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異郷より。  作者: TKミハル
楽園の夢
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空と炎の境界線

戦闘シーン、軽度の残酷描写があります。あと、若干短めです。

 麓の牧歌的な風景は、その様を一変させていた。


 淡々と歩きながら街へ向かうその道中のあちこちで、轟音とともに天に届くほどの火柱が上がる。せっかくの小麦畑の穂に火がついて、揺れて火の粉を散らしていた。まだ、ここまで火の手は迫っていないが、時間の問題だという気がする。


 あまりの暑さについ無言になってしまうこちらとは違い、

「そういや朝食もまだだったな。パンでも焼くか。火はたくさんあるし」

観光に来たような気軽さでリッツはほがらかに言う。


「……そのカバンには、いったいどれだけのものが入っているんだ」

 暑さのせいか辛そうなアルの横でそう問いかければ、

「見るなら、どうぞ」

とリッツが蓋を開けて中身を見せてきて……。


「もういい。混沌、としかいいようのないものを見せてもらっても困る」

 え~、といいつつ再び閉じた中には、ぐちゃぐちゃと道具やら肉の包みっぽいものやらが詰まっていて……しかし、その量は決してカバンの容量以上はない。まあ、普通なら当たり前だが。


 いったい、普段取り出している様々なものは、どこから出ているのだろう……?


 そんな疑問を感じながら歩く途中で、お、ここにしようぜ、と大きめの石がちょうど椅子代わりになりそうな場所で足を止めた。


 触ると全体が暖かい。下の地面ですら、じわじわと暖まってきて、そのうち湯気が出そうな勢いなんだが……。


「おい、ここで本当に休憩するつもりか?」

「もちろん!」


 アイリッツは落ちていた枯れ枝を取り、石を囲んで四角くぐるりと線を地面に描くと、

「これでよし」

と満足げに手の砂を払った。

「……説明」

 ただでさえ普段短いアルの言葉が、暑さでさらに短くなって問いかける。


「ああ、今線を引いたところが、オレの土地ってわけだ。狭いが居心地のいい我が家へようこそ!」

爽やかな笑顔で両手を差し伸べた。


 子どもか、おまえは。


 シャロンの心中の突っ込みを余所に、

「これで炎は大丈夫だ。さっさとお茶にしようぜ」

黒いライ麦パンや、チーズ、干し肉をカバンから取り出した。


「パンやチーズなんてあったか?」

「何言ってんだ。見損ねたんじゃないか?」

「……」


 背負いカバンからシャロンは残り少しになったカシスなどの干し果物を取り出し、眉間にしわを寄せたアルフレッドと分けあって、それから鍋を取り出し火をつけようとした。

「待った待った。いちいち点けなくても」

 ひょいと地面の落書きのような線をまたぎ、そこらの平らな石に乗せる。


 しばらくして、水はぐつぐつと沸騰し、あっというまにお湯になった。見るだけでも暑い……。


 リッツが茶葉を鍋に入れ、人数分のコップを置いてお茶を注ぎ入れる。コップなどカバンには……うん、もう指摘するのやめよう。


 遠くでドォン、と音とともに火柱が噴き上げる。アイリッツの入れたお茶を飲みながらシャロンは、みるみるうちに茶色く枯れた草木、剥き出しになった地面などに思いを馳せる。


 今度はすぐ目と鼻の先で火柱が上がった。やたら近い。


「そろそろ行こう」

 思わず立ち上がれば、え~もう行くのか?とのんびり茶を飲むアイリッツが非難じみた声を出したが、あっさり同意したアルフレッドを見て渋々腰を持ち上げ、コップを仕舞い込んだ。


 道の先には防壁に囲まれた街があり、茶色く太い蔦があちらこちらの壁に張っている。街の上にはくるりと円を描き、こちらの様子を窺う鳥の群れが……って、なんだあの鳥は。


「あれは……鳥型の魔物のようだが……気持ち悪いな」

 体は巨大な鳥だが、美しい髪をなびかせ、こちらを睥睨しているその顔は、鳥の瞳孔ではあるが、人間の女性に酷似している。

「ハーピィかセイレーンだと思うけど……どちらにしろ口元に注意した方がいい。鳴き声に魔力がある」

リッツが空を自由に飛び交う乙女たちを仰ぎながら、そう警告する。


 壊れかけて扉が斜めに軋む門をくぐり、人の気配のない寂れた町に入れば、上空で円を描いていたその魔物は、サーッと近くに舞い下りてきた。大通りに群れるその数は、百に近い。


 ルルル……ピュイピュイと鳴き、バサバサと羽ばたいたり、ちょんちょんと鉤爪のついた足で跳ねながら、顔を見合わせてくすくすと笑う。


 羅針盤を取り出すが、この群れに反応はない。


「……いくぞ」

 声をかけ剣を抜き、そして戦闘が始まった。


「じゃあオレ背後担当な!」

 そう叫んでアイリッツが双剣を抜き、反対側の魔物へと対峙する。とりあえずそこは任せてシャロンがまず剣を抜き、その翼目掛けて風を放つ。


 血飛沫が飛び、苦痛に歪む表情は見ていて気持ちのいいものではないが……それでも倒さなければならない。


 続いてアルフレッドが剣を振り被るも、間一髪で相手は羽を広げ、空へと舞い上がった。


「シャロン!」

「わかってる!」

 アルに頷いて、再び風を大きく練って巻き起こす。いくつかは巻き込まれ、バランスを崩すその相手に、さらに追い打ちをかける。


 きゅいいいいい、と上がる悲鳴に、いくつかの仲間が形相を変え、口を開く。


 ――――――ィィイイイイ


 ぐらり、と頭が揺らされた。全身が小刻みに震え、気持ち悪、い、と思い、そして意識が途絶えた。



 二、三体屠ったアイリッツが異変に振り返ると、ちょうど高周波に揺らされ弾ける二人をもろに見てしまい、

「うわ、スプラッタ」

と呟いた。


 しかし腕輪の効力で二人はすぐに復活する。


 まだ衝撃の収まらないそこへ目掛けて再び鳥が襲い、即座に懐から小刀を数本投げて牽制し、急ぎ二人の元へ向かう。


 しきりに頭を振るシャロンに対し、

「どうもおかしい。本来ならもっと弱いはずだ。この場所、この世界の状況からして、自己顕示欲の強いタイプだろうから……」

と早口で告げて、

「あと、魔力の行使が出来ず、厄介な能力持ちとはいえ、おまえら弱すぎ」

仕方ないな、と呟き、

「よし、雑魚はオレに任せろ!風で結界を張りつつ、急いで大本を探してくれ!」

くったくのない笑みを浮かべて宣言した。

〈前回と今回の魔物紹介〉

・黒い服、穴だらけの彼女……馬は彼女が作りだした、ただのオプション。世界のパワーバランスが乱れないよう、自ら監視役をかっている(誰かに命令されているわけではなく、好きでやっている)。他者からその能力を借り受け、また他者にエネルギー(自らを構成している一部)を与え、強化させることが能力。だから穴だらけ。


・セイレーン(改)……乙女の頭、鳥の体を持つ。本来の能力は呪歌で、相手を錯乱させるもの。しかし能力UPにより超音波を放てるようになった。

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