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異郷より。  作者: TKミハル
楽園の夢
219/369

指標

 お待たせしました。今回やや長めです。そして説明がほとんどです……。

 極度の集中状態から一変、ぐったりした様子で体を預けてくるアルフレッドに身じろぎしつつ、

「願いを叶える魔導装置か……。これまで何もなかったのに、なぜ今になって発動したんだろうな」

シャロンはぽつりと疑問を洩らした。


 そんな二人を生温かい目で眺めながらも、

「魔導装置が作動するには膨大な魔力が必要になる。おそらく世界に拡散している魔力を集める仕組みにはなっていたんだろうが……魔法文明が廃れ、誰も魔法を使わなくなったこの環境では、そうそう集まるものでもないし……まあどっかの誰かが、危険な魔導具を破壊し続けたりとか、返り討ちを覚悟で強力な魔法生物を滅ぼす、なんてことを繰り返してのこの状況なのかも知れないな」

アイリッツは軽く言う。


「魔法生物……?」

「まあ、魔物の大きい奴みたいなものだよ。散り散りになった者たちが、かつての栄光よ、もう一度!といろいろやらかしたみたいだけど、どうも、あんまりうまく行かなかったらしいな」

その言葉に、シャロンはじっとりと嫌な汗がにじむのを感じていた。


 これまで、わりと強力な魔物も倒してきたが……まさか……。


 そう思い口を開きかけたが、本当にそうだったら立つ瀬がないので、結局言わず口を閉じた。


 再び訪れる沈黙に、じっと聞いていたアルフレッドが身を起こし、

「で、おまえのことはどうなる」

ときつめに問う。

「ああ、そうだったな」

 アイリッツはふっ、と息を吐き、

「オレたちの最終目的は、魔導装置を止め、元の世界に戻すことだ。魔導装置を止めるには、その核を破壊しなければならない。核はおそらく作り手であり、装置の近くでもっとも巨大な魔力を持っていた人物……国王、ゼルネアスの形を取っているはず。つまり、核を破壊するには、王城に乗り込んでゼルネアスを倒せばいいってわけだ」

と一気に言った。


「……改めて聞くと、かなり無茶に感じるな」

 暗澹たる表情でシャロンが言えば、アイリッツはふっと口の端を上げ、

「何のためにオレがいると思ってるんだよ。装置の核で、巨大な魔力を有した全世界の核……普通の人間なら例えある程度技量があっても瞬殺される」

だがしかし!とにやりと笑い、

「知ってのとおり、オレって人外だろ?まあさすがのオレでも、このままじゃ奴に勝てない。だからまわりの柱を滅ぼし、奴の力を削ぎつつなるべく多くの魔力を吸収する必要があった。まあ、集めている最中で、追われる破目にもなったが、それは一部の意志だ。中心は動いちゃいない」

どうせ余裕綽々で来るのを待ってるんだろうよ、その余裕が仇となるのさ、と不敵に笑ってみせた。


「追われ始めたのもそうだが、シャロンたちがこの世界に呑み込まれる前に合流しておく必要があった。だから、来たんだ。けど、」

思いっきり顔をしかめ、

「初めて会ったばかりで、敵か味方かもわからない奴に、『オレが強くなるために力を貸してくれ』って言われて信じられると思うか?ふざけるなって反発されるのがオチだ。だから、とりあえず本当の目的は伏せといて、親しくなれるまで待つことにしたんだよ。驚かさないよう、少しずつネタばらししてね」

してやったり、と邪気のない顔で笑う。


「まあ確かに、理屈はあっているな……」

 呟くシャロンの隣で、アルフレッドはじっ、と何かを考え込んでいる。

「しかし思うんだが、おまえも魔導装置から生み出された、って言ってたじゃないか。その核に牙を剥くことって、可能なのか?例えば、いざ破壊しようとしたら急にこちらを裏切ったり、おまえの動きが止まる、なんてことは」

「ないよ」

アイリッツは真顔で即座に答えた。どこか疲れたような表情にも見える。

「多分それがあるなら、そんなまどろっこしいことはなくもう全部終わってる。……魔導装置は人の強い思いを汲み取って叶えるものだ。そして、人の心に矛盾は付きものなんだよ」

それから、そうそう、と声を上げ、

「シャロンたちはさ、ゼルネアスと戦うことになっても、絶対にトドメ刺すなよ。核となったものを消滅させると、そこに虚無の穴が空き、同時にこの世界も崩壊する。この時その虚無の穴を埋めなければ、おそらく影響の出てる表側も、王都シーヴァースを中心に崩壊に向かう。んで、それを食い止めるためにはそこで核のすげ替えを行う必要がある。といっても自動で近くの魔力反応を取り込むんだけど」

それがオレの役目だ、とアイリッツが笑い、

「まあ実際のところ、人には酷だ。ここの時間の流れは一定ではないし」

そう、締めくくった。


何かもやっとする……。


 それは、どこかに刺さった小さな小さな棘のように。シャロンはその違和感の正体を見極めようとして口を開き、

「そんな簡単にいくだろうか」

そう問いを投げかけた。

 アイリッツはそれに対し、

「いや、やるんだよ。ていうか他に方法がない」

呆れたように返事をする。

「……そうか」

 考え込むシャロンの横で、

「わかった」

 アルフレッドが身を起こし、

「お、おう」

「とりあえずおまえの話……すべてを信じたわけじゃないが、他に術もない。裏切った時点で斬り捨てる。から、しばらくは乗る。好きにすればいい。シャロンも、それで、いい?」

 確認のために尋ねるアルに頷き、

「アルの思うとおりにすればいいよ。間違っていると思ったら、そこでまた止めるから」

そう笑うと、アイリッツがおまえらなぁ、と呟き、まあいいやと首を振った。


「いっとくけど自爆して言質取られてるからな。後々くるぞ」

そうよくわからないことを言って、さて、と大きく伸びをし、

「さて、景気づけに一杯やるか!」

とカバンから様々な種類の酒を取り出し始めた。


「あ!これはあの時の美味そうな酒!ひそかに飲みたいと思っ……て、もうほとんど残ってないじゃないかッ」

「はははーすっげーうまかったぞ。一昨日の夜は月も綺麗で、最高だったなあ」

ちなみに、今夜は月は、小月の細い細い輝きが見えるぐらいで、美月は新月のようだ。と考えて、シャロンははっとなり考え込んだ。そういえば、月の満ち欠けって、この世界ではどうなっているんだろうか。


「…………」

「おまえちょっとは遠慮しろよ。酒はそうやって飲むもんじゃないだろ。味わえ!」

 無言で酒を一瓶あっさり空けたアルフレッドに、アイリッツが言い聞かせている。


 ああ、悪くない雰囲気だな。


  少しずつほろよい加減になりながら、シャロンは微笑んだ。夜は、静かに更けていく。



 さすがに、鍛錬の疲れが出たのか、シャロンが先に寝るといって天幕へ引っ込んだ。ずらりと並んだ空瓶に、まったく変わらない様子のこちらを見る彼女の目は、呆れていた気がする。


 アイリッツが天幕の方を見ながら、

「ああやって、きちんと日常生活に立ち返ろうとするところが、彼女の強みかも知れないな」

「……」

 ちら、とアルフレッドが鋭い視線を投げかける。

「アルも気づいてるだろうが……この世界は寝なくても済んでいく。別に食べる必要もない」

「無意味な世界だな」

「おいおい。……ここでは、力なんて望めば手に入る。そうやって望みのまま走り続けて、ある日ふと気がつくのさ。もはや人間じゃない、ってね。力に満ちていてそれだけ危うい。それがこの世界の在り方なんだよ」

あの技とか、現実じゃそうはいかないからな、いっとくけど、とアイリッツは忠告する。

「多少似たようなのは使えるかもしれないけど、確実に威力は弱まるだろうな」

「……別に、どうでもいい」

そう言いながらアルフレッドはまた杯を空けた。

「しかし、おまえも強いなー」

増えた空瓶を横にそう言えば、

「北方ではよく飲む」

そう返しながらまた酒を器に注ぎ入れた。


 そうして、しばらく経った頃。おもむろに、

「もう寝る」

と言って立ち上がった。


「ここは任せた」

「おう。了解」

その背中を見送ったアイリッツは穏やかな気持ちで夜空を見上げ、のんびり夜明けを待つことにした。

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