道中平和につき
グレンタールを出てから、一ヶ月が経った。同行者のいる旅は、シャロンが思ったほどには気を使うことも、いらだちを覚えることもなく、順調に過ぎていく。
「よし、ここで休憩にしよう」
道から少し入り込んだ小さなスペース。前に誰かが利用したのか焚火の跡や、大きめの石まである。
声をかけるとアルフレッドは素直に頷き、傍らの石に座った。
背負っていたカバンを下ろし、こちらをじっと見ている彼の前でカサカサのパンと塩の塊、水を取り出すと、目に見えて残念そうな表情になった。
「……しょうがないだろ。次の町へ行くまでは、これで我慢して――――」
言葉途中で、遠くの茂みからガサ、と物音がした、と感じたら突然アルフレッドが小型ナイフを出し、音の方へ向かって投げた。
ザザザッと草が沈み、そちらへ向かった彼はやがて一頭の野ウサギを手に帰ってくる。
「はい、これ」
手早く血抜きをして皮を剥ぎこちらへ渡してくるのはいいんだが……。
「おまえの獲物だから、おまえが食えばいいじゃないか」
そう言うと、不思議そうな顔になる。
「……シャロンが調理した方が美味しい」
ぶっ、と水を吹きそうになった。
「そういうことは、恋人ができたらそいつに言え」
小さく首を傾げるアルフレッド。どうもわかっていなさそうな雰囲気を醸し出している。
「……もういい」
低く呟いて、火打石と小枝とで火をつけ、野ウサギの肉に塩を振って、近くに落ちていた大きめの葉でくるんで湿らせて蒸し焼きにした。
骨に苦心して二つに分け、一方を渡すと嬉しそうにそれを頬張った。狩人をしていたからなのか、アルフレッドはこうして道中に獲物を見つけて狩ることがよくある。
全部、私に渡してくるから何かと思えば……。シャロンは心中でため息を吐いた。
「そういえば背、少し伸びたな」
前は同じぐらいだった目線が、親指の長さ分ぐらい高くなり、剣も引きずることがなくなった。
「きっと、栄養が足りてなかったんだと思う」
分けたパンも野ウサギもぺろりとすべて平らげて、満足そうにアルフレッドは笑う。
「おまえ、本当によく食うよな。まあ、食った分がちゃんと糧になってるならそれでいいか……」
空気は冷たいが、日差しは暖かく、ほどよい気候である。北の町での春の始めは王都の晩春であり、これから先はだんだんと暑くなっていくはずだ。
今度の日照り月で十八か。いや、もう適齢期なんて関係ないな。そこまで考えて、ふとシャロンは疑問を口に出した。
「そういえば、アルはいつが誕生日なんだ?」
「……凍え月の末」
「わ、私の方が年上じゃないか。日照り月の始めだからもうすぐだし」
「特に問題ないと思うけど」
アルフレッドが冷静に突っ込む。
「そ、そうだな。まあ、そのとおりだ」
弟、のようなものか?いや、ちょっと無理がありすぎるな……と呟くシャロンを尻目に、アルフレッドは剣を取って素振りをすることにした。
ちょうど150本でやっと彼女は物思いから覚め、そろそろ行こうか、とぎこちなく切り出したのだった。