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異郷より。  作者: TKミハル
楽園の夢
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急ぐ旅の道程は 2

 タトルの町は、どうやら品物取引が盛んらしく、朝早くから市場も非常に賑わいを見せていた。

 アルと二人で朝食代わりとなりそうなものを物色していると、果物や野菜、卵などを籠に入れて売る者がいるかと思えば、蜂蜜売り、魚や肉を売る者も行き交って目移りしそうなぐらい品数が多く、もちろん食料品だけでなく、小枝を担いでいる者、安いよ丈夫だよ~と、食器や服の紹介をしながら懸命に道行く人を呼び止める売り子もいる。


 これだけ多くの品物が運ばれているのだから、一つや二つは便乗させてくれそうな馬車がきっとあるはずだ。あの紹介状がうまく効力を発揮してくれればいいが……。


 そんなことを考えながら、一応念のためにと、目についた貸し馬屋もまわってはみたが、ここ最近で急に利用者が増えたらしく、いい馬は出払ってしまっていた。


 買った地図を見ながら入り組んだ街並みを歩き、ギルドの本部を訪れる。そこは、町の案内所のような役割も果たしているのか、立派な看板が上にかかっており、中では、冒険者や傭兵のみではなく、様々な職種の人間がせわしなく訪れ、自分の番が来るのを文句を言いながらも待っていた。


 しばらく待った後に、受付の青年に紹介状のことを話し、首尾を尋ねてみる。

「あ~、ねえさん、こんな田舎の紹介状じゃあほとんど効力なんてありませんよ。それにちょっとタイミング悪かったですねえ。……ほんの数日前、ジレット付近で盗賊の被害が出まして。こっちの商人たちはみんなピリピリしてます。護衛の募集もあるにはあったんですが……昨夜決まってしまいました」

「そうか……他にジレットへなるべく早く着く方法は?」

「それがですね、貸し馬や貸し馬車も最近シーヴァースへ向かう人が増えてどこも引っ張りだこなんですよ。後空いてるとしたら、それ相応の値段を払って高級馬車にでも乗るしか……でも奴らお高いですから、そんな簡単に乗せてくれるかどうか……」

「わかった。ひとまずそちらを当たってみる。邪魔したな」

「ご武運を。まあ、門前払いがおち、でしょうが」


 呆れ顔の青年に高級馬車を扱う所を聞いて地図に書き込むと、その勢いで一件ずつ訪ねてまわることにした。


 こちらが近づき、入ろうとした瞬間に嫌そうな顔をしてきたかと思うと、鼻先で音を立てて扉を閉めたところがあるかと思えば、下働きの男が一応出てきて話を聞くや、「おまえら、鏡持ってるのか?もう一度じっくり姿を確認したらどうだ」と嫌味を言って去っていったり、店の従業員をなんとか呼び止めて馬車に乗せてくれ、というと顔色を変えて首を振りながら、「勘弁してくれ!おまえらみたいなのを乗せたなんて知られたら、俺たちの店誰も来なくなっちまう!」と切実な叫びを上げて瞬く間に逃げていった、なんてのもあった。


 まわりまわって五件目。窓口が広く立派で、かなり手広くやっているらしい店に来た。どうせここも駄目なんじゃないのか、なんて暗い気持ちで入ろうとすると、それまで身なりのいい客と話していた受付の男がそれに気づき、さっと近くの従業員へ指示を出し、その初老の男がこちらへ来た。


「ここは上客専用だ。何か用があるならあっちへ行け」

と、建物の隙間から抜けた、店の裏手を示したので、そちらがわへまわると、こちらにも扉があり、中へ入ったところは倉庫のような質素かつ地味な内装で、三十代半ばぐらいの抜け目なさそうな男が受付っぽい台のところで、労働者風の男に荷運びの指示なんかを出した後、暇そうにあくびをしているのが目に入った。


 そこへ行って、これまでと同じように、すまないが、妹が危険な状態だが空きの便がない、ジレットまで乗せてもらえないだろうか、と話をすると、ぶっ、と男は吹き出し、なぜか爆笑の発作に見舞われたようだった。


 くくくっと笑いながら、「おまえらは馬鹿か」とはっきり言う。

 

「たとえ親が死にそうだろうが、兄弟が大怪我だろうが、高級馬車を使う庶民がどこの世界にいる。身の程をわきまえろ」

「……乗車賃は、払う」

「俺たちの馬車はな、高級客ばっかりだ。ごくたまにだが、貴族も使う。乗せれるかよ」

「そうか……そうだな」

 シャロンは意気消沈した。アルフレッドがなぐさめるようにポンポンと肩を叩く。

「なんだ、おまえら面白いな。……ちょっと待ってろ」

 まだ肩を震わせながら男はどこかへと去っていき、しばらくして戻ってきた。こちらを見てにやにやしながら、

「おい、さっきの話だがな。乗れるかもしれんぞ。昼過ぎの馬車に」

「本当か!?」

「ああ。だがな、きっちり乗車賃は払え。……銀貨にして50。それより一クアル、一銅貨でも安ければこの話はなかったことにしてもらう。さて、払えるかな」

人を食ったような笑みでこちらを見ているが……持ち金は足りる。


 こちらもふっ、と笑い、

「あるに決まってるだろ。……ほぼ手持ち全部だがな」

と半金貨を差し出した。実はまだいくらかあるが、足元を見られないために。


「なんだ、あるのか。つまらねえな」

 舌打ち一つして、本当につまらなそうに男はそれを受け取り、一度奥へ行ってまた戻ってくる。


「絶対に約束は、守ってもらうからな」

「俺は嘘は吐かねえよ。ああ、でもな、一ついい忘れていたが、おまえらが乗るの、荷台だからそのつもりで」

そう言ってまた大口を開けて笑い出した。


 荷台で、銀貨50……。


「あんまり、気にしない方がいい。今は早く着くのが先決じゃないかな」

「ああ、そうだな。気にしないことにする……」

 アルのなぐさめは嬉しいけれど……どうもこの衝撃は、しばらく尾を引きそうだった。

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