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異郷より。  作者: TKミハル
『広い海と嵐と魔物と』
153/369

戦火を揚げろ!

 残酷描写あり。

 太さが人の体ほどもある蛇がいくつも絡み、うねうねと身をくねらしたかと思うと突如として手近な人間へと襲いかかった。


 ぼろ布を引き裂くような悲鳴とともに男が頭から飲み込まれ、近くの仲間が蛇に斬りつけるがものともせずブンッと首で振り払い引きずり倒す。


「オズロッ!くそったれがッ」

「なんだこいつッ刃が立たねえ、やべえぞ」

 なんとか助けようとするも二の足を踏んでいる。


「おい、いったん退けッ」

 ヒューイックが困惑と混乱の騒ぎに負けじと怒鳴り、魔物の元へと走り出したので、シャロンとアルフレッドも後を追う。


 獲物を捕食している首とは別のもう一体が、その頭をもたげ、逃げる者に食いつこうとしたそのあいだに入り、手持ちの奇妙な形の斧でその下顎を斬り飛ばした。


 ギュィィイイイイ


 嫌な声で鳴きながらビッタンビッタンとのたうちまわる蛇頭を横目に腰の抜けたらしい若い水夫の一人と、巻き込まれでもしたのか足を引きずっている冒険者の襟首を引っつかみ、なるべく遠くへと放り投げる。


 ちょうどそこには別の水夫の一団がいて、彼らをさっさと回収し船内へとなるべく手荒にならないよう落とした。


 シャロンは、獲物を丸呑みにして動きの鈍くなった蛇に風を使ったが、硬いのかどうも致命傷を与えられず、そこへアルフレッドが剣をタイミングよく開いた口内から頭蓋へと突き立て振り捨てた。

「……手遅れ」

 苦しむ蛇の口から食いちぎられ出てきた足を一瞥すると、素早く距離を詰め本体へと肉迫する。


 その瞬間、凄まじく嫌な予感がシャロンを襲い、彼女は反射的にアルフレッドを風で薙ぎ倒す。同時に頭蓋を切り裂かれたはずの蛇の中から新しい頭が生まれ、一瞬で彼のいた場所にかぶりついた。


 アルフレッドは倒れた状態から蛇に斬りつけるがはじかれ、そのまま転がって距離を取り、戻ってきた。甲板はところどころ血溜まりができ、叫び声や剣戟の音も相まって地獄絵図と化している。空では黒い鳥たちがおこぼれに預かろうと飛び交っているが、巨大な魔物に恐れをなしているのか近づいては来ない。


 ヒューイックは銛を蛇の本体に撃ちこもうとしていたハリーに手を振り止めさせ、床を叩き何かを汲む仕草で合図してから向き直った。

「ヒュドラか。厄介な」

「……どういうことだ?」

 舌打ちしつつ呟いた彼に、シャロンが問う。

「ヒュドラは再生能力を持つ。斬っても斬っても首が生えてくるから、その傷口を焼く必要がある。おい、ジーク!」

「うわ、なんだよ急に」

 ブロスリーたちとマストの強度などを話してたジークが、慌てて振り向いた。

「あいつらに指示を出してまわれ。ブロスリーもだ。皮膚が硬いなら、柔い場所、口の中などを狙え。斬った後焼くことを忘れるな、と」

「焼くって……どうすんだよ!?船の上だぞ」

「今ハリーに甲板へ海水を撒くよう指示した。弾薬庫から油をありったけ持って来い。火薬は……誰か扱えそうな奴は……」

 ヒューイックがぐるりと見渡すとたまたまはしごを登り、下甲板からちらっと外の様子を見に来たケインと目が合った。しかし呼びかける前に、

「僕は嫌だね」

と言い捨て、即座に下へ戻ろうとするその背中に、

「ケイン。おまえはこのまま鼻つまみ者の役立たずで終わるのか?」

ビシリと厳しい言葉を投げる。が、ケインはこちらを一睨みし、そのまま下へと去っていった。


 ふうと吐いたため息と引き換えに、レイノルドが船長室から姿を現し、

「おい、ヒュー。何かやることがあれば―――――」

「おまえが出てきてどうする。そのまま引き籠もってろ」

 レイノルドは頭、というか意味もなくフードを掻き、黙って素直に戻っていく。


 ヒュドラは体をくねらせシューシューと警戒音を鳴らしながら徐々に船に身を乗り出して来ている。


「さて、どうする?俺は蛇の本体がメインマストに行かないよう叩くが」

「ああ。じゃあ俺も。シャロンは」

 アルフレッドがヒューイックに同意し、話を振ってきたので、

「私は――――――あちこちで転がってる怪我人のフォローをしたい」

「わかった」

 アルフレッドはあっさり頷いて、蛇の進行を止めるため飛び出していく。


「いいのかー?一緒に行かなくて」

 からかうようにヒューイックが尋ね、

「アルが強いってことは誰よりも知ってる。早く行かないと見せ場なくなるんじゃないか?」

シャロンがにっこり笑う。

「それ本人がいるときに言ってやれよ。そっから先の展開が楽しみだ」

 さらに返してにやりと笑ったかと思うと、すぐさまアルフレッドの後を追っていった。


 ヒュドラが別方向に伸ばした首から、他の者は適度に距離をとり、隙を窺っている。ジークやブロスリーを始めとする水夫たちが油を配り、ハリー率いる一団が、滑りやすくなるから気をつけろと叫びつつ甲板に海水を撒く。


 シャロンはそんな中を注意深く歩き、深い傷を負い動けない者の傍にいき、今にも咥え持ち運ぼうとする蛇の眼を切り裂いた。しかし、蛇は一時苦鳴を上げ引き下がるものの、すぐに再生しまた舞い戻ってくる。


 牙を剥く蛇と慎重に刃を交わすシャロンの後ろの怪我人へと、水夫がじりじりと距離を詰め、引きずって運んでいく。


 シャロンは身を躱しつつ、蛇が口を軽く開き、舌を出した瞬間を狙い、剣で突き刺した。そのままねじり、脳天を貫くも、その先が続かない。

「シャロン、どいてッ」

 どこからきたのかアイリーンが叫び、ふふっと笑いながら、

「火酒っていうのは名のとおり、火のつくお酒ッ」

と言いつつ純度の高そうな酒瓶に布を詰めて作った即席の火炎瓶に火をつけ、蛇の口に放り込む。

「待て、それは私のとっておき……あー」

 ジュウジュウと音を立て燃える蛇のかち割られた頭を眺めながら、マーヤが呆然と呟いた。


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