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異郷より。  作者: TKミハル
『広い海と嵐と魔物と』
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兆し

 第三者視点です。

 夜。アルフレッドとジークはともに見張り台に立っていた。


「だからさー、もっとこう、押せ押せでいいんだって。彼女結構流されやすい性格だろ?それなりの雰囲気作って持ち込んじまえば……」

 ジークが熱意を込めて話している最中、ふとアルフレッドが、暗い海の向こうを見やる。


「おい、どうした?なんかあったのか?」

「いや……何かが遠くで光った」

「は?」

 ジークも続けて同じ方向を見やる。しかしそこには、ただ黒々とした波間が広がっているだけだった。今は寄せる音も穏やかで、特に問題はない。


「また見えたら教えてくれよな。で、話の続きなんだけどさ、」

「…………」

 夜は長い上に、時折見回りの水夫が通りかかるだけで、二人を止めるものは誰も、いなかった。



 その次の日は、また運が悪かった。空気は暑く、船内はまるで蒸し風呂のようになり、もはや何度目になるかわからない魔物の襲撃。戦闘自体はすぐに終わったが、これまで燻り続けていた傭兵や冒険者たちは不満は爆発し、ヒューイックとレイノルドが姿を見せても、収まるどころか熱を帯び、船の乗客全体を包むように広まっていく。


 中には無言で様子を窺っている一団もいるが、それはほんの一部でしかなく、大多数は文句を口々に言いながら、前の二人を睨みつけている。


「おい、いつになったらこの旅は終わるんだ」

「豆やら、細切れの野菜のシチューやら、せこい食事ばかり出しやがって。命がけで戦ってる俺たちの身にもなれっ」

「だいたい、魔物発生の原因を突き止めるとかなんとかいって、目星なんかついてやしないだろ。ただここらをうろうろしてるだけじゃねえか!!」

 声は次第に高まり、とどまらない。


「……原因の目星ならついている」

 ヒューイックが低く大きく告げた。本来ならこれで収まるはずの群衆は、一度だけ静まったものの、嘘だ、との誰かの叫びに再燃し、

「そうだ、嘘に決まってる!もしそうならなぜそいつを調べねえんだ!!」

「俺たちを騙して、返さねえ気だな!!」


 殺っちまえ!船長をすげ替えろ!!


 怒号は収まらず、興奮状態の罵る声の中、ヒューイックは無言で、自分の斧を握り締め、持ち上げかけた、その時。



「いい加減にしねえか!!」


 衝突を阻止する重低音が、ビリビリと鼓膜を震わせた。


 それまで静観していた一団のうちの一人、デュサクが


「さっきから聞いてりゃギャーギャー喚きやがって。おまえらそれでも名の知れた冒険者かよ。その原因がわからねえならわからねえで、なんで自分たちで見つけようとしない。この中で誰か一人でも、状況をもっと詳しく知りたいと尋ねたり、海の見張り番に志願したりした奴はいたのかよ」


 静まり返った男たちの中から、そういうお前はどうなんだ、との声が上がる。デュサクはそれにも不敵に笑って厳つい肩をひょいとすくめてみせ、

「ああ、もちろんこれからやるに決まってるじゃねえか。少なくとも、何もせず難癖つけて貶すだけよりかはずっといい。原因の見当はついてるんだろ?さすがに、何も無しで宣言したわけじゃないよな」

「……ああ。アルフレッドが、正体不明の、光るモノを目撃したから、それを追うつもりだった」

 ヒューイックが緊張のためにか、ややかすれた声で返答をし、レイノルドも厳しい顔を崩さず頷いた。


「おい、てめえら!!聞いただろうが。おそらく、またこのことに対する指示が出る。わかったら各自、鍛錬などそれぞれできることをしてろや。腰抜けと呼ばれたくないならな」


 集まっていた男たちは、めいめいが渋い顔をして、あからさまに舌打ちをする奴もいたものの、やがてぞろぞろとそれぞれのすべきことをするために散っていった。

 なりゆきを見守っていたリューリクたちと、ケインも、こちらを多少気にしつつ、離れていく。


 その場で暴動に備えていた、シャロン、アルフレッド、ジーク、そしてハリーとブロスリー率いる水夫たちは、ほっと肩の力を抜いた。


「ま、あれだ。秘密主義が過ぎんだよ。少人数で抱え込む必要はねえんだ。もっと俺らを信用しろ」

 ヒューイックとレイノルドに対し、デュサクがそう言うと、その仲間たちも笑い、

「そうそう。年は無駄に食ってっから人を騙くらかすのが得意なんだよな」

「もちろんだ。悪巧みなら負けねえ……って、おかしいだろが!!こんな善人捕まえて、よく言うぜ」

 誰がだよ誰が、とバシバシ叩きあったり拳を当てるその姿には、年を経た者の余裕と、お互いへの信頼が見え隠れしていて、そんな彼らに対し、ヒューイックは震える瞼をごまかしながら頭を下げた。

「……ありがとう」


 その夕方は、デュサクの助言に従い、少しだけ豪華な夕食と酒が配られた。戦いで消耗した体を癒し、明日への英気を養っていく。


「というわけで、だ。アルフレッドが見かけたという光を追う。協力してくれ、絶対にこの旅、無駄に終わらせたりはしたくない」

 夜、船長室へ呼ばれたシャロン、アルフレッド、ジーク、ハリーとブロスリーは、ヒューイックからいつになく力強い宣言を受け、各々の役割をどうするのか、そして、船の上にいる者たちに、鍛錬を続けてもらうならより効率よくできる方法や、見張りを増やすなら誰にどう頼むのか、など、今の状況にあったやり方を決めるため、遅くまで話し合うこととなった。

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