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異郷より。  作者: TKミハル
『広い海と嵐と魔物と』
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待ちの時間

 若干の下ネタ注意。あと、想像力豊かな人は食事時に読まない方がいいかも知れません。

日が沈みしばらくすると、甲板に出ていた男たちが下へ降りてきて騒がしくなり、青年たちの集まる小部屋ではケインが、

「面白いだろ。これはこうやって握って隠し込んで使うんだ」

遠巻きにする他のメンバーに構わずリューリクに、鉤爪に似たバグナクを見せつつ武器自慢なんてうすら寒いことをしていたが、やがてそれらをしまうとにわかに立ち上がった。


「そろそろ寝る。寝てる間に襲ったりしたら殺すよ」

 そう言って板壁を蹴り、上に取り付けられたカンテラのフックに捕まると、器用にハンモックヘ足を伸ばし移ってそのまま寝転んだ。


 誰が襲うってんだ自意識過剰だろ、ばーか。


 そんなことを心で呟き、壁にもたれたまま膝を立て剣を抱えたアルフレッドを見やるが、どうやらそのままの姿勢で寝るらしい。

「おい、例のヤツやろうぜ」

 ソーヤとリューリク、ヒィロは酒を飲みながら『富と愚者』をすることにしたらしく、さっそく賭け金を真ん中にカードを広げている。


 同じ種類のカードを先に集めた者が勝ち、という単純なゲームだが今はやる気になれなかったので、こちらも早々と寝ることにした。ハンモック用の帆布は床に転がっていたが、今は海も穏やかで多少揺れるだけなので敷布にして。


 日の出前に目を覚まし、まだ眠っているらしき他のメンバーはそのままにジークは部屋を出た。

 途端に酒気と誰かがやらかしたのか嘔吐の匂いが混じり合い飛び込んできたので思わず鼻を摘み、ランタンに火を灯すと、転がる酔っ払いを引っかけないよう注意しつつ甲板に出ると、そこではすでに何人かの水夫たちが掃除や道具の点検を行っていて、

「おい坊主、暇なら手伝えや。小便台の掃除があるぞ」

「そうだぞジーク。今ならたっぷりオマケつきだ」

からかいの声がかかったので、拳を振り上げておく。


 風は生ぬるく、次第に勢いを増している。

 遙か上のマストの見張り台では、鳶色巻き毛の水夫フェストがいて、こちらに気づくと手を振ってきた。


 やがて夜が明けると、巻いていた帆が下ろされ、水夫たちは自分の持ち場へ分かれていき、やがてアルフレッドが姿を現した。

「……風がぬるい」

「ああ。もうすぐ嵐が来る。おそらくどこかでやり過ごすんだとは思うんだが……」

 いつになく真面目にジークが言うと、アルフレッドは頷き、

「シャロンの様子を見てくる」

と去っていった。

「あいつも大概だなあ……」

と呆れるジークを残して。



 頭でゴンゴンと鐘が鳴り響いていた。シャロンがどうにかこうにか体を起こすと、その鐘の音は、ノックの音へと変わる。

「シャロン、ちょっといい?」

「あー、アル?今開ける……」

 適当に上掛布を取り、ひとまず体に巻いて錠を開ける。

「……いったい、なんのようで……」

「……!!」

 開けると同時に、アルは硬直し、しばらくそのままでいたが、やがてバタンと勢いよくドアが閉まった。バタバタと足音が遠ざかっていく。

「あれ。あ~、まずったかな……ま、いいや」

 シャロンは改めて鍵をかけ直し、下着に上掛けを巻きつけた姿のままベッドに倒れ込み、

「うう……頭が痛い……」

そのまま夢の世界の住人となった。


 朝の早いうちに打ち合わせをしようとメンバーを呼び集めていたヒューイックは、妙に疲れた様子のアルフレッドを見つけ、ちょうどいいと声をかけた。

「おい、アルじゃないか。今から話し合いをするんだが……あれ、シャロンは近くにいないのか。まあとにかく船長室に来いよ」

 船長室の扉を開けると、アルフレッドがぽつりと、

「シャロンは……大分酔ってたみたいだった」

こぼしたので、思いっきり顔をしかめ、

「ああ、酔っただあ!?まったく、これからどうする。嵐が来たらこんなもんじゃないぞ。おおい、誰か香草入りのワインを持っていってやれ。あれは船酔いによく効く」

「……いや、そうじゃなくて」

 そこでジークがぷっと吹き出し、

「ヒュー、シャロンはきっと二日酔いだよ。いやーこれチャンスかも。いつもと違う無防備な姿が見られたりして」

心なしかいそいそと船長室を出ようとして、アルフレッドにすねを蹴られ跳び上がった。


「……さて、気を取り直して、だ。集まってもらったのは他でもない。まもなく嵐がきそうなんで、ここらでやりすごそうってことになった。まだ魔物も出没していないし、場所としてはちょうどいいだろう」

 そのやりとりを尻目に、船長であるヒューイックが海図を広げ、話を戻そうと口火を切った。

 バグナク……鉤つきナックル。主に鉤爪部分に毒などを塗って使う暗器。

 『富と愚者』……5枚カードを配り、順番にいらないものを捨て、捨てた枚数を山から取って同じ種類のものを5枚先に集めた者の勝ち。ただし愚者のカードが出たら一度その場に手持ちをすべて捨てて取り直し、というカードゲーム。


〈蛇足的補足〉

 庶民は寝るとき、パジャマはなく、服は汚れているので大抵ベッドの中では下着姿になります。

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