手をかけ、ひたすら溜めていた力をシャロンが解放した。


 ザシュウ、と溜め込んだ風により、死霊リッチの首が根元から吹き飛び、やがて遅れてその体がよろよろと崩れ落ちていく。


 飛び出しかけたアルフレッドが足踏みし、

「使う前に、倒せばいい」

とそう断言したシャロンの隣で、アイリッツが、いやまあ、それでいいんだけれども、と頭を掻いた。


「まだ終わってない」

 先に気を取り直したアルフレッドが冷静に、辺りを見回して言った。シャロンが羅針盤を取り出したが、針は大きく揺れている。

「あ~、オレに任せろ。ここはおそらく船の中だろう。重要なのは船長じゃなく、こっちだ」

 しばらく玉座でごそごそ何かやっていたアイリッツが自信ありげににやりと笑って駆け出した。


 二人がその後についていくと、ある厳重に作られた部屋の前で彼が止まり、懐から取り出した鍵で、ガチャリと扉を開け放った。


 その中には、金貨の山、そして金銀財宝が山と積まれ――――――。


「待った待った!!勘違いすんなって!」

 絶対零度のこちらの眼差しに慌てて弁解し、奥にある宝箱に手をかけ、しばし悩んだのち、細い針のようなものを突っ込んで、カチャカチャと鳴らし始めた。


 どう考えても、財宝を盗みに来たこそ泥にしか見えないが……。


 無駄な時間を過ごしているのでは、と思いながらも辛抱強く待つシャロンとアルフレッドの前で、アイリッツはしばし宝箱と格闘していたが、やがて、カチッとかすかな音を聞いて表情がパッと明るくなる。


「よっしゃ、開いたぜ!」

 宝箱を彼が開くと、中からは蝙蝠の羽が生えた、ねずみのような妙な生物が飛び出し――――――アイリッツの手により、ぷちっと潰された。


 そして、どうやら正解だったらしく、景色が揺らめき、シャロンたちの前には、いつのまにか白く大きな街門が出現していた。

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