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異郷より。  作者: TKミハル
『広い海と嵐と魔物と』
145/369

乱戦

 戦闘シーン、流血描写あり。あと、第三者視点です。

 始めに動いたのはヒューイックだった。たまたま近くにいたジークに向けて怒鳴り、それを受けて彼は慌てて走り出す。


 うるさいほど羽音を立て集まった黒い海鳥は、蒼褪めて振りまわされた腕にもまったく動じず男をつつき、彼は血塗ちまみれになってふらふら体勢を崩し、船の外へと落ちていく。

 と同時に間一髪駆けつけたジークが海鳥を牽制し、三叉に分かれた鉤つき鎖を投げ、そのベルトに引っかけ、ギリギリでバシャバシャと血に集まる魚の餌になるのを防いだが、そこに鳥の群れが再び襲いかかる。


「おい水だ水!」

 水夫の何人かが殺菌と匂い消しを兼ねてバケツの海水を血だらけの男にかけたため、一度海鳥たちは離れたものの、まだ匂いがするのかぐるぐると船の周辺を飛び交っている。

 ジークと水夫たちが協力し、急ぎ下甲板へとけが人を運び入れていく。


 ドスッ!


 側面から何か大きなものがぶつかる鈍い音が聞こえ、近場にいた者がちらりと海面を窺えば、凄まじいスピードで大きなヒレを持つ何かが近づいてくるのが見えた。


「うひゃー、フカだよフカ」

「あいつは臭い。食べることも、皮を剥ぎ取ることもできやしない」

 マーヤとアイリーンが冷静にコメントするその先では、鳥と戦う者たちに動揺が走り、

「落ちつけ、船はそう簡単にやられはしない!今はまわりを警戒しろ!」

そうヒューイックが叫んだことで、幾分かは落ち着いた。

 威勢よく雄叫びをあげ、剣を抜いて襲撃に備える男たち。それを嘲笑うかのように、ザパアッと海面を飛び出した大鮫が手すりを突き破り、突き立てられる剣にも構わず乗組員の一人の腕を咬みちぎりズルズルッと甲板を進み再び海の中へ飛び込こもうとしたところで、ざっくりと喉元をアルフレッドに斬られ、もんどりうって転がった。


 その隙を狙う海鳥を、シャロンは剣を使いその風ではたき落とす。

「えっ、と」

 ヒューイックは先を越され斧を構え突っ込もうとしたポーズのままで固まったが、すぐ気を取り直して腕をなくした男を、さらに群がろうとした海鳥から引き剥がし仲間の元へ放り投げた。

「……なんだ、今の」

 唖然とする者、傷ついた男を励まし、隅へ引きずっていく一団など、三者三様だったが、

「急げ!他のを引き寄せる前に大鮫の死骸を捨てろ!!」

 下甲板から騒ぎを聞きつけ、上がってきたハリーが他の水夫に指示を出すが、しかし、同種の血の匂いに興奮し勢いづいたのか次々と大鮫が甲板に飛び込み、海鳥たちの襲撃も相まって混戦の様相を呈してきた。


 目の前に意表を突くような動きで出現する鳥の魔物、巨体をくねらせる大鮫。誰もが自分自身を叱咤しながら戦う中でも、大きめの剣を振り回し魔物に致命傷を与えていくアルフレッドと、隣で露払いをするシャロンは別格で、次々と後ろに死骸の山を築いていく。


「俺の出る幕ねえな……」

 斧を引っさげたままぼやくヒューイックに、

「動け、船長。形だけでもいいからなんかしとけ」

一番周囲が見渡しやすく、船の縁から距離もあって安全な船長室の上の、はしご近くでレイノルドが突っ込んだ。

 

 ドスッ


 衝撃に再び船体が揺れる。今度はそれだけでなく、やや左に傾ぐ格好となり、何人かは足を滑らせまいとぐっと下に力を込める。


 ドスッドスッドスッと長い足を突き刺しながら、見上げるほどもある高足蜘蛛にも似た奇妙な生物が船の脇腹からぞろぞろと這い上がり、甲板を四つの複眼で睥睨する。手近な獲物―である水夫の一人に思いがけない速さで足を持ち上げ、振り下ろしたので、ギリギリ避けた者はもちろん、他の皆も急ぎ距離を取り、慎重にその様子を窺う。


 この状況で下から現れたケインは、面倒くさそうに魔物と距離をとり、手近な場所に腰掛けた。その姿を認めた何人かがパッと駆け寄り、具合はもういいのか?などと訊いている。


「うわ、すげえ、でけえ!」

 場違いな声を上げ、輝かんばかりの眼差しでリューリクが叫び、嬉々として走り出す。

「おい手柄を全部取られる前にオレたちも行くぞ!」

 ヒィロがソーマに声をかけると、あの一件から多くに受け入れられ、良くも悪くも人を惹きつけるケインとは裏腹に、怖れていたように疎まれはしなかったものの、“血塗れの戦士(笑)”“噴出男”などと不名誉なあだ名をつけられ、呼ばれてきたソーマも、見返すチャンスと闘志を漲らせて高足の魔物へと向かう。


 シャロンとアルフレッドは、あらかた鮫が片付いたので、シャロンは怪我人の回収にいき、アルフレッドはそのまま動き回る蜘蛛のような魔物目掛けて肉迫し、足を斬りつけたが、ガキィッと硬質な音を立てて弾かれたので一度飛び退り距離を取る。


 リューリクは数羽の海鳥を剣で払い、一足跳びに高足蜘蛛のような魔物へ近づくと、足の関節に狙いを定め、数回斬りつけた。


 キィィイイイイイ


 変な唸り声(?)を上げて、高足が威嚇し、足を振り上げた。同時にアルフレッド、ソーマとヒィロが足を斬りつけ、大きくバランスを崩させる。


 その隙を逃さず、リューリクがぴょいぴょいっと曲がる足に飛び乗り、登って毛むくじゃらの体にある目に剣を突き立てた。


 キィイイイ

 

 ブシュ、と紫色の液体が飛び散り、高足の魔物が体勢を崩し倒れ込む。それにあわせて狙い違わず、アルフレッドが中心を突き刺した。

「ちぇッ」

 リューリクはふてくされたが、すぐに次の個体に狙いをつけ、足を狙い斬りつけていく。匂いに誘われたのか、再び海鳥が集まり出し、絶妙なタイミングで隙を狙い、海へ落とそうと襲ってくる。

「ははははッ死ねッ」

 リューリクはだんだん興奮してきたのか、目はぎらぎらと輝き、動きが次第に早くなり、辺り構わず剣を振り回すので、他の者は巻き込まれないよう避けるのがやっと、という状況。

 そのまま駆けて追いすがった蜘蛛型魔物と斬り結びながら笑い、急所を狙い襲いくる鳥の魔物に逆に噛みつき、喉を食い破りペッと吐き出した。


「化け物だ……」

 その嬉々とした様子と疲れを知らぬ姿に、まわりは完全に引いている。


 アルフレッドもしばらくしてコツを掴んだらしく、魔物の足をうまく使って体に飛び乗り、串刺しにして倒れる前に跳び退る、という芸当をやってのけている。


 その様子を眺めつつ、シャロンは別の方から這い上がってきた一匹に苦戦する者を助け、その鋭い爪と足の境目を斬り捨てた。


 少しずつ減る魔物を見ていたヒューイックは、二三言レイノルドと打ち合わせをし、すぐに押される者たちのフォローへ回る。

「おいケイン!見てないで手伝え!」

「嫌だね」

 あっさり断ってケインがいずこかへ去る。


「ちっ」

 ヒューイックは斧で魔物の硬い足をゴキッと薙ぎ払い、下から掬うように投げてその体を両断した。残念ながらまわりは逃げるのに忙しく、その雄姿を目撃した者はいなかったが。


 誘いから逃げてきたケインの前では、ソーマが他と微妙に色の違う魔物の足を払い、ヒィロが礫を投げて魔物の眼を潰してふらついたところに、リューリクが双剣で攻撃を仕掛ける、という見事な連携を見せている。


 倒すまであと一歩、というところで、魔物が毛だらけの体の中央をぽっかりと開いた。


 ケインは直感的に近くにいたヒィロの足を払い、自身も横へ飛び退る。その瞬間ビュビュビュッと中から腕ほどもある針が飛び出し、彼らのいた場所を薙いでいった。

「……」

 もろに足払いを食らい背中を打ち付けたヒィロが、文句を言うに言えず複雑な表情のまま睨んできたので、それを鼻で笑い、手近な海鳥をナイフで切り伏せた。

 本当なら対魔物戦で華々しくヒューイックが活躍し、頼れる船長をプロデュ-スするはずだったのに……シャロンとアルフレッドが思いがけず強かった、レイノルドの誤算。

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