表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異郷より。  作者: TKミハル
『広い海と嵐と魔物と』
148/369

流される

 それはない、と言い切ることはできず、シャロンは黙り込む。もし暴動が起こったらどうなるかはわからない。

「まあ、そうなったらなったで、相手すべてをボコるだけだけどな」

 酒の小瓶から一口ごくりと飲んでマーヤはあっさり宣言した。

「うう……マーヤ~頼んだよ~。船の上じゃ逃げるとこないんだからさー」

 アイラが若干涙目になってすがりつく。ええと……

「二人は、長いのか?」

「え?ええと……かれこれ二年ぐらいになるかなあ……。ほら、マーヤってとっつきにくいでしょ?なんかこう、遠巻きにされんだよねえ。反対にあたしは一人だと変なのから声かけられること多くって。ほら、あのジークとかさあ」

 女だからって嘗めて欲しくないよねえ、といい、

「ふふふ……今度来たら覚えとけよ男ども……!!」

何か嫌なことでも思い出したのか、その笑みが黒い。


 と、そんな話の最中に、ノックの音がして、シャロンいるか?とジークがドア越しに声をかけた。

「あ~……今行く……」

 二人の物問いたげな視線が突き刺さる中、シャロンがドアを開けると、ジークが室内の異様な雰囲気と酒気に気圧されつつも、

「船長が至急来てくれって呼んでる」

用件を告げたが、刺さる視線は強さを増しただけだった。


「まったく、真昼間から酒盛りかよ……」

 向かう途中の呆れたような問いかけに、自分はあまり飲んでない、だとか、他にすることあるのかとか、いくつかの反論が浮かんだが、藪蛇も嫌なので黙っていた。


 部屋には、表情の晴れないヒューイックとレイノルドがいて、シャロンとジークを認めると、ドアを閉めろと合図をして向き直った。

「わざわざ、悪いな。実は……シャロンにやってほしいことがある」

 ヒューイックが真剣な表情で、

「レイとも相談したんだが……それしか方法はない、と。おまけに他に頼める相手もいないからな」

「………何、を、しろと」

 シャロンの脳裏に先ほどの会話が蘇り、背筋が寒くなった。いや、それはない、はずだ。


 無意識にアルフレッドの姿を探したが、彼はいない。というか、なんだか自分のその行動にダメージを受けた。いやいや、別に頼ってるとかじゃないからな。


「すまないが……その剣を使って、できるだけこのまわりに立ち込める霧を払ってくれないか?」

「え、なんだ、そんなことか」

 ほっと息を吐く。変な前振りが長すぎだ!


 その返答にヒューイックが逆にびっくりしたように、

「おい、いいのか?力を使えば、それだけ疲弊する。それに……」

「それぐらいなら大丈夫だ。まさか倒れるまで続けさせるつもりもないんだろう?適度に休憩を挟めばいい」

「そうか。助かる」

 彼は安堵して肩の力を抜いた。

「いや、シャロンがジークやケインぐらいの性格だったら気軽に頼めたんだが」

「?」

「とにかく、時間が惜しい。すぐに来てくれ」

 ヒューイックがレイと先導し、舳先へと立つ。

「いいか、なるべく広範囲だ。めいっぱいやってくれ」

「了解」

 剣を抜き放ち、霧に覆われた前に立つ。集中して、振りかぶる。風が巻き起こり、辺りの霧がサアッと遠退いた。

「すごいな。もっと先、周辺の岩礁が見渡せるぐらいまで、いけるか?」

 レイの言葉に、さらに風の力を強めると、次第に海上と、岩が現れ始める。


「おい!霧が晴れ始めたぞ!」

 誰かの叫び声が上がり、甲板にわらわらと人が集まり、徐々にこちらへと……。

「シャロン、まだだ!もう少し先まで晴らさないと、船が危ない!!」

「いや、うん、わかってるんだが」


 さらに二三回剣を振ったところで、舳先は完全に人だかりができ、すげー、だの、おお、あれが魔具の力か……!!などと感心する声が近くで聞こえ……非常にいたたまれない。

「はいはい、これ以上近づくと危ないよ。見てる人はちゃんと離れて離れて」

 ジークがブロスリーなど数人の水夫たちと観光案内人よろしく、賑わう冒険者&傭兵の男たちを整理し始めた。

「……」

 なんの罰ゲームだこれは。

 シャロンは内心涙しつつ、霧が周辺から姿を消すまで、剣を振るい続けた。


 しばらく後。周辺の霧は晴れ、船は順調に進み始めたが、シャロンの心には以前として暗雲が居座っていた。


「おし、次はあそこに並べられた中の、右から三番目の木人形をやって見せてくれ」

「…………」

 なぜこんなことになったんだろう、と嘆きながらも、髭面の男に請われたとおり、並べられた中からその人形だけを風で真っ二つにしてみせる。おおおっとどよめきが上がり、別の男が、

「今度は誰かの頭の上に板を乗せろ!勇気のある奴はいないか!?」

そう言いだして、彼らの無邪気な要求は続く。


 何十回とやってみせたところで、もういい加減にしろ!と怒鳴って、その場の人波をくぐり抜け、船の端へと逃げてきた。

 いつのまにかついてきていたらしいアルが、憮然としてこちらを見下ろした。

「いくら僕が気をつけていても、君がそれを選んだら意味がないよ。もっとまわりを見ないと。常に状況は変化し、それに沿って思惑も変わる。……しばらくはシャロンがイケニエのまま、だろうね」

「イケニエ……」


 嫌な響きだ。いやむしろ、この場合は道化じゃないのか?


 シャロンはやっとこの段階になって、ヒューイックとレイノルドの思惑を、理解した。乗客の鬱憤を晴らせる何か。それはきっと、シャロンじゃなくても構わなかっただろうが……アルの言うとおり、意図せず自分で選んでしまった道だった。




 ヒューイックたちもいろいろ考えてるよ、という話。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ