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異郷より。  作者: TKミハル
楽園の夢
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扉の番人

 2014年5月6日こっそり改稿。エドウィンの独白を冒頭に入れました。

 考古学者というのは、厄介な生き物だ。


 たった一片ひとかけの古文書に、あるいはどこから来たともしれない石版に夢を託し、ひたすら追い求め続ける。


 目を輝かせながら、持てるすべての力、すべての財産をなげうってひたすら夢を探し続けるその姿は、ある意味幸せそのものなのかもしれない。


 来る日も来る日も、発掘の日々。ここは違った、でもあそこにはあるかもしれない。今度こそ、今度こそは。そう呟きながら自分の命と財を削り、少しずつ信用と社会的地位も失って、結局最後に何も残らず、あえなく病にかかり死んだ者、身も狂わんばかりになって、地面を掘り続けた挙句発狂した者も知り合いにはいた。


 そんな彼らを尻目に、じっと機会を窺い、時には人を欺き、時には自分の一部をもがれそうな執着に蓋をして、貴重な品やとびっきりの発見を高く売りつけた。


 夢だけでは食っていけない、幻想にとらわれた挙句破滅するなどまっぴらだ。


 自分の奥深い欲望に身を灼きながらも、夢と現実とを秤にかけ。状況に応じて、その比重を変え、なんとか双方を、と両立させてきた。


 今さら変えられない。その必要もない。もはやこれは身に沁みついていて、どちらが欠けても、使いものにならなくなるだろうと、そう思えるから。


 ――――――そのはず、だったのに。



                      ※



 シャロンたちが橋を渡り、暗い洞窟を進んでいくと、やがて前方を睨んでいたアルフレッドが、

「梯子がある」

と指差した。

 そちらへ行って明かりで照らせば、やや狭い通路の奥、その壁に上から金属製の梯子が降りているのがすぐにわかった。


「……どうする、って、上るしかない、か」

 アルと頷き合い上っていくと、これまた金属製の蓋のようなものがあり、取っ手をひねって押し上げると、眩しい光が差し込んできた。真っ白で、何も見えない。


 ギュッと目を閉じ瞬きを幾度か繰り返せば、じきに目は慣れ、まわりの景色がちゃんと見え始める。そこは――――――ひたすら白かった。


 どこかの宮殿か屋敷の、庭園らしいのだが……白く敷き詰められた大理石に砂、ふと横を見ればさほど遠くない場所に、柱に囲まれた休憩所があって、その医師のベンチも白で背の部分に薔薇のレリーフが施されている。

 遠くには、屋根に琥珀色の飾りの乗った、わりと小柄な宮殿がそびえていて、見るものをいざなっていた。


 ……どう考えても、罠っぽい。


「とりあえず、まわりを探索しよう。話はそれからだ」

 そう言って、ぐるりとまわりを見渡した。どこまでも続いていそうな白い地面と乳白色の空。げんなりしながら、宮殿に背を向け、あてずっぽうに足を踏み出した。


 半刻ほどまわりの探索を続けて、結論から言ってしまえば……まったく他に何もなかった。庭園や石柱があるのもこの周辺のみで、あとはひたすら白い地平線が続いているだけで、現実離れしたその世界に、歩いているだけで頭がおかしくなりそうだった。実際目もチカチカしてきたので、目を閉じて休み、再び小さな宮殿へと戻ってくる。


「……入ろう」

 結局こうなるのかと、白亜の門をくぐる。するとそこには、同じような大理石の柱が立ち並び、柱から天井へと、金色の緻密で繊細な飾りとどこかの紋章が描かれ、天井には青空と虹と、天使たちが描かれている。カツ、カツと足音を響かせ廊下の先へ進めば、神官の像だろうか、高位聖職者用のアーモンドを半分に切ったような帽子ミトルを被り、白の法衣に錫を手に持った僧が脇に並んでいた。


 廊下の向こうに半開きの豪奢な扉があり、その雰囲気で直感的に、宝物庫かもしれない、と悟る。


「アル、あの部屋、ひょっとしたら貴重な品々が収納されているかも知れないが……だいたいこういう場合にはどこかに警護の者が……」

その言葉が言い終えるか終えないかのうちに、ちょうど像たちの影に隠れるようにして壁に背をもたせかけていた、白の法衣に身を包んだ男が一歩前に踏み出して止まれ、と警告した。

「ネズミが二匹……妙ですね?報告では三人いると……」

訝しむその姿は、色褪せた茶髪に眼鏡……ってこれは。

「エドウィン……?エドウィンじゃないか!?」

 叫ぶと男は頷き、

「いかにも、私はエドウィン。扉と宝物庫の守護をしています。この先へ進みたいのなら、まず私を倒すことですね」

片手に真っ赤な装飾を施された聖書を抱え、冷笑を浮かべながら宣言した。


 あれ……?


 一瞬ぽかんとしたが、改めて気を取り直し、

「ちょっと待て!何を言ってる……?ええと、ガーディスから、エドウィンが行方不明だとかで、それで、探して協力してもらえと……」

エドウィンは、わかっている、と頷いた。ほっとしたのもつかのま、

「なるほど。やはり私の宝物庫から希少価値のある魔具を盗みにきた、というのですね。許しがたい」

「…………」

話しなんか聞いちゃいなかった。


「シャロン、無駄だよ。エドウィンの表情……僕らが来た時から少しも変っちゃいない。目の焦点も合わないし、ここじゃないどこかを見てる」

アルがため息のように言い、エドウィンは高らかに笑いながら宣言した。


「あなた方がこちらに剣を向けるというのなら、受けて立ちましょう。この扉の番人エドウィンがお相手します」

 炎のフレア、と彼が囁くと、こちらの背後、廊下の奥に朱色の炎が轟々と床から天井を埋め尽くし、退路を塞ぐ。

「ふふふ、美しいでしょう?まだまだこんなものじゃありませんよ」

愉悦の笑みをこぼしながら、エドウィンが赤の聖書をかざすと、脇に立つ神官の像が突如として動き出し、こちらへと襲い掛かってきた。


 なんだこれは……としか言いようのない状況だったが、アルが目だけでどうする、と聞いてきたので、こちらも、ちらっとエドウィンの持っている赤い光を放つ聖書に目線をやって頷いてみせた。アルも頷き返したので、こちらの意図は伝わったようだ。


 ガキィンッ!!


 アルが神官の像の振りかざした錫を剣で受け、払いのける。続いてもう一体が背後から襲うが、この程度、風を使うまでもない。即座にその腕を狙い、剣を叩きつける。


 ボキンッと音を立て、腕は簡単に折れた。ちらりと、随分高そうだけれどいくらぐらいするんだろう……なんて考えたが、まあ気にしないことにした。


「これだけだと思ってもらっては困りますね!地獄の業火よここへ!出でよ、ケルベロス!!」

 炎が床を覆い、巨大な犬の頭が顔を出した。瞬時にアルがその鼻を剣で突き刺し、切り裂く。


 ギャイン!!


 ひどい叫びが聞こえ、アルがさらに喉笛を狙う。同時に、こちらも風を使い、炎を裂いて虚をつかれたようなエドウィンに肉迫し、その手の赤い聖書を、真っ二つに叩き斬った。


 すると炎、像、巨大なケルベロスのすべてが消え、大理石の床には、ただ、エドウィンだけが倒れていた。

・バシル・クック(バジリスク)を倒した強者と思い、少し手を加えてエドウィンを扉の番人に仕立てた選定者のミス。

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