急ぐ旅の道程は 1
前日の夕方から、安い塩、干し魚をなるべく買い込み、一時的な豊漁で安価状態が続いている新鮮なロブスターや魚がどかどかと並べられた料理を心ゆくまで堪能したあと、次の早朝にブロスリーと会う。
それからすぐ、港の魚市場へ出て、傷んだ茶髪とよく日に焼けた肌のいかにも漁師といった男を紹介され、「おお、話は聞いとるよ。今荷を積んだとこだから、あんたらもさあ乗った乗った」
なんとも生臭い木箱が大量に積まれた荷馬車の、その荷物の間に乗せられた。
幌の向こう側から、
「じゃあ元気でな。吐くんじゃないぞ」
と笑うブロスリーに、首を傾げながらも座ったまま手を振り返す。
馭者の掛け声とともに荷馬車はスタートしたが……別れの言葉の意味はすぐ理解できた。
積み荷はおそらく干し魚や干しエビなどだろう。秋に入りかけとはいえ、まだ暑い日も多く足が早いから、急ぐのは分かる。だが、
ガッ!ガガガガッ!ガタッ
足場の悪い道を遠慮なく荷馬車は走り、こちらはガタガタ揺れる木箱の隙間で、舌を噛まないようにするのがやっと、というありさま。馬の揺れには慣れているはずだったが、途中での休憩でもほどんど食べる気にもなれず、しゃべる気力もないまま揺られ続けて、丸一日。小さな村ハイムに着く頃にはぐったりと疲れきっていた。
「あれま、大丈夫かい?疲れてるとこ悪いが、次は荷下ろしがあるでよ。さ、降りた降りた」
荷下ろしも手伝い、小屋に限りなく近い宿へ泊まって、また再び積み荷と一緒に馬車へ乗せられる。
これを繰り返すこと三日。セプラという農村を通り過ぎ、ピサン村でまた別の馬車に変わり、さらに四日かかってシャロンたちは夕方、タトルへと辿り着いた。
「せ、世話に……なったな……」
「おうよ。お疲れさん」
町の入り口で荷物検査を受けたのち、タトルへ商売に来たピサン村一番の店の主人と手を振りあって別れ、まずギルドにいって、中央都の情報を仕入れることにした。
アルフレッドは、さすがに若干の疲れはあるものの、わりと平気そうにしている。
それを恨めしく思いつつギルドを探すと、にぎやかな通りの真ん中に、出張所を発見した。酒場を兼ねたそこは、どこのギルドでもそうであるように賑わっていて、傭兵や冒険者が、気の早い奴から酒盛りを始めている。
次第に強まる酒気の中、カウンターすぐ隣の受付のあごひげの親父に呼びかけると、
「おう、まあ一杯飲んでけや」
と言われ、疲れているのも手伝って、そのまま酒を飲むこととなった。
男の他にも女の従業員がいて、あちらこちらと忙しそうに注文を取っている。
そんな様子を横目で見つつカウンター席につき、まずは面白い話はないか、とあれこれ尋ねられ、まあ交換にすることにして聞いたところによれば、中央都では近く豊穣祭が行われる予定のためか、そちらへ向かう人が少なくないのだという。
「まあでも、今回期間が長いらしくてな。急ぐ人もさほどいねえ。みんな物見遊山がてら行くみてえだな。なんでも、今中央都は物には困らないし、華やかだし治安もいいしで人が増えてるらしいぞ」
人が増えてるのに揉め事が少ねえってのは、やっぱよほど上が気合入れてるんだろうな、と笑ってから、呼ばれて向こうへ行く。
「…………」
酒を飲んだら、やっと少しだけ気力が復活した。もうここで夕食もすませ、こちらを見ていたアルの表情に同じものを感じて頷き合う。
もう、後は宿を取ってすぐ寝たい。それだけだった。
とにかく、すぐにでも休みたかったものの、なんとか酒場兼出張所の親父にピサンで書いてもらった紹介状を見せ、明日なるべく早くここを出たいんだが、と尋ねてみた。
「あ~、わかった」
と頷き、親父は奥へと向かい再び戻ってくるとタトルの簡易地図を持ってきてカウンターに広げ、
「本部に連絡しといてやるから、朝寄ってみろ。本部はここだ」
と地図の中央からやや西の丸印を指差し、すぐに仕舞う。
「あ、この地図買うなら半銀貨な」
中央都に関することの情報料がこちらの話と同等だったので、そのまま飲食代と地図代のみを払い、おまけとしていい宿を訊いてからそこを出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
二人でそのまま直で宿へ行っていつもどおり別で部屋を取って荷物を置くと、夜はものすごい速さで過ぎ、あっさり朝がやってきた。