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異郷より。  作者: TKミハル
楽園の夢
213/369

晩天来たる

 戦闘シーン、若干グロい表現あり。

 ゴォッ、と炎が吠えた。いくつかの家が爆発とともに勢いよく弾け、火柱が上がる。


「これぞまさしく飛ぶ鳥を落とす勢い!この力を見よ!」

 遠くで叫びながら手から出された紅炎は、輪を描きセイレーンを襲う。それを慌てて避けながら、乙女たちは焦燥にかられこちらへ向かってくる。


 よくある例えを実践されても……。


 呆れるシャロンの前で、羽音とともに低い警戒音を囀りながら、セイレーンの生き残りが炎を避けつつこちらへと向かっている。

「わ、ワタシたチなんて襲ってル場合ジャないワ!侵入者ヲ狙イなサいよ!」

「そうヨ!あっち二活きのいいノが三匹もイルんだかラ」

そう口々に喚く鳥の乙女たち。


 誰しも考えることは一緒のようだ。厄介者の押しつけ合いか。


 生温い表情になり突っ込みつつ、アルフレッドと頷き合い迎え討つ構えを取る。


「混戦になりそうだな……」

 そうシャロンがぼやけば、

「じゃ、オレはまず鳥たちをなんとかするから。ひとまず適当に弱らせといてくれ」

とアイリッツが爽やかに、且つさりげなく押しつけようとしてくるので、

「……待て。あいつはなるべく人数揃えて当たった方がいい」

「え~、オレあの変態との火遊びは、嫌だなぁ」

気の抜けるような口ぶりで言う。


 アイリッツはその近くで、どうしよっかな~と呟きながらごそごそカバンを探り、道具を入れ替えてベルトや懐に捻じ込み、カバンを隅に放った。


「……来るぞ」

 シャロンがそう言うのと同時、あちこち跳躍し、破壊してきたイーカルスが、大通り、やや離れた位置に文字どおり降ってきた。


「さあ、次の相手は誰かな!?」

 爽やかに、その実無情に、おそらく仲間であろうセイレーンを落としながら、男が叫んだ。疲れた気配もない男は、頭部から流れる血も、琥珀の硝子の瞳もまったく何一つ変わっていない。無邪気で無情。その言葉がぴったりくる。


 キュィィイイ!


 背後からのセイレーンが鳴き声とともに空気が震え、慌ててシャロンは風の結界を張った。鳥乙女たちの数は次々に増えている。群れの生き物だからだろうか。

「こいつラを盾にスればいいワ!」

 風を強引に突き抜けシャロンを鋭い爪で襲うセイレーンにアルフレッドが斬りつけ、さらに追撃を加えようとしたところをあっさりアイリッツが奪い、そのまま逃げる相手を追って駆け抜けていった。


 「大丈夫だ、オレに任せろ!」

 イイ笑顔で追うアイリッツは、顔を引きつらせるセイレーンの群れへと、地面を蹴り、突っ込んでいく。羽を薙ぎ払い、さらに飛び立つ獲物を家々の壁を蹴って追うその姿はまるで、圧倒的な力で周囲を蹂躙する、一刃の風。


「はははは、これはどうかな!?」


 いや、のんびり見ている場合じゃなかった。アルが血を流す変態男から放たれる炎を避け、斬りつけようと肉迫している。シャロンは急ぎ援護の風を送った。


 風を受けた炎がアルフレッドを避けて曲がる。シャロンは自分も参戦するため、イーカルスへと近づいた。


 協力して、交互に男の体に斬りつけ、斬り返す。


「それで、全力か!?そんなんじゃ足りないな!もっともっと、俺を熱くさせてくれ!」

 哄笑しながらわけのわからないことを叫ぶイーカルス。体から噴きこぼれる血は、灼熱の熱さを持っているため、自分の動きが鈍り長くは近くにいられない。


「アル!」

 至近距離から炎が放たれ、体当たりで庇うと、そのまま石畳をごろごろ転がった。


 すぐさま起き上がり体勢を立て直し、再び放たれる炎を避けた。奴は、と見ると、動こうとはせず、突っ立ったままつまらなそうにこちらを見ている。


「あ~……つまらん。これだけかおまえたちの力は」

「別におまえを楽しませるつもりはない」

 きっぱりと言うアルフレッド。

「それじゃあ、面白くない。もっと己の無力に憤れ!もっと全力で、燃えて燃えて、力の限り戦え!今から俺が、見本を見せてやる!」


 いらない、と言えたらどれだけいいだろう。


 男のまわりに紅の炎の線が走り、石畳に切り込んでぐるりと円を描き、そこから放射状に広がっていく。なんだかまずい状況のようだ。


「いくぞ」

 アルと頷き合い、風の刃を放ち、同時に奴の懐へ飛び込んだ。


「いいぞいいぞ、もっとだ、もっと熱くなれ!この町ごと、世界ごと!」

 叫びながら斬られ、どろりとした血が地面に落ち……炎の円はますます広がっていく。


「熱ッ!くそッ」

 地面が熱くなり、立っていれない。靴に火がつき、いったん離れ瓦礫に乗ってやりすごすも、このままでは――――――。


「あああ、俺の、この力、この光は、世界を包み――――――」

「はいはい、うざいうざい」


 ザシュ、ザシュッ


 剣がどこからともなく飛んできて、イーカルスの胸を貫いた。壁に飛ばされ、縫い止められたその体に遅れて腹に小ぶりの剣が突き刺さる。


「あああーーせっかくいいところで!」

「おまえさ、オレの存在忘れてただろ」

 半眼で心底うっとうしそうにアイリッツがやってきた。


「もっと早く来れなかったのか……」

「まあ固いこと言わずに」

 ひらひらと手を振り、男に対峙するアイリッツ。いつのまにか炎が消え、刻まれた溝だけがシュウシュウと煙を上げていた。


「ふっ、くッ、抜けん!力も……おまえなにをした!」

もがくイーカルスに、

「さあ?体の調子でも悪いんじゃないのか?」

クールに返すアイリッツ。


 ふ、ふふふと男は不敵に笑い、

「はは、わかったぞ!貴様、同種食いか!他人の力を奪うしかできん能なしめ!」

「いや、常時マ××きプレイ野郎に言われたくねえよ」

そうリッツが返し、ちらっとこちらを窺った。


「いや、見るぐらいだったら言うな」

 シャロンは憮然とそう返す。


「はっはぁ、この程度のことで、俺がどうにかなると、思うな!」

 どろり、と剣が刺さった部分が、朱く溶けた。ずり、ずり、と壁に剣を残して男は足を踏み出し、歩み寄ってくる。


「こんなものじゃないんだろう?俺を、もっともっと燃え上がらせろ!」

「じゃあ、そんなおまえに、とっておきのアイテム、それはこれだ!」

アイリッツが懐から不可思議な文様を描く卵を取り出し、その足元へ投げた。またか。


 卵は割れ、中から緑と枯れ草色の手の平サイズの……蛙が登場し、ぴょこんと跳ねる。


 ゲコゲコッ


「なんだこれは」

 若干顔をしかめたものの、特に気にした様子もなく歩みを進め、ぷちっとその足に踏まれた蛙は、ひっくり返って空を仰ぎ、ギュエエエエ、と断末魔の悲鳴を上げ、潰れていく。


 なんで出した!


 その突込みを入れるか入れないかのうちに、辺りは急速に暗くなり、雨雲が立ち込めたかと思うと、一気に叩きつけるような集中豪雨が一面に襲ってきた。

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