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異郷より。  作者: TKミハル
楽園の夢
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事の始まり

 今回説明が多いです。

 舌打ちとともに毒づきそうになったが、アイリッツはすぐに気持ちを切り替えた。一撃を入れられたら、終わり。それがこの戦いのルール。

 その横顔を剣が狙い、すぐさま体勢を低くして躱し、地を蹴って下がる。


 アルフレッドは止まらなかった。もっとも、彼にとっては、敵の息の根を止めるまでが戦闘なのだろう。


「アル!終わったんじゃないのか!?」

 慌てたような表情で叫ぶシャロンの声が届く。外界の余分な情報すべてを遮断し、ひたすらシンプルな状態になったアルフレッドには、それも聞こえていない。


  シャロンは、もう決着はついたにもかかわらず、終わらない戦闘に焦っていた。叫んだが声は届かない。


 これ以上は無意味だ、しかしどうアルを止めればいいのか…………。


 はっ、と自分の腰の剣に目をやる。そういえばこれがあったじゃないか、とシャロンの瞳は輝いた。



 斬撃は何度弾いても時に曲線を描き、時に突くようにして、アイリッツの動きを追う。


 さて。“力”を使い、止めるのは簡単だが、後に禍根が残りそうだ。いったいどうするか……。


 アルフレッドの速く容赦のない攻撃を弾き、避けながらも思案するが、しかしその間にも刃は次々降ってきていた。

「オレの一張羅どんどんボロボロになってくじゃねえかッ」

 ぼやきながらも体は動かし、合間に思考し続ける。


 シャロンは一歩踏み出し剣を構えた。暴走しているアルフレッドを止めるためだけに、その“風”を放つ。


 防戦一方だったアイリッツは、シャロンが結界を越えてきたのに気づき、その次の瞬間、分厚く重く濃密な“風”が死角からアルフレッドを襲った。


 ゴィン。


「うわッ痛そー」


 戦闘中に思いがけないところからきつい一撃を食らい、頭を揺らされたアルフレッドは地面へべしょりと倒れ伏していた。


「あー終わった終わった」

 そう軽口を叩くアイリッツの、服がすうっと元通りになっていく。同時に、張られていた結界が解かれた。よっ、とアルフレッドを持ち上げ、駆け寄るシャロンに軽く手を上げる。


 そのまま天幕へ行こうとした彼らへ、突然、何か人型の物体が降ってきた。すぐさまシャロンが抜刀し、黄土色にも似たそれ、を細切れの木片に変える。


「これは……なんだろう。木偶でくか?」

「っていうかよく確かめてから破砕しろよ……」

 いやなんかパッと見、魔物っぽかったし、と口ごもるシャロンをそのままに、木片を手に取り、虚空を見上げた。

「動く気配なし。様子見、ってところか」

「大丈夫なのか?いきなり襲われるってことは…………」

 シャロンは羅針盤を取り出し、針が一定方向にぶれるのを見た。


「これまでの状況からして、待ち伏せ静観タイプっぽいし……まあ大丈夫だろ」

 アイリッツはあっさりと言い、言葉どおり他に何かが起こる気配はなかったので、二人はアルフレッドを若干引きずりながら運びつつ、いったん天幕へ戻ることにした。


 朱を帯びた陽光が、地平線の彼方に沈み、やがて辺りは暗くなっていく。


 ちょうどいい大きさに破砕された木片を薪に、火を起こし鍋をかけると、やがてアルフレッドがうっすら目を開け、ぱちぱちとしばたき、シャロンを認めて憮然となる。

「……ものすごく、痛かった」

「あ、アル、その、ごめん。今は大丈夫か?」

 うろたえつつ謝り倒すシャロン。むっとした仏頂面のアルフレッドを前に、

「ふっ。ははははは」

アイリッツは吹き出し、遠慮せず涙を流さんばかりに大笑いし、それがしばらく続いていた。


 いろいろあったものの夕食を終え、人心地ついたところで、アイリッツが、

「じゃ、まあ約束なんで、全部話すよ。事の始まりから、すべてを」

そうあっさり言った。

「軽っ……。もうちょっと情緒や趣は……」

 呆れてシャロンが言えば、まあ、重い話ってのは性に合わないんで、と快活に笑い、

「そもそもの事の起こりは、その昔、まだ大陸で魔法文明が栄えていた時のことだ」

いきなり本題を切り出した。


「その魔法文明を治めていたのは、その強大な魔力と卓越した戦士としての力で数多くの人々を救ったかつての英雄、その名は、ゼルネアス。初老の域ではいたものの、その力はまだ健在で、民衆からの人望も熱く、良政を敷いていた。ところが、だ」

 アイリッツは真顔になり、

「そんな平和もつかのま、やがて大陸に病が流行り出した。圧倒的な感染力を誇るその病は、嘔吐、高温の熱、死を伴い、徐々に世界を覆っていく」

「英雄は、どうしたんだ?」

「かつての英雄は、命じて、病を解決するための魔法装置を造らせた。しかし開発途中で娘と、その子どもが病に倒れ、その命を失った。……本来なら、病を治すための装置だったはずが、度重なる悲劇、空いている土地に端っこから底が見えないほど大きく掘られた穴が、死体ですべて埋まるほどの状況のき地すべてに掘られた穴が死体で埋まるほどの状況のひどさに、もう開発陣もおかしくなっていたんだろうな。すべての人を幸せにする、という目的にすり替わり、不可能としか思えなかったその装置は、血と涙と人々の願いの結果完成した」


 その頃には大分人口は減っていたが、民は半数近く残っていた、と呟き、

「もう二度と悲劇を繰り返したくなかったんだろうな。装置はずっと発動したままでいた。しかし、その力は強大で、常に豊作、望みはすぐ叶う、何の争いも悩みもない状態が続くと、次第に人々は何もしなくなり、装置の力に甘え始めた。王であった男はそれに気づき、装置の力を徐々に絞り、最後には止めようとしたが、恵まれた環境に慣れきった民衆から不満の声が上がり、とうとう反乱が起きちまった」

 シャロンが息を呑んだ。

「それで……」

「そう。反乱のため王都は炎上。かつての英雄だった男は軍と、仲間により反乱に加わった民を失い――――国民のほとんどだったらしいが――――その時受けた傷が元で倒れ、亡くなったという話だ。残りの民も散り散りになり、大陸全土へ散らばっていったが、装置は残っていた。そして、かつての英雄と、その周辺を記憶したままで、再現しようとしているのさ」

そう締めくくり、一度口を閉ざし、物思いにふけるように黙り込んでしまった。

続きます。

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