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異郷より。  作者: TKミハル
『広い海と嵐と魔物と』
161/369

順風、晴天につき

 前回の彼方の海を少し改稿しました。大きな変化ではないです。

 小舟で戻り、下ろされた縄を伝って戻ると、待ち構えていたかのようにあっというまに数十人に囲まれ質問攻めにあった。


 強烈な光の柱が空まで届いていた、だとか、白く光る魚が散らばって遠くへ泳いでいくのを見た、だとか、奇跡だ、だの、いや、不幸の前触れだ、だの、皆好き勝手な憶測をてんでに言い合っている。


 ヒューイックが落ちつけ、と一度大声を出して、静まったのを見計らい、

「魔物が増えた原因は、やはりあの巨大な白鯨だった。その力が大きすぎて、周辺の生き物がその影響を受け、魔物化していたんだ。だが、俺たちの体を張った交渉の末、かの存在は姿を変え、各地へと去っていった。もう、この周辺は大丈夫だ。俺たちも、これで意気揚々と戻れるぞ!!野郎ども、報酬は弾むから、覚悟しとけ!」


 オオォオオオッ!!


 一気に辺りは沸き立ち、やった、と叫ぶ者やらピューピューと指笛を拭くものやらで大変な騒ぎになった。

「なんというか……単純な……」

「まあ、皆が白く光る魚のようなものがあちこちに泳ぎ去ったのを見たっていってたから……。それに拘束時間も長かったし、さすがにもう帰りたいって気持ちが相当占めてる」

「あああ……そうだな」


 空は青く澄んで晴れ渡り、これまでとはうって変わって強力な日差しが肌を焼いてくる。それからジークを船医室に運び入れ、ハリーを見舞うと、顔色は依然よくないながらも、

「やりましたね」

と拳を突き出し、ヒューがおう、と答えて笑いながら拳を突き合わせる。


 船長室へ行くと、そこでは窓を閉めきって薄暗い中にレイノルドが一人、小瓶から薬を取り出して皮膚にしきりに塗りたくりつつ、

「やったな」

と笑顔で声をかけてきた。


「ひょっとして、日焼け対策?」

 シャロンがそう問えば、彼は頷き、室内だというのに照り返しを避けたいと言ってフードを目深に被ってしまった。


 それからわざわざ蝋燭に火を灯して、なんというか、舞台装置は完壁になった。


「怪しいなおい。今から黒ミサでもやるのかよ」

「阿呆か。何を寝ぼけたことを」

 完全に状況を棚に上げている(もしくは気づいていない)レイノルドは、言葉を切り、一度部屋と自分の格好を確認した。


「まあどうでもいいんだそんなことは。こちらもそろそろ出航するから、即席の釣り大会を閉幕するよう伝えてくれ」

「……舵の向きは決まってるのか?」

「太陽が出てるからな。すぐに方位を調べられるさ。やるのは俺じゃないが」

 そうひらひらと手を振った。


「なんで僕にやらせるんだよ。レイの方が腕が立つんだろ。あいつは何やってるんだよ」

 方位を確認する器具を太陽と水平線に合わせながら、ケインがぶつくさ文句を言う。

「レイは船長室に籠もってる。念のため、とかいってたな」

「肝心なところでこれだ……はいはい、今船が向いてるのは限りなく東に近い北東。向かうのは北北西」

無愛想に器具を突き返し、さっさと背を向け去っていく。


「ケインも、ちゃんとスキルはあるんじゃないか」

「ああ。でもやはり兄であるレイノルドの方が知識が豊富なのと……あいつは喧嘩っ早くてもめごとを起こすし、隙を見て楽をしたがるので、雇う側からは敬遠されることが多い」

「なるほどな……楽をしたがるところはレイと同じか」

「だな。ただ、あいつはさりげなく人を使うのがうまい。そして、努力してないように見せて隠れて努力するタイプだ。ケインは……努力しているように、見えてもいないが、してもいないんだなこれが」

 ヒューイックはため息を吐き、

「……まあ、一度興味が向いたものに対する情熱には目を瞠るし、経験を積めばバランスが取れていくような気もするが、そこまでが長そうだ」

と冷静に分析する。


「よくわかってるんだな」

 とシャロンが笑いながら言うと、

「いや、船員の性格ぐらいは掴んでおかないと、何かあったら対処しきれないだろ」

至極真面目に返されてしまった。


 アルフレッドがちょいちょいと腕を引っ張り、

「食事に行こう。釣れた魚がきっと出てる」

「ああ、そうだな」

そう提案したので頷いて、そちらに向かう。


 相変わらず空は青く、風は穏やかだった。あのとき、アドバイスをくれた声は……ニーナだった。でも、ひょっとしたらただの幻聴かも知れない、が、

「……ありがとう」

そう呟いてみた。もちろん、応える声なんてありはしなかったけれども。



 四日ほどして、船が港に着くと、町はお祭りムードで、一行は暖かく迎えられた。どうやら、近隣の魔物の姿が去っただけでなく、大漁が続いたらしい。


 感謝の嵐の中、水夫たちと乗客である冒険者や傭兵一人一人に報酬を渡し、足りなくなると、ヒューイックは後日取りに来い!と叫んでお開きにした。


 そのまま打ち上げをやるというので、大多数が町の広場に向かう中、ヒューイックは少しだけ残り、船に戻って随分質素になった船長室を見渡した。


「リッツ。かなりいろいろあげちまったが……まあ構わないよな」

実は俺はこっちの方が落ち着くんだが……と独りごちてみる。傍から見たら怪しいだろうな、誰もいなくてよかった、なんてどこか冷静に思いながら、

「おまえがこっちにいるのか向こう側にいるのかよくわからねえから、まあどっちにしろ、こう思うことにするよ。また、会おう」

うわ、柄じゃねえな本当に、なんて若干鳥肌が立った腕をさすりながら、ヒューイックはその場を後にした。

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