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異郷より。  作者: TKミハル
幕間4
163/369

番外 そんな彼らの日常。

 前の回と続いてますが、一応番外です。以前活動報告で地味に載せたSSを改稿・加筆しました。


 途中、視点がシャロン寄り→ヒューイック寄りへと変わります。

 祝宴も盛り上がりが過ぎて、収集がつかなくなってきた頃。次第に陰っていく日差しに、誰かが、陽の落ちるのを見に行こうぜ、と言い出した。


 それに賛成したいくつかのグループが、酒や肴を持ってぞろぞろと港の方へ移動しだし、海の傍まで来ると思い思いの場所に陣取った。


「陽が沈むな……」


 きらきら鈍く光る銀色の水面みなもに、黄金色の太陽がゆっくりと溶け出していく。それを皆、酒を片手に見守っていた。


 ヒューイックが少し離れたところに座っていた。幾種類かの酒瓶と、一口サイズのぐい飲みは、手に一つ、傍らに一つ。

 アルフレッドとともにその近くにきたシャロンは、声をかけるのも無粋な気がして、同じ方向を見やる。

 沈みゆく陽に照らされて、長旅と嵐でかなりぼろぼろになった船が浮かんでいた。


「あの船……かなり痛んだな」

「まあな」

「確か、アイリッツとかいう奴の船だったんだよな?その、ジークの叔父の……」

 ヒューイックは海を眺め、ゆっくりと杯を傾けながら、ぽつぽつと零す。

「ああ。面白いことが何より好きな奴だからな、あいつは。こう、限りなく自由で……俺は、憧れてた」

「そうか……どんな奴だったんだ?」

 そうシャロンが穏やかに問いかけた。



 ……しまった、口を滑らせた。


 内心後悔に囚われているのを知らず、シャロンは興味津々の眼差しでこちらがじっと答えるのを待っている。


 よし、こうなったら、なるべくいいエピソードを思い出して、この場をなんとかしよう。


 ヒューイックはそう決心すると、記憶を片っ端から引っくり返して、よりよい思い出を探してみることにした――――――。



 あれは、確か出会ってからそれほど経っていない時だった。心身ともに疲れ果て、何をする気力もなく掘っ立て小屋に住んでいた俺の元に、あいつがきて…………。



『ヒュー、やるよ。これ見てちょっとは元気だせ』

ぽいっといびつな土人形(というかぶっちゃけ埴輪)を渡し、返事も待たず――――――もちろん普段から会話らしいものなんてなかったが――――――アイリッツは去っていく。

『……』

 正直いらなかったが無下にもできず、木を簡単に組み立てただけの棚を作ってそこに放っておいた。


 すげない態度にもめげず、アイリッツはそれからもちょくちょく顔を出した。そんなことがしばらく続いたが、ある日、とうとう自ら……話しかけることを決意した。


『ここは、おまえの倉庫じゃない』

『あ、バレた?』

棚はいつのまにか立派な三段型になり、物で溢れかえっていた。



 ――――――駄目だな、これは。


 ヒューイックはその思い出を却下し、再び記憶の片隅をほじくりかえして、なんとか別のものを探し当てる。



 そう、あれは……テスカナータから小舟で西へ三刻、それから北西へ一刻ほどの場所にある洞窟に遺跡があるらしい、と誘われて行った時のことだ。


 入り組んだ洞窟を探索しながら蝙蝠や蛇の変異したような魔物と戦ううちに、徐々に陽は落ち、引き潮から満ち潮へと変わる時刻。このままでは入り口が完全に塞がれる、と、焦りながらも気分をなんとか落ち着かせ、

『おい、そろそろ引き返すぞ』

『何を言ってるんだよヒュー。これからだぞ!?……いいか、やめるのはいつでもできる。でも、お宝はこの時しか手に入らないかもしれないんだ!』

そう、爽やかな笑顔で言ってきた。



 ……バキャッ


 手元のぐい飲みが砕けた。よほど暗い表情をしてたのか、シャロンがおろおろしながら、

「ヒュー、辛いなら無理に話さなくても……」

と話しかけてきたので、いや、と首を振った。その隣でアルフレッドは興味なさそうに勝手に酒瓶を開け、海を眺めている。



 そうだ……船を造る前には、こんなことがあった。


 そいつはいつものようにやってきて、こう宣言した。

『ヒュー、大海原を冒険するのって、憧れるよな』

嫌な予感がした。

『オレたちももっと広い世界で活躍するべきだ。ってことで、船は立派なのを頼んだぞ親友!』

『おい待て。俺が手配するのか……って、くそ、いっちまいやがった』



まあ、渋々ながらも造っている最中にも、船の名前が‘旅立ち丸’とか、‘アイリッツ号’なんてくだらない名前になりそうだったのを阻止したり、すったもんだの挙句、まあ大方完成した。

『やっぱり船長室と来客には、それなりの物が必要だろ』

アイリッツは、どこから集めたのか、高級そうな品々をどっちゃりと置いていく。

どちらかというと、質素な方が好きだったが、無下にもできず、ヒューイックはそれぞれに分け、飾り棚などを配置した。

『って、またもこのパターンか』


 そう、叫んだのを覚えている。



 ヒューイックが俯き加減にじっと考え込んでいるあいだ、シャロンはひどく自分の失言を取り消したい気持ちでいた。


 彼の親友への思いは並大抵のものじゃないはずだ。こんな、生死もわからない、ひょっとしたらもう帰らぬ人となっているかも知れないと、不安になっている時に訊くことじゃなかった……!


 しばらくして、やっとヒューイックは顔を上げた。やや暗い笑みを浮かべ、

「さっきの発言、なかったことにしてくれ」

そうきっぱりと宣言した。

「え、なんで……?」


 その疑問にも、ヒューイックは遠い目をするだけで、もうそのことについては触れることはなかった。

 補足:ヒューイックの両親は人が良く、騙された挙句家も財産もすべてを失い命を絶った。それからは無気力な状態が続いたが、アイリッツの存在もあって、二人で主に悪徳商人などを相手に盗みや諸々を繰り返すことにした。

 そして、そうこうするうちに、彼は騙される人間のあまりの多さに絶望し、善人では駄目だ、俺はこうはならない――――と決意することになる。

 しかし、テスカナータに来て居住を構え、年数が経つうちに次第にまわりから相談を持ち込まれ、元々生真面目な性格のためそれらを放っておけず解決するうちに頼られ、信頼されるようになってきた。

 この時点で彼の“悪人になろう”計画は挫折しているのだが、そのことに本人だけが気づいてない。

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