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異郷より。  作者: TKミハル
『広い海と嵐と魔物と』
134/369

それぞれの役どころ

今回短めです。最初ヒューイック視点。

『よお。相変わらず暗い家で、暗い面してんな。もう半年経つってのに』

『…………何しに来た』

『いや、別に』

『…………』


『こんなクソみたいな暮らししてないで、外に出ろよ。おまえこのままだと海フーサ以下だぞ』

『……』

『あれ、フーサ知らないのか。海の浅瀬によくいる蛭の太ったみたいな……』

『……帰れ』



 明け方、机の前で少しうとうとしていたらしい。くだらないことを思い出した。部屋の中あちこちに酒瓶が転がり、ブロスリーの盛大ないびきと、それにうなされているハリーの呻き声が聞こえてくる。


 あいつは、本当におかしな奴だった。梁から首吊った両親を見つけて半年、その頃からリッツはすでにこそ泥の真似をしていて、ちょくちょく何しに来たのかわからない言葉を投げては帰っていった。


 気に入ったものはそれが何であろうと誰のものであろうと手に入れるが、それがお世辞にも趣味のいいといえない人形だったり、ただの本だったりと、まったく価値基準崩壊してんじゃないかと思わせるものばかりな奴で。

「あっさり行方不明になりやがって」

 毒づいて机の脚を軽く蹴ったが、誰もその呟きを聞く者はいなかった。




 早朝。シャロンたち三人が荷物を持って待ち合わせ場所に行くと、すでにそこには多くの人――――――といっても見送りも含めて数百人前後――――――がいて、港付近の家五つ分はある三つマストのカーチェス号の前で出航を待っていた。


「おお、シャロンに、アル。ついでにジークも」

 耳を塞ぎたくなるほどの喧騒の中、ブロスリーがこちらを見つけて負けじと大声で手を振ってくる。

「ブロスリー、おはよう。ヒューイックたちは?」

 ついでかよ、と突っ込むジークに構わず、近づいて尋ねると、あそこにいる、と逆光に眩しそうにして船の前、木箱を積んだらしい高台の上を指差した。


「皆、聞いてくれ」

 ヒューイックのよく通る声に、うるさかった周りが少しずつ静まっていく。ほぼ全員が注目したところで、彼は口火を切った。


「とうとう出航の時がやってきた。これだけの人数がここに集まったのは、競泳をするためでも、このテスカナータで夏季に行われる競船観戦のためでもない」

 ここでどっと笑いがおき、手を振って静まらせてから、

「戦いに赴くため、英雄になるためだ。……いま、この町は大きな危機に瀕している。必ずやこの怪異の原因を突き止め、朗報を持ち帰ろう。俺たちの勇気が、今試されているのだ!」


 オオオオオォと怒号のような歓声が響き、一気に場が沸き立った。


「もちろん成功の暁には、相応の報酬が商会から支払われる。……ついては、ともに旅する航海士と、船医を紹介する」

 ヒューイックはそう言って隣の人物に壇上に上がるよう指示し、

「航海士レイノルド・ウィーヴァー。そして、船医サウル・ギブソンだ」

 灰色の巻き毛と髭がもじゃもじゃとした、赤いスカーフの船医はともかく、レイノルドが上に立つと、途端にどよめきが広がった。

「レイノルドだ……」

「ふん、まだらの航海士か」

 賞賛から揶揄まで様々な声が上がったが、表だって異を唱えるものはいない。


「もはや出航準備は整った。心構えのできた者から順次乗り込んでくれ。この先には、激しい航海と、栄誉が待っているのだから」


 改めて巻き起こった歓声を受け、ヒューイックは壇上から下り、ここからは見えなくなった。しかし、近づき遠目に見た姿は、レイやハリーと打ち合わせをしたり、あれこれと船員に指示をして忙しそうにしていたので、挨拶は後回しにすることにした。


「あ、ねえねえマーヤ、あたしたちの他にも女の子がいるよっ、ほら、あそこ」

 歩いてると弾むような声で、皮の胸当てをした少女が栗毛の髪を肩口で跳ねさせ、こちらを指差してくる。

「お、君も行くの?何て名前?僕は、ジークフリードっていうんだ。こっちのはシャロンにアルフレッド」

「よろしく」

「……どうも」

 会釈をすると、好奇心いっぱいのきらきらした眼差しで、

「アイリーンだよ。こっちはマティルダ」

紹介された方は珍しい黒髪を短く後ろで一括りにしている傭兵っぽい女性で、眼光鋭くこちらを見た。


 じっとアルフレッドを見つめ、

「いい体つきをしている。今度、手合せ願いたい」

言うだけ言って踵を返し、さっさと船へ向かった。

「あー、待ってよう。興味ないの?オンナノコだよ?あたしら入れて三人しかいないんだよ!?」

「ない」


 慌ただしく二人が去り、続いて後ろから、剣士風の男がふらふらと歩いてきたので、慌てて道を開ける。

「おおっと、ごめん」

 腰に双剣を差し、起きたままどこか遠くを見ていまいち視点の定まらないその男が行くと、後ろから、

「おい、リュー待て。俺がまだ準備してないだろ」

「そうだよ。まだ時間あるんだから、のんびりすればいいじゃん。なあ」

 今度は濃い金髪、切れ長の目をした剣士と、垂れ目で焦げ茶髪の、大振りの剣を装備した男が追いかけていく。


 次第に船へ集まった男たちが次々と乗り込んでいくが、通りすがった少女の言うとおりそこに女性の姿はなく、本当に三人だけなのか、と、薄々予想はしていたが、暗鬱たる気分になった。


 最後まで残っていたヒューイックとレイノルドに声をかけ、船と埠頭とを繋ぐ渡り板を使ってともに船内に入ると、船はいくつもの層に分かれ、中は意外な広さがあった。

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