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異郷より。  作者: TKミハル
『広い海と嵐と魔物と』
154/369

追い風

 戦闘シーン有。

 船の上では、ヒュドラとの戦いがあちこちで起こっていた。ジークは何人かの水夫と一緒に即席の火炎瓶――――――油瓶や壺に布をくっつけただけ――――――を持ってきたが、甲板は蛇の巨体がうねり、戦う者たちの叫び声、駆けまわる足音や斬撃の音はすれど、どうにも辺りの状況が掴めない。


 届けろと言ったってなあ……とぼやきつつ見渡せば、ほどよくマストから降りたロープが目に映り、ジークは瞳を輝かせた。


 一方ケインは、ヒューイックの態度を根に持ち、火薬庫へと足を運んでいた。火薬の中から望みのものをいくつか取り出し、小さな筒に詰めてその場を去る。


 目立たぬようひそかにマストの物見台に登り、片膝をついてその下の動向を窺うと、ちょうど蛇がその身を甲板に乗り出し、うねりながらあちこちに首を伸ばしているところで、そのうちの一つとヒューイックが戦っていた。


 ケインは胸元から持ってきていたボウガンを出し、その矢に火薬と導火線のついた筒を括りつけると、

「今に見てろ……」

そう低く呟いて肩肘をつき、飛び道具を構えてヒューイックの背中を睨みつけた。


「久しぶりだな、強敵と戦うのは」

 アルフレッドが呆れるほどどこか浮き浮きと彼は、蛇と睨み合う。まずアルフレッドが先行して蛇に向かい、その動きで翻弄し隙を見て斬りかかる。


 ガキィッと硬質な音が響き、いったん距離を取りながら、

「……硬い」

「ああ。ヒュドラの皮膚は生半可なものじゃ打ち破れないな。頼むぞ、相棒」

そう斧を掲げ、距離を詰めてその斧を振りかぶるとその刃は大きく蛇の体を傷つけ、勢い余って床をバキィッと叩き壊した。

「………」

「船長、船が壊れます!」

 ハリーの悲鳴にも似た叫びが後ろから聞こえ、

「知るか」

そう返しつつ軽々と斧を振るい、ザシュッザシュッと蛇に致命傷を負わせていく。


 その威勢の良さにアルフレッドはため息をひとつ零し、ここは任せた、と他へ走り去る。ヒューイックは斬っても斬っても再生する蛇と戦いながらも、そろそろ油を持ってくるはずだが、とぐるりと辺りを見回した。


 チャンスだ、と、ケインは心で拳を握り締める。ヒューイックは別の方向を確認し、こちら側には全く気付いていない。深く息を吸い呼吸を整え、彼は慎重に狙い定め、火薬つきボウガンの矢を、打った。


 遅いな。ヒューイックは舌打ちしつつ、蛇が動く気配を察知して向き直ろうとした。その頭のすれすれをボウガンの矢が飛び、蛇の口へと突き刺さる。同時に、中で火薬が爆ぜた。


 バシュバシュッ


 嫌な音を立てて蛇の頭が弾け飛び、その肉片や血が飛び散り、ヒューイックに降り注ぐ。


「やったぜ!ざまーみろ!!」

 ケインは計画通りに事が運び、マストの上で思わずガッツポーズをした。



 矢を跳んできた方向を見れば、物見台の上でこちらを見ている奴がいる。


「ケイン、後で絶対シメる」


 ビチャッと顔に張りついた蛇の脳髄を振り捨て、そう呟いたヒューイックは取り合えず近くの水夫からバケツを奪って海水をかぶると、再び別の蛇頭の元へと走り出した。  


 その時シャロンはマーヤとともに、甲板を注意深く進み、蛇の頭の一つと対峙していた。アイリーンは酒瓶もうないわ~と言って急ぎ船長室の方へ走っていく。

 シャロンがガチッガチッと食いかかるその牙を受け流し、マーヤが脇から斬りかかる。

「くっ、硬いっ、な、この野郎」

「たぶん口内を狙わなきゃ駄目だ!一度下がれ!」

 シャロンが引きつけつつ大きく下がり、風を繰り出そうと蛇が口を開ける瞬間を狙い、剣を構えた。


 わざと隙をつくり蛇を引き寄せ、ちょうどパクリと大口を開けたところで、鋭い風の刃をイメージして勢いよく剣を振りかぶった。


 ずるり。


「なっ……」

 誰の物なのか、床には引き裂かれた上着が落ちており、運悪く踏みつけた彼女のその手元は大きく狂って風の刃はあさっての方向へと飛んでいってしまう。

「おいっ」

 マーヤが焦った声を上げ、近づくのと同時に、倒れつつも体をひねり、なんとか迫っていた蛇の鼻頭を剣先で捕え、続いて横からタイミングよくマーヤもその部分を同じく斬りつける。敏感な場所をやられた蛇はギュイィィと喚きながら一度引き下がりギョロつく眼でこちらを窺った。

「……大丈夫か?」

「いや、えっと……床は充分注意していたはずなんだが」

 心配というよりはむしろ怪訝そうなマーヤにシャロンは冷や汗を流しながら足元のぼろ切れを、邪魔にならない隅へと蹴り上げた。


 その少し前。

「いいか、うまくタイミングを合わせろよ」

 他の場所ではとぐろを巻く蛇を前に、中年の傭兵や冒険者の一団が声をかけあい、そのうち一人が前に進み、

「おい、この蛇野郎!俺たちはな、おまえにやられるほど弱くねえんだよ。悔しかったら来てみやがれ!」

剣を振り回して脅しにかかっていた。


 シャアアアアッ


 挑発に乗ったのかどうか、蛇が首をもたげ襲い来るのを間一髪で躱し、残る者たちが一気に口に剣を突き立てた。同時に、蛇が苦しみながら首を振り、五、六人が一気に跳ね飛ばされていく。


 ちょうとその時、ジークは油瓶を届けるため、ロープを利用して彼らに近づこうとしているところだった。マストから垂れ下がったロープはビュウ、としなり風を切って彼の体を運んでいく。


 しかし、最大限近づいたところで、なぜかそのロープはすっぱりと切れた。油瓶のいくつかは勢いよく飛んでいき、ジークはうわああと悲鳴を上げながらも残りの火炎瓶をしっかりと抱きかかえ落ちていく。その下では剣を口から吐き出し、再生した蛇が、跳ね飛ばした男たちに狙いを定めていたが、ほどよく落ちてくるジークに気づくと、こちらから先にとパックリ口を開けて飲み込もうとする。

「げッ」

 ジークは器用に落ちながら腰の剣を抜き、蛇の舌に突き立てその反動を利用して跳び退った。


「大丈夫かッ」

 そこに一戦終えたらしいヒューイックが来て、蛇に思いきり奇妙な斧を振りかぶる。


 ゴシュッ


 蛇の肉の一部を切り裂き、

「ジーク、油は!」

「ああっと、悪い」

 慌ててジークが懐の着火装置で火をつけ、蛇の傷口へと放り込んだ。燃え盛る蛇の体を尻目に、ヒューイックは次の相手へと向かう。


 別の場所では、いきりたつリューリク、ソーマ、ヒィロがともに蛇と戦い、善戦していた。リューリクは持ち前のスピード、ジャンプ力を生かし、蛇の胴体から頭にしかみつきその眼を切り潰して振りかぶる反動を利用し大きく距離を取る。と、床に転がる油壺を見つけたヒィロがそちらに駆け寄り拾い上げるも、布が濡れていて火炎瓶としては使い物にならず、盛大な舌打ちをした。 

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