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異郷より。  作者: TKミハル
楽園の夢
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綺麗な花には棘、可愛いものには……

今回若干短めです。あと、戦闘シーン、流血描写があります。ご注意ください。さらっとにしているつもりですが、人によってはホラーとかちょいグロいとか感じるかもしれません。

 〈結界の天幕〉。魔物から姿を隠す効果を持つが、いわゆる目くらましなので、そのまま動けば察知されやすくなるらしい。


 変なところで現実的になってるんだな……などと思いながら布をカバンに入れ、アルと二人で歩き出す。倒壊した建物を横目に、町の入り口までくれば、‘危険地帯’と書かれた看板が、かろうじて棒に引っかかってはいたものの、もはやどこを示しているのかもわからず風に揺れていた。


 羅針盤はくるくると回転しており、荒れ果てた道はまっすぐ伸びていて、遠く右側には木々の深く生い茂った森が、左方向には田園地帯が広がっている。田園地帯の上には黒い鳥が飛び交っており、どうにも嫌な予感しかしない。……さて。


「じゃあ……とりあえず道に沿って行ってみるか」

 一番無難そうに見えるルートでと、シャロンは情報の少なさを嘆きながら、道に沿っていくことにした。


 砂利と土の道は次第に雑草が生え、牧草地のように短い草で覆われたなだらかな丘になり、深い森がゆっくりと近づいてくる。だんだんと草が伸び、足首から脛のあたりまでになってきた。


 森付近には草地に囲まれるようにして、色とりどりの可憐な花が咲くだだっぴろい花畑が、あちこちに点在している。牧歌的な風景だが警戒を緩めず、アルと慎重に草地、続いて花畑の中を歩いていく。


 と、横手からぴょこんと小さな薄茶色の頭が飛び出した。大きさは、一抱えほど。薄茶の毛並も柔らかそうなねずみが、ふんふんと匂いを嗅ぎながら辺りを探り、やがて黒いつぶらな瞳をこちらに向ける。


 か、かわいい。


 少しだけ心が揺れ動いたが、おそらく相手は魔物。油断は禁物――――――。


 ねずみはきゅいきゅいと鳴き、その隣からもぞもぞと花を揺り動かして、また再びぴょこんと薄茶の頭が飛び出した。見渡せば、あちこちの花が揺れ動いている。その数、数十、いや、数百。遠くの花畑も合わせれば――――――。


「アル、剣を!」

 シャロンは叫ぶと即座に剣を抜き、ねずみに向かって“風”を放つが、時すでに遅く。警戒音とともに集まったねずみの群れが、二人に一斉に襲いかかってきた。


 放った風の刃は5、6匹も跳ね飛ばしただろうか。吹き飛ばされたねずみは再び起き上がり、こちらに駆け寄ってこようとする。


「まずぃ……!!」


 アルフレッドは、地面を蹴って次々と襲い来るねずみを斬り殺しているものの、前から後ろから襲うねずみに苦戦しているようだ。かくいうこちらも、風を張り巡らし、近づかないようにするのが手いっぱい、で。


「シャロン、下もだ!!」

 アルが怒鳴る。花がもこもことこちらへ揺れ動いている。地面の下か!


 服を咬み裂き、襲い来るねずみを跳ね飛ばし、斬り捨てながら、一度跳躍し、動く地面へと剣を突き刺した。


 そのあいだにもアルの方は……もう彼の姿はなく、数十のねずみででき、今も増え続けているもぞもぞと動く塊がそこにあって、

「くそったれ!」

風をぶつけて散らすが、ほんの少し顔と腕が見えただけで、すぐ塊の中に沈んでしまう。襲うねずみたちを斬り裂き、跳ね飛ばしながら、もう一度!


 先ほどより強くねずみが剥がれ、ぼとぼとと落ちた。その隙にアルが赤茶っぽい何か――――多分肉の塊だろうが――――を遠くへ放り投げる。


 一気にねずみが剥がれ、一斉にそちらへと向かっていった。


「シャロン、これを!あと、あの壺を頼む」

「了解!」


 アルフレッドが薄荷油を放り投げ、シャロンの身体にしがみつきもろにそれを被ったねずみたちはぼろぼろと涙と鼻水を流しながらのたうち、周囲を暴れまわっている。


 ねずみでも涙とか出るんだな……


 どうでもいい考えを頭の隅によぎらせつつ、シャロンは体のあちこちが裂けている血塗れのアルフレッドのところまで下がり、壺を取り出しねずみたちの方を向け蓋を開けた。


 バリバリバリバリッ


 耳をつんざくような無数の雷鳴が閃き、目の前一帯のねずみたちを焼き切った。しゅうしゅうと煙が上がり、焼け野原に数えるのも嫌になるほどの黒い炭の塊が、そこらじゅうに転がっている。


 あちこちねずみに食い破られたらしいアルが膝をついたので、慌てて霊薬アムリタを飲ませておく。


「……シャロンは」

「大丈夫だ。多少噛まれただけで。まあ、身体が若干だるいような気もするが」

 そう笑って立ち上がろうとしたが、足がもつれた。


 あれ、起き上がれな……。


 パキ、と腕輪からかすかなかすかな音がして、宝石が一つ壊れ、伏していたシャロンは再び起き上がった。


「まさか、毒……?」

 顔が蒼白になった彼女の問いに、アルが厳しい表情で無言で立ち上がり、まわりを見た。


 その視線を追って同じように見渡せば、まわりにはぐるりと花畑がまだ、いくつもいくつもあり、そのうちのひとつから、ぴょこっとねずみが顔を出し、こちらを窺う姿がいくつもあった。

 なぜかねずみは、花畑からはあまり出ようとせず、少し来ては、さっさと引き返してしまう。


「森を、抜けよう」

 先ほど放り投げた肉の塊を拾いながらのアルの言葉に、一も二もなく頷いて、シャロンたちは花畑を避け、うっそうと草木が茂る、暗い森の中へと、進んでいった。

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