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異郷より。  作者: TKミハル
『広い海と嵐と魔物と』
151/369

夜明けまでの距離

 8月24日改稿。

他の冒険者の担う役割といっても、そう多くはないので、会議はもっぱらどう他の冒険者を動かすかに終始していた。

「結局は日々の鍛練、手を打つとしたら魔物早期発見、討伐時の褒賞か……」

「グループで競わせたらいいんじゃないか?こう、大々的に」

 ジークがそう意見を出すと

「却下。今の状況下では派閥、そして確執が生まれかねない」

と返しヒューイックは、高級品である火つけ道具を手に取った。

「この部屋のものを使うか。どうせ形から入るのが好きな奴のおかげで、調度品も酒も、一級のが揃ってる」

「でも……いいんですか、船長。アイリッツさんが船長室にふさわしいようにとせっせと集めた品々ですが」

「知るか。こんな非常事態だ、許してくれるだろうさ」


 全部出しつくして板張りの部屋にしたら文句は言うかもしれないが。


「褒賞の件は決まりだな。それで、ジーク、おまえは引き続きアルフレッドと見張りに立て。毎夜ごとだ。目を離すんじゃないぞ」

「……ちょっと待った。何さらりと言ってんだよ。オレの睡眠時間は」

「昼寝ればいいじゃねえか」

「いやいや、そんなん続けたら体おかしくなるッつうの。今ただでさえ暑さでやられてきてんのに」

「しょうがない……誰か代わりを立てるのと合わせて乗客・船員から有志を募るか。こちらも報酬が必要だな。おい、レイノルド。適切な値を出しといてくれ」

「ああ、わかった。で、おまえはどうするんだ」

「今までどおり、監督と……そうだな、不満がありあまっている奴らの鍛錬の相手でもしとくか。どっちが上かってことを思い知らせてやる」

 そういいながら不敵に笑う。


 シャロンは近くにいたハリー、ブロスリーに声をひそめつつ、

「ヒューイックの様子、おかしくないか?」

「あ~、相当溜まってたようだからな、限界越えて噴き出しちまったんだろ?」

「いえ、なんだか安心しました。いつもの調子を取り戻したようで」

「……素だとこんななのか、こいつは」

「ええ、まあ」


 そんな三人の呟きを尻目に、ヒューイックの指示は続く。

「アルフレッド、悪いがなるべくまわりを警戒していてくれ。おまえの目の良さは貴重だ」

 アルフレッドが無言で頷き、ジークがわかりやすくむっとした表情を顔に出す。


「レイ、他に話し合っておくべき要件はあるか?」

「ああ、もう無いな」

「じゃあ、各自それぞれ頑張ってくれ。全部終わったら盛大に飲もう。ハリー、ブロスリー、水夫たちに標的と見張りの強化との通達を忘れるな」

「了解!」

「ほいよ」

 威勢のいい返事を聞きながら船長室の外へ出ると、水平線の縁がうっすら白み始めていた。夜が明け、また一日が始まる。少しずつでもいい、何か進展があるようにと願いながら今日も剣の腕を磨くため、甲板に出ることにした。


 年長者に喝を入れられたせいか、いつもと違い甲板に出る人数が多い。しばらくのちにヒューイックも出てきて、

「おい、腕に覚えのある奴はかかってこい。鍛えてやる。ただし、真剣だと打ち合えば刃が欠けるから、俺は棒だが、な」

なんて自信たっぷりに言ったものだから、あっというまに人が集まり、船長に対し一人ないしは二三人で挑んでいく。


「なんだあれは」

「棒術だね」

「そういうことを言ってるんじゃない」


 三人相手に、ヒューイックは棒を振り回していた。その棒は、両端が四角になっており、その部分のみ厚い鉄板で覆われている。


 一人が剣を構えるのに対し彼は重みを確認するかのように棒の両端を上下したかと思うと、振りかぶり勢いよく落とされた剣を流して鍔を叩き、あっさり相手の手から打ち落とすと返す棒でもう一人の顎を打った。

 頭を揺らされ倒れる相手には見向きもせず、最初の相手のみぞおちに棒の先端を叩き込み、続いてかかったもう一人の脇腹を薙ぎ払うと、ぐぇと潰れたような声で呻いたきり三人目も横倒しになる。


「おいおいどうした?もう終わりか?」

 余裕の笑みを見せるヒューイックに、今度は俺らだ、と次の一団が剣を構える。再び、鍛錬という名の、一方的な戦闘が始まった。


「かなり、強かったんだな」

「まあ、そりゃあね。何せあの叔父貴と魔物退治やダンジョン巡りしていた時期もあったぐらいなんだぜ?当然だよ」

 なぜかジークが自慢げに胸を張る。


「じゃあ、こっちも負けじと頑張るか」

「いいよ。シャロンと手合せできるなんて……楽しいなあ」

 にやにやと笑いながらジークはそう呟くが、ちらとアルを見ておどけたように首をすくませた。そのアルフレッドは、しばらく海を眺め、レイノルドのところへ行ってくる、と離れてしまった。


 ジークとの戦いは気が抜けず、ついついその突拍子もない動きに翻弄されそうになるのをなんとか立て直し、何度か繰り出す短剣(女性を傷つけるのは主義に反するとかでなぜか鞘つき)を打ち、剣の柄を腹に叩き込む。

「ぐっ……っと、シャロンってば、手加減手加減」

 ジークがひとっ跳びに間合いを測り距離を取るのに対し、さらに追い打ちをかけ、腰をぐっと落とした低い位置から短剣を打ち落としその勢いのまま剣を喉元へまっすぐ突き上げる。


「っぶね」

 距離が近い。ジークが紙一重で剣先を躱し、腰から鎖を抜き放った。その鎖はそのままこちらの喉元に絡みつく。

 気がつくと、左手で鎖が締まるのを防ぎ、もう片方の手でジークの首ぎりぎりに剣を突きつけていた。


 勝っ、た。


 自分の鼓動がドクドクと速い。

「ちぇっ、負けちまったか」

 ジークはおどけたように言って、短剣を拾い上げ、鎖とともにしまう。

「鎖、か……変わってるな」

「そうかな?船では重宝するんだぜ。命綱の代わりにするときもあれば、死体を回収するのにも使えるし」

 そう言って、ジークはまたいつものように軽く笑い声を立てた。



 ヒューイックはシャロンたちの鍛錬のあいだにも挑戦者をばたばたと薙ぎ倒し、辺りは苦渋に満ちた声と甲板に転がる男たちでいっぱいになった。


「なんだ、ここまでか。おい、大口叩いてる暇があったらいつでも来いよ。……もっとも、また床とお友達になるだけ、だろうが」

 獰猛な笑みを閃かせ、余裕に満ちた足取りでその場を去る彼の後ろ姿を、ある者は睨みつけ、ある者は呆けたように見送っていた。


「どうやら山一つ越えたようだな。やっぱ若いと伸び代も大きくて羨ましいわー」

 人だかりから離れて様子を見ていたデュサクが感心したように言い、鍛錬を終え、若干の疲れを感じていたシャロンは、それをたまたま耳にしつい反論したくなった。

「ただ暴れてるだけじゃないか……」

「あ~、まあ嬢ちゃんにはわからんかもな」

 こちらを見てなぜだか気まずそうになり、言葉をにごしたので思わず、

「待った。そんなこというなら話してくれればいいじゃないか。何がどうして、船長のヒューイックはあんなことをしたんだ」

そう詰問するとデュサクは、まだ迷っていたが、やがて、

「嬢ちゃんはさ、この船に足りないものってえのが、わかるか?」

と問い返してきた。


「足りないもの?うーん……まとまり、か?」

「まあ、そういっちゃあそうだな…………足りないのは、秩序だよ」

 デュサクはまわりの、悔しそうな顔で仲間に呼びかけ鍛錬を始める者や、辺りのボロ板を憎い相手――――おそらくヒューイックだろうが――――――に見立ててやたら剣で斬りつける者などを眺めつつ、

「女にはわかりにくいことだろうが、俺たちがこういった集団の中で最初に考えるこたぁただ一つ。相手が自分より強いか弱いかだけだ。どうやったらそいつに勝てるのか、とかな」

「え」

 シャロンはぽかんと口を開け、無意識に、いや、もっと他に考えることあるだろう?と呟いた。


「男ってのはそういう生き物なんだよ。どこにだって山があり、常にそのトップに立とうと考える。これまでこの船にはボスがいなかった。そりゃ秩序が乱れもするさ」

「いや、規律とかは……」

「あんなもん誰が従うかよ。自分がルールって奴らばっかだぜ。せいぜいで様子見の最初ぐらいだな」

「待った。じゃあ、ひょっとしてケインの件は」

「あれはただのパフォーマンスだな。言うこと聞かないとこうなるぞっていう。だがな、肝心の船長様が動かねえんじゃ、誰だってお飾りだと思うだろうが」

「…………」

 デュサクは頭を掻き、

「本当はあいつは、上に立ちたくなかったんだろうよ。その気持ちはわからなくもない。だが、それじゃあ収まらないところまで来ちまった。まあ……この旅を始めた時点で覚悟決めとけって話だがな」

「……今回のことは」

「まず自分の強さを見せつけ、統率を取る。まあ、船長を倒してボスになりたいって奴はどんどん来るだろうが、それはしょうがねえ。というより無駄に日和ってるあいつらに目標ができて一石二鳥じゃねえか。いや、適度に体動かせて余分な力の発散にもなるから、一石三鳥だな」

そう言うと朗らかに笑い、ああ腹減ったな、飯にするか、などと言って下甲板へと去っていった。


 それを見送るシャロンは、その行動の理由がわかるようなわからないような、複雑な思いが胸に湧き上がるのを感じていた。

 蛇足的補足ですが、ヒューイックは絶対にこんなことを自分から言ったりはしません。むしろ悪党と思われる方を希望。

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